国家安全保障戦略など3文書改定に関する政府の有識者会議がまとめた提言の原案が判明しました。
それによると、歴代政権が違憲としてきた敵基地攻撃能力の保有は「抑止力の維持・向上のために不可欠」「今後5年を念頭に十分な数のミサイルを装備すべき」と明記し、軍拡の財源に関しては「幅広い税目による国民負担が必要」と増税を掲げました。しかし法人税には「成長と分配の好循環の実現に向けた企業努力に水を差すことのないようにすべき」と“配慮”を示したうえで、防衛省以外の予算も軍事力強化に振り分ける「総合防衛費」も提唱しました。
まことに政府にとっては至れり尽くせりの「提言」ですが、違憲の文書と言われる3文書をここまで肯定し持ち上げるとは・・・憲法との整合性をどう考えたのでしょうか。まさに軍拡推進者の提言以外のものではなく、この一体どこに学識経験があるというのでしょうか。防衛省がそういうメンバーを選択したからとしか考えられません。
併せて JBress 掲載の北村 淳氏(軍事社会学者)による記事:「日本に必要な、『戦闘に勝利する』の前に『軍事紛争を避ける』という思考」を紹介します。そのなかで北村氏は、軍事組織は軍事攻撃や軍事衝突が勃発した段階を起点にしてそれにどう対応して勝利するか、そのための軍備を整えておくことが必要最低限の任務であるが、政府や国会(や言論界)は「軍事紛争を避けるための戦略」を議論し策定することが義務であると述べています。これこそが憲法9条の精神に他なりません。
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政府有識者会議提言の原案判明 敵基地攻撃能力「不可欠」
軍拡財源「幅広く国民が負担」
しんぶん赤旗 2022年11月18日
年末の国家安全保障戦略など3文書改定に関する政府の有識者会議がまとめた提言の原案が判明しました。歴代政権が違憲としてきた「反撃能力」=敵基地攻撃能力の保有は「抑止力の維持・向上のために不可欠だ」と明記。軍事費増額の財源に関しては「幅広い税目による国民負担が必要だ」として増税を掲げました。21日の第4回会合で岸田文雄首相に提示し、3文書改定に反映させる考えです。暮らしと平和・憲法破壊の大軍拡は許されません。
原案は、「反撃能力」として、国産ミサイルの改良に加え、外国製ミサイルの購入などにより「今後5年を念頭に十分な数のミサイルを装備すべきだ」と提起。政府は米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークの購入を検討しています。
台湾有事などを念頭に、南西諸島を中心に「特定重要空港・港湾」を設定。自衛隊による活用の強化も明記しました。
財源を巡っては「防衛力の抜本的強化には、安定した財源確保が基本だ」と指摘。歳出改革を優先すべきだとしつつも、「足らざる部分は国民全体で負担することが重要だ。国債に依存することがあってはならない」と主張する一方、法人税には「成長と分配の好循環の実現に向けた企業努力に水を差すことのないよう議論を深めるべきだ」と“配慮”を示しました。
さらに、防衛省以外の予算も軍事力強化に振り分ける「総合防衛費」も提唱。各年度の概算要求で「特別な要望枠」を設けるなど、国家財政における軍事の優先度を大幅に高める考えを示しました。
また、「縦割りを打破し、政府と大学、民間が一体となって防衛力の強化につながる研究開発を進める」と明記し、大学の軍事研究動員を加速します。
「防衛装備移転三原則」の緩和による武器輸出の促進も盛り込みました。
日本に必要な、「戦闘に勝利する」の前に「軍事紛争を避ける」という思考
軍事組織の義務と政府・国会・言論界の義務の違いとは
北村 淳 JBress 2022.11.17
軍事社会学者
「新聞通信調査会」の調査報告書(「第15回メディアに関する全国世論調査(2022年)報告書」)によると、「日本が他国から軍事攻撃を受ける不安をどれくらい感じるか?」との質問に対して、「とても不安を感じる」18.8%、「どちらかといえば不安を感じる」57.8%、「どちらかといえば不安を感じない」19.6%、「まったく不安を感じない」2.6%であった。すなわち、およそ4分の3の人々は不安を感じている状況だ。
同じく「中国が台湾を軍事的に攻撃するような事態になった場合・・・自衛隊が米軍とともに戦う」ことに「賛成」7.8%、「どちらかといえば賛成」14.7%、「どちらかといえば反対」35.9%、「反対」38.3%であった。要するに、およそ4分の3の人々は台湾への軍事支援には反対している。
台湾への中国軍の侵攻に警戒を強めている米軍関係者たちは、“同盟国”であり台湾と中国に隣接している日本の人々の多くが、自国周辺の軍事情勢に危機感を高めている一方で、隣国台湾への軍事的支援には極めて消極的であるという世論調査の結果に危惧の念を抱いている。
なぜならば、台湾を巡っての米中軍事対決には、自衛隊の出動が欠かせないと考えられているからだ。
上記の世論調査における質問は、ウクライナ情勢に関する項目の中に位置しており、ウクライナ戦争に関連する5つの質問に引き続いて問いかけられている。したがって回答者は、「核戦力を含む強大な軍事力を有するロシアが、弱小軍事力しか持たないウクライナに突如として侵攻した」という単純化された“他国への軍事攻撃”のイメージを最初に植え付けられてしまうであろう。
そのうえで、「日本がロシア以上の強大な軍事力を有する中国(あるいは核戦力を有し日本海や日本列島上空越えのミサイル試射を繰り返している北朝鮮、または日本と領土紛争中でありウクライナに侵攻しているロシア)から、ある日突然軍事攻撃を受ける」という事態を想定させてしまうことになるわけで、まさに誘導的設問ということになる。
軍事組織は「戦闘に勝利する」ことが任務
上記の世論調査に限ったことではなく、本年(2022年)2月下旬にロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、中国による台湾侵攻が差し迫っているとのアメリカにおける危惧の高まりも相まって、日本では「日本が外敵、とりわけ中国から軍事攻撃を受ける」というシナリオが盛んに取り沙汰されるようになっている。
たしかに、アメリカ軍や自衛隊といった軍事組織は、このようなシナリオを幾通りも策定して、外敵による軍事攻撃が開始された場合に対処すべく準備や訓練を推し進めておかねばならない。なぜならば、いかなる軍事組織にとっても、外敵により攻撃が行われた場合、あるいは政府によって軍事紛争へ投入された場合などには、戦闘に勝利することが任務であるからだ。
したがって、軍事組織は軍事攻撃や軍事衝突が勃発した段階からの様々なシナリオを策定し検討して、防衛策、すなわち外敵に勝利する戦略を生み出し軍備を整え訓練を重ねておくことが必要最低限の義務であり任務であるということになる。
政府や国会、言論界の義務は?
しかしながら、政府や国会はもとより言論界(メディアも含む)などは、軍事紛争が勃発した段階から議論を始めるべきではない。
軍事組織とは違い、それ以前の段階、すなわち軍事紛争をいかにして発生させないように仕向けるのか? あるいは日本から軍事攻撃の矛先を逸らせるのか? に関する戦略をひねり出す議論を尽くす必要がある。
なぜなら、政府や国会や言論界は「軍事紛争を避けるための戦略」を議論し策定することが義務であり、軍事組織は「軍事紛争を避けるための戦略」が失敗した段階からスタートする「迎撃や反撃のための戦略や態勢」を用意するのが義務だからだ。
ところが、日本政府や国会それに大手メディアなどは、ウクライナ戦争で潤っている軍需産業と一心同体のアメリカ政府が煽り立てている「迫りくる東アジアでの軍事紛争」といったシナリオを真に受けて騒ぎ立て、○○の一つ覚えのごとく「日米同盟の強化」を叫んで、アメリカから超高額兵器を調達するために、その多くが投入される国防予算を増額させようとしている始末である。
政府や国会そして言論界は、軍事組織と違い、まずは「いかにすれば中国による対日軍事行動を躱(ひるがえ)すことができるのか? いかにすれば中国による台湾軍事攻撃を回避させることができるのか?」といった「軍事紛争を避けるための戦略」を論ずる義務がある。