ついにアベノミクスのまやかしが可視化される事態になりました。言うまでもなくそれは無傷で脱出する道はあり得ないことを覚悟させるもので、その最終的事態をいつどういう形で迎えるべきかをこそを政治家たるもの考えなくてはならないのですが、果たして岸田政権は考えているのでしょうか、とてもそんな風には見えません。
アベノミクスを始めるに当たっては、「マネタリーベースを増やすことで経済が回りインフレに向かう」というのが基本的な考え方だった筈ですが、それ自体が間違いだったのでした。
この指摘も早い段階で上がっていましたが、安部・黒田コンビは一切の見直しをしませんでした(マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」)。
結果的に議論の余地なく誤っていたのですが、やはりキチンとした検証は必要です。
そのことを早くから見抜いていた高野孟氏が、「岸田政権が『新しい資本主義』に進むためにはアベノミクスの総括が不可欠だ」とする記事を出しました。この点は疎かにするべきではありません。
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永田町の裏を読む 高野孟
岸田政権が「新しい資本主義」に進むためにはアベノミクスの総括が不可欠だ
高野孟 日刊ゲンダイ 2022/11/03
石破茂元自民党幹事長が10月24日の内外情勢調査会での講演の中で「アベノミクス」について、「マネタリーベースを増やせば経済が回るというのは本当だったか、きちんと検証が必要な時だ」と語ったという。声を上げたのは偉いとは思うが、あまりに遅すぎるのではないか。
それを言い出したご本人は2年2カ月前に首相を降り、4カ月前には命を落としていて、今ごろ言っても犬の遠吠えにしかならない。なぜ安倍が現役の時に正面切って論争を挑み、政争に持ち込まなかったのか。そこに石破という人の覇気のなさが透けて見える。
はばかりながら本欄は、アベノミクスが発動された当初から、日銀がマネーをじゃぶじゃぶにすれば人々が勘違いして消費に走り景気が上向くというのは幼稚な「お呪い経済学」で、そんなものが成り立つわけがないことを理論面から指摘すると共に、実際にマネーは日銀の構内から一向に外に流れ出ずフン詰まり状態になっていることを数字を挙げて実体面から論証してきた。
もう一度記せば、アベノミクスが始まった2013年3月に135兆円だったマネタリーベースは21年8月までに約5倍の657兆円に増えた。
そのやり方は、日銀が市中銀行から国債を買い取り、その代金を各銀行が日銀内に設ける当座預金に振り込む形をとるが、そこにマネーを置いておいてもゼロないしマイナス金利しか付かないので、各銀行はいたたまれずにそこから引き出して貸出先を見つけるだろうと想定された。
ところが、そもそも日本は人口減少社会に突入して実需が縮小し始めていて資金の需要もない。そのため各銀行の日銀当座預金は同じ期間に47兆円から542兆円と、500兆円近くに膨らみ、つまりマネーはほとんど日銀構内から外へ出ていかなかったのである。
実需が動かないので、意図的に円安に導いてトヨタなど輸出比率が高い大企業の見せかけの利益を大きくして株高を演出し、景気が上向いているかのフリをした。そうやって政府・日銀が国債と為替と株式の3大市場を操作して国民と世界をだまそうとしたのだが、やっぱりだましきれなかったというのが結末である。
岸田政権はその安倍政権の犯罪的行為を暴かなければ、「新しい資本主義」に進むことなどできはしない。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。