2022年11月29日火曜日

29- 「円安」 実質過去50年間で最も安い水準にある意味(東洋経済)

 東洋経済オンラインにリチャード・カッツによる ~ (円は)実質過去50年間で最も安い水準にある意味」という記事が載りました。経済学の知識がないと十分には分かり兼ねる内容ですが、10年近く継続しているアベノミクスが如何に日本の経済を根本からダメにしたかは良く知ることができます。
 そうかといって今さら金利を上昇させれば中小企業は軒並み倒産に追い込まれるし・・・で、予想された通り日本はいま身動きが出来ない状態にあります。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「円安」で起こっている日本人が知りたくないこと 実質過去50年間で最も安い水準にある意味
          リチャード・カッツ  東洋経済オンライン 2022年11月24日
短期的には、アメリカのインフレ率急落を祈ることが、超円安に対処するための日本の唯一の選択肢かもしれない。しかし、長期的には、日本企業の競争力を根本的に強化しなければならない。なぜなら、それが「実質」円安の根本原因だからである(「実質」円の定義と経済的意義は後述する)。円安は、日本企業が国際市場で元気をなくしているから起きているのだ。
まず、短期的な話をしよう。この1年半、円安の唯一最大の要因は、アメリカの金利と日本の金利の差である。そして、金利の上昇は、アメリカの高インフレに対するアメリカの武器である。日米金利差が大きければ大きいほど、日本からアメリカへの資金流入が増え、円安が進む。
逆に、11月10日に一時、1ドル=146円から138円まで急激にドル高になったように、アメリカのインフレ率が下がれば、アメリカの金利が下がり、円高になる。つまり、アメリカのインフレ率の数値は、日本銀行がどうこうするよりも、はるかに円に対して大きな影響を与えるのである。









 (出所:米ウォールストリート・ジャーナル紙をもとに筆者作成)© 東洋経済オンライン

金利を上げればゾンビ企業が次々破綻する
日本銀行が円高になるように金利を上げるべきだという人がいる。しかし、四半世紀にわたるゼロ金利に近い状態が、日本の企業や政府を低金利中毒にしてしまった。現在、銀行融資の17%が0.25%以下、37%が0.5%以下の金利で行われている
その結果、現在支払い能力があると錯覚している多くのゾンビ企業は、金利上昇を強いられると突然債務危機に直面することになる。要するに、日銀が日米金利差3.5~4%を縮めるほど金利を上げるには、経済がもろすぎるのである。
もし金利差だけが円安の理由なら、インフレと金利が正常に戻れば円は反発する可能性がある。しかし、歴史的な円安は、日本の基礎的競争力の劇的な劣化を反映したものでもある。

      実質実効為替レート(出所)日本銀行 © 東洋経済オンライン
前述の通り、実質実効為替レートは過去50年間で最も安い水準にある。実質実効為替レートとは、日本の貿易相手国すべてに対する円のレートを、日本とそれ以外の国の物価動向の違いによって調整したものである。
なぜそれが重要なのか、説明しよう。
まず、実質実効為替レートは、日本の輸出企業が海外の顧客に請求できる価格を測るものである。円安になると、日本企業はよほど安い価格でないと輸出ができなくなる。品質や革新的な機能によるプレミアム価格を要求することができなくなるのだ。
さらに悪いことに、国際競争力のあるスマートフォンのような必需品を十分に生産することができなくなっている。同時に、実質的な円安は、日本の消費者や中小企業が、食品やエネルギーといった輸入集約型の製品に対して、より高い価格を支払わなければならないことを意味している。
実際、円安は進行しており、金利差がある場合、10~20年前に比べて現在は20ポイント程度円安になっている。つまり、仮に金利差が2ポイントに戻ったとしても、2000年〜2012年の円/ドルレートは100円前後であったのに対して、現在は120円前後である。

円安になっても日本企業の競争力は低下
最も心配なのは、円安になっても、日本企業の競争力が低下していることだ。かつて日本は、今よりずっと円高だった時代にも慢性的な貿易黒字を享受していた。
しかし、この10年以上、日本は慢性的な貿易赤字に苦しんでいる。この10年間、実質円レートは1994年から2012年の間よりも30%安くなっているにもかかわらず、である。日本企業は、加速するランニングマシーンの上で衰弱した人のようなもので、どんどん速く走ってみても、ついていくのが難しいのである。
エレクトロニクスのようなかつてのスーパースター産業でさえ、今や慢性的な赤字に陥っている。エレクトロニクスは輸出が減り、輸入が増える。2000年当時、日本の電機メーカーは7兆円の貿易黒字を計上しており、これはGDPの1.3%に相当する額だった。それが2018年には1.2兆円の貿易赤字に転落した。
さらに、これらの企業は、コストの低い他国で生産しても競争することが困難になっている。2008年から2020年にかけて、世界の電子機器売上高は40%急増したにもかかわらず、日本の電子機器ハードウェアメーカー上位10社は、いずれもその間に世界売上高が低迷している。さらに、2010年から2020年にかけて、日本のエレクトロニクス企業の世界総売上高は30%も急落した。
円安は日本経済の病巣の症状であるだけでなく、病巣を悪化させる。日銀は、円安が日本に純益をもたらすと主張するが、それは間違いである。これはゴルディロックスの原則で、弱すぎる通貨は強すぎる通貨と同じくらいダメージを与えるというものだ。日本の経済学者の多くは、この問題に関して日銀の意見に反対している。
一方で、円安は日本の輸出とGDPに以前ほど貢献していない。日本の実質(価格調整後)貿易収支の改善による実質GDP成長率への寄与は、最近の平均で年率0.1%と、誤差程度のわずかなものである。これは、円高だった数十年前と比較しても、けっして高くはない。
一方、円安は実質賃金や消費者の購買力、中小企業の収益力を著しく低下させている。それは、輸入集約的な食料とエネルギーの大幅な値上げを引き起こすからだ。
過去18カ月間、そして過去10年間の総物価上昇の9割は、食料とエネルギーに起因している。その他の経済分野の物価は、2012年から2022年までの10年間で、わずか2%しか上昇していない。

外国の生産者により多くのお金を払うように
これは、日銀が生み出そうとして失敗した健全な2%のインフレとはほど遠いものである。輸入品による物価上昇は、日本の家計から外国の生産者に所得を移転させる。また、日本の家計から日本の多国籍企業へも間接的に所得を移転する。
後者の仕組みはこうだ。日本の消費者は、自分の所得の多くを海外の生産者に支払う。その一部は、日本の多国籍企業に還元される。なぜなら、多国籍企業はより多く輸出することができ、海外の関連会社で得た利益は本国へ送金される際に、より多くの円を生み出すからである。
円安は、賃金抑制や消費税増税と相まって、2019年の価格調整済み家計消費(コロナ禍前)が2013年より1%低く、現在は2013年より2.6%低くなっている理由の一部である。戦後を通じて、これほど長期にわたって家計消費が落ち込んだことは過去にない。
日本の生産性・革新性の底上げを行い、日本企業の国際競争力を高める改革が必要である。円ショックは警鐘を鳴らしている。問題は、政策立案者がこの警鐘を本当に聞き入れ、先見の明のある日本の専門家が提案した多くの有益な提案を最終的に採用できるかどうかである。