2015年3月3日火曜日

憲法改正、環境権・緊急事態条項で実績を狙うのが自民の作戦

 自民党の改憲構想は、まずは各党の賛同が見込まれる「環境権」創設などで実績を作った上で、9条をはじめ「本丸」と位置付ける条文を順次改正していく段取りです。
 各党との協議で優先するテーマとしては、環境権、緊急事態条項、財政規律に関する規定の三つが挙げられています。
 いうまでもなく安倍政権の本音はその後に予定している9条の変更 ⇒ 国防軍の創設にあるのですが、そのためにも「改憲を一度経験することで、国民に慣れてもらう必要がある」という作戦です。ネット上では「お前たちはヤクの売人なのか」という皮肉も浴びせられています。
 
 自民党にとってのネックは参院では同党の勢力が半数に満たず、公明党や、改憲で協力が期待できる維新の党などを加えても3分の2に届かないことで、当初、共産、社民両党を除く各党と共通の改憲試案策定を目指し、3月にも協議をスタートさせたい考えでしたが、民主党の岡田克也代表は「首相と改憲を議論するのは非常に危ない」と協力を否定し、公明党からも賛同が得られていません。
 もしも来年夏の参院選後に3分の2の賛成が得られる見通しになれば、第1弾の憲法改正の国会発議に踏み切ることになります。
 
 ところで「環境権」は兎も角として、「緊急事態条項(=国家緊急権)」は決して抵抗の少ない軽い事項ではありません。
 緊急事態条項は東日本大震災の翌年の憲法記念日に、森本敏氏らが「憲法に不備があったから震災の救援や復興が遅れた強調してクローズアップされましたが復興が遅れている真の理由は政権の熱意のなさと未熟さによるもので、憲法上の不備によるものではありません。
 政府は震災対応を口実にしていますが、日弁連 災害復興支援委員会 副委員長の津久井進弁護士によれば、震災への対応は現行の極めて精緻な「災害対策基本法」で十分であるということです
※ 2015年2月21日 「国家緊急権」創設=改憲 の危険性 
 
 緊急事態条項の真の目的は、有事の際に国民の権利を制限することにあり、例えば戦争の開始に当たって戦争反対する人を弾圧排除することができるようにするものです。
 実際に1923年9月1日の関東大震災では「戒厳令」が敷かれ、その中で4日~5日には亀戸警察と対立していた自警団員4名が軍により殺され、社会主義者の川合義虎、平沢計七ら10名が亀戸警察署に捕らえられ、やはり軍により刺殺された事件(以上 亀戸事件)や、16日には無政府主義者の大杉栄・伊藤野枝夫妻が憲兵により逮捕・殺害(甘粕事件)されるなどしました。亀戸事件はその後戒厳令下の適正な軍の行動」であるとして不問に付されました。
 
 こうした陰惨な歴史を持つ緊急事態条項が、何らの問題意識も持たずに手軽に導入されていい筈がありません。
 2000参院憲法調査会に、米国からベアテ・シロタ・ゴードンさんを参考人として招致した際に自民党久世公堯議員が「危機等において、公共の福祉、安全確保のために個人の権利が大きく制約されることも想定されるが・・・」と尋ねたのに対して、ゴードンさんは「人権をカットするということは非常に危ないので、憲法を改正するのではなく」、「ほかの法律にインタープリテーション(翻訳)すればよいのではないか」(要旨)と答えています。
 
註. 「財政規律に関する規定」も同様であり、必要であれば法律を制定すれば済むことです。それをなぜわざわざ憲法に盛り込もうとするのでしょうか。
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憲法改正、9条は後回し=環境・緊急事態で実績狙う-自民
時事通信 2015年2月28日
 安倍晋三首相が宿願とする憲法改正に向けた自民党の構想が固まってきた。まずは各党の賛同が見込まれる「環境権」創設などで実績を作った上で、9条をはじめ「本丸」と位置付ける条文を順次改正していく段取り。来年夏の参院選後に第1弾の国会発議を目指すが、野党の警戒感も強く、思惑通り進むかは不透明だ。
 
 自民党は26日、昨年末の衆院選後初めての憲法改正推進本部の会合を開いた。船田元・本部長は、今月上旬に首相と会い、最初の発議は2016年参院選後とする方針で一致したことを説明。「今国会から、いよいよ憲法改正の中身の議論を鋭意進めていく」と宣言した。
 船田氏は各党との協議で優先するテーマとして、環境権と、大規模災害などに備える緊急事態条項、財政規律に関する規定の三つを列挙。出席者からは「改憲を一度経験することで、国民に慣れてもらう必要がある」との意見が出た。
 また、船田氏は前文や9条、衆参両院でそれぞれ「3分の2以上の賛成」とされる発議要件を定めた96条などを第2弾以降に改正すべき重点項目に挙げ、「改憲勢力」の確保を前提に、一定期間内に実現を目指す方針も示した。
 自民党が最初の発議を次期参院選後とするのは、参院では同党の勢力が半数に満たず、公明党や、改憲で協力が期待できる維新の党などを加えても3分の2に届かないためだ。まずは参院選で安定的な改憲勢力を確保しようという思惑がある。
 
 自民党は当初、選挙権年齢の「18歳以上」への引き下げで連携した、共産、社民両党を除く各党と共通の改憲試案策定を目指し、3月にも協議をスタートさせたい考えだった。しかし、1月に就任した民主党の岡田克也代表は「首相と改憲を議論するのは非常に危ない」と協力に否定的。公明党の賛同も得られていない。このため、衆参両院の憲法審査会での議論を通じて世論の理解を得ていく「正攻法」への転換を余儀なくされた。