自民、公明両党は20日、「安全保障法制整備の具体的な方向性について」に正式合意しました。自衛隊が海外に派遣されるケースが大幅に広がり、派遣先の制約も外されました。
公明党が、海外派遣のケースに対して歯止めを求めた経過は窺えますが、結果としての到達点はことごとく曖昧な表現に留まっています。
首相個人の憲法9条から遠く離れた「自衛隊を海外に派遣したい」、「場合によっては戦争も辞さない」という思いが、これほどまでに明瞭な形で法改正案としてまとまろうとしているのは異常なことです。
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安保法制:与党骨格合意 「歯止め策」積み残し
毎日新聞 2015年03月20日
◇自公対立点 曖昧な表現
与党が20日に合意した安全保障関連法案の骨格は、国会の関与や自衛隊派遣の要件など、自公両党の隔たりが残る課題も多く、4月中旬以降に再開される与党協議の課題となる。自民党の高村正彦副総裁は20日の与党協議会で「一応の決着だが、あくまでも途中経過だ」と強調。公明党は「法案審査が最後の関門」(漆原良夫中央幹事会長)として歯止めの明確化を求めており、調整が難航する可能性もある。
国際紛争に対処する多国籍軍などを後方支援する恒久法では、歯止めを厳格化するため自衛隊派遣に「例外なく国会の事前承認」を義務づけるよう主張する公明党と、強い制約を嫌う自民党が折り合わなかった。このため骨格は「事前承認を基本とする」との曖昧な記述に落ち着いた。
公明党の北側一雄副代表は「(例外なくを)含めた表現だ」と説明。周辺事態法など現行法は「原則、事前承認」であるため、同党幹部は「『事前承認が基本』の方が縛りはきつい」と語る。一方、自民党の稲田朋美政調会長が20日の記者会見で「そんなに違うとは思わない」と述べるなど、自公間の解釈には温度差がある。
政府・自民党は、国連平和維持活動(PKO)以外での人道復興支援活動も、国連決議がなくても国際機関や地域的機関の要請などで派遣可能とする方針だ。これに対し、公明党が「範囲が不明確だ」と難色を示し、骨格では派遣要件を「国連決議等」との表記にとどめた。国連でも、法的拘束力を持つ安保理決議のほか、総会決議や報道声明などさまざまな意思表示の形態があり、具体的に「等」が何を指すかは積み残しとなった。
集団的自衛権の行使では、昨年7月の閣議決定で定めた武力行使の新3要件を、関連法案の条文に「過不足なく盛り込む」との表現となった。公明党は新3要件のうち「他に適当な手段がない」ことを明記して歯止めを厳格化するよう求めていたが、この点でも判断は先送りされた。【高本耕太】
安保法制:与党が合意「あらゆる事態に切れ目なく対応」
毎日新聞 2015年03月20日
自民、公明両党は20日、「安全保障法制整備の具体的な方向性について」に正式合意した。自衛隊が「あらゆる事態に切れ目なく対応」(中谷元防衛相)できるよう、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対処や、集団的自衛権の行使など法整備の全体像を示した。政府は与党合意を踏まえて法案化作業を進め、5月中旬に閣議決定する方針だ。
安保法制の骨格は(1)グレーゾーン事態への対処(2)日本の平和と安全に資する活動を行う他国軍隊に対する支援活動(3)国際社会の平和と安全への一層の貢献(4)憲法9条の下で許容される自衛の措置(5)その他関連する法改正事項−−からなる。
グレーゾーン事態では、日本を防衛するために活動中の米軍の艦船などを自衛隊が防護できるようにする。米軍以外の他国軍についても、「日本の防衛に資する活動」と認められることなどを条件に法整備を検討する。政府はオーストラリア軍などを想定している。
日本の平和と安全に資する活動を行っている他国軍隊への支援には、日本周辺有事の際に米軍への後方支援を定めた周辺事態法を改正して対応する。「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」へと規定を見直すことで、自衛隊の後方支援には地理的制約がなくなる。
あわせて恒久法を制定し、国際社会の平和と安全のために活動する他国軍隊への後方支援をいつでも可能にする。これまで事案ごとに特別措置法を制定して自衛隊を派遣してきたが、恒久法が成立すれば、迅速な派遣が可能になる。法整備にあたっては、他国の武力行使と一体化しない枠組みを設定する。ただ、昨年7月の閣議決定は、自衛隊の活動範囲について従来の「後方地域」「非戦闘地域」という仕切りをやめ、「現に戦闘行為を行っている場所」でなければ支援活動を認める方針を打ち出しており、自衛隊はより戦闘現場に近づくことになる。国会の関与は「事前承認を基本とする」ことで自公両党が妥協した。
また、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正し、PKO参加5原則と同様の厳格な参加原則を設けることなどを前提に、PKO以外の人道復興支援にも自衛隊が参加できるようにする。PKOは治安任務などに業務を拡大し、合わせて武器使用権限も広げる。
集団的自衛権の行使を可能にするため、武力攻撃事態法と自衛隊法を改正する。その際には、昨年7月の閣議決定を踏まえ、「日本の存立が脅かされる事態」など武力行使の新たな3要件を条文に「過不足なく盛り込む」こととした。集団的自衛権を行使できる「新事態」の名称と定義は武力攻撃事態法に明記する。自衛隊の防衛出動には原則、国会の事前承認を求める。
「関連する法改正事項」では、船舶検査活動法を改正し、日本周辺有事に限定していた任意の船舶検査の地理的制約をなくす。「国際社会の平和と安全に必要な場合」にも実施可能にする方向だ。また、海外の日本人救出活動に対応するため自衛隊法を改正し、武器使用権限の拡大▽日米の情報収集や警戒監視での物品提供−−などを検討する。【高山祐、斎藤良太】