2015年3月13日金曜日

改憲の進め方を自民・礒崎陽輔氏に聞く

 朝日新聞が、自民党憲法改正草案の起草に関わった礒崎陽輔・党憲法改正推進本部事務局長にインタビューし、憲法改正の進め方について聞きました。
 
 安倍首相を改憲に向けての「急進派」とすると、憲法改正推進本部長の船田元氏は「柔軟対応型」といわれ、現に憲法審査会の状況に合わせて条文を変更することは辞さないという態度を表明しています。
 同事務局長を務めている礒崎氏にもややそれに似たところが感じられます。
 またこれは自民の改憲草案が書かれた時点から指摘されていることですが、いわゆる立憲主義を正しく踏襲してはいないので、それは今後議論になることと思います。
 
 いずれにしても船田氏も磯崎氏も、ともに一筋縄ではいかない相手と見るべきです。、
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自民改憲草案の位置づけは 礒崎陽輔氏に聞く
朝日新聞 2015年3月12日
 自民党憲法改正草案の起草に関わった礒崎陽輔・党憲法改正推進本部事務局長(首相補佐官)へのインタビューの詳細は次の通り。
 
自民、改憲草案棚上げ
 
 ――自民党として憲法改正にどう取り組むか。
 衆参両院の憲法審査会を中心に、改正事項をまとめていくことが基本だ。その場だけでまとまらないこともあるので、憲法改正に賛同する政党との非公式交渉を通じ、合意が得られる憲法改正事項は何か、しっかり煮詰めていく作業が必要だ。その際、各党が明確な賛否を出すことが一番大事なことではないか。そうすることで、衆参両院で3分の2以上の賛成が得られる合意点がどこにあるか、煮詰まっていくことを期待している。
 
 ――いつまでに憲法改正を目指すのか。
 憲法審査会で各党が明確な意見を言って議論が進めば、それほど時間のかかる手続きではない。そのような基礎的な議論を来年の参院選まで行い、参院選前にどういう方向で憲法改正が行われるのか、方向性を示す必要がある。参院選の結果を受け、衆参両院でもう一度、3分の2以上の賛成を得られる改正項目を詰めていく。かなり日程はタイトだが、できれば来年中、遅くとも再来年の前半ぐらいまでには、国会発議を行いたい。
 
 ――先日の講演で「憲法改正を国民に1回味わってもらう。『憲法改正はそんなに怖いものではない』となったら、2回目以降は難しいことを少しやっていこうともう」と発言した。その真意は何か。
 憲法改正手続きは国会発議後、最低でも2カ月、長ければ6カ月という非常に長い時間をかけて賛成反対の大議論をして決めていく。非常に慎重で民主的な手続きをやっていくわけで、決して自民党だけが強引に引っ張っていけるようなものではない。憲法改正運動を一度でも経験してもらうことで、国民に、憲法改正そのものが怖いものではないとわかってもらいたい。
 
 2回目以降はもう少し難しい問題、少し意見が対立する問題にも入っていくが、この場合も今の96条の改正規定がある以上、そんな強引なことはできないし、民主的に進めることしかできない。何もおかしいことを言っているつもりはない。
 
 ――自民党憲法改正草案では、9条を改正して自衛隊を国防軍にすることなどが書かれている。2回目以降の憲法改正で、こうした草案の内容の実現を目指すのか。
 自民党と国会の立場は違う。憲法改正原案を作るのは国会の仕事だ。自民党の改憲草案は、政党として憲法の将来の目標像を示したものだ。一政党のイデオロギーであり、思想信条の自由として憲法改正像を示している。しかし、現実の憲法改正手続きでは、衆参両院で3分の2以上の賛成が得られる内容にしなければならない。憲法改正草案を否定するわけでも隠すわけでもないし、それを基に我々は議論を挑んでいくが、それがそのまま、国民投票を受ける憲法改正原案になるとは考えていない。憲法改正草案は、学校の教室に掲げられた学級目標や家庭の中の目標みたいなものだ。町内会で何か決める時には、ある家の人だけで決められないのと同じことだ。
 
 もちろん、憲法9条については、改正できないとは思っていない。自衛隊や文民統制の位置づけがない憲法ではいけないと思う。今すぐは無理でも、決してそれをやらないと言うことではない。憲法改正草案に書いてあることは全部やりたいことだが、できるところからやっていきたい。
 
 ――憲法改正草案づくりに関わった立場として、どういうことを目指したのか。
 自民党には2005年に作った「新憲法草案」があり、それをベースにしたことは間違いない。05年の草案を作った当時は与党だったこともあり、ちょっと遠慮したところがあった。野党になって遠慮のない憲法改正草案を作ろうと、五十数回の党内議論をした。
 
 何を目指したかと言えば、党の綱領にも入っている「自助、共助、公助」(の考え方を反映させること)が一番の中心だったと私は思う。まずは、自立した日本人を目指し、自立する国家を目指す。国同士でも地域でも家族でも、それぞれが自立した上でお互いが助け合う。それでもハンディキャップを持っている人もいる。それは国が助けるんだという考え方が自民党の基本であり、自民党が目指す国家像だ。そうした国家像がベースとなって、自民党が目指す憲法草案を作った。
 
 自民党は立憲主義を否定するつもりはないが、憲法はそれだけではない。一つの国家観や国柄を示すものでもある。さらに、私は立法の指針を示すことも憲法の重要な役割だと思う。
 
 ――2回目以降の憲法改正で、具体的にはどのような改正を目指すのか。
 9条は重要な項目になる。憲法改正草案は割とマックス(最大限)なものが書かれている。私は「国防軍」とまで言わないまでも、自衛隊の位置づけを明確にすべきではないかと思っている。改正手続きを定めた96条も重要だ。世の中の動きが急激になっており、憲法改正がそれに間に合わないのでは困る。憲法改正と言って構えるのではなく、常に見直せばよい。憲法自体が認めている改正手続きの中で正々堂々と議論し、最後は国民に決めてもらうことが極めて大事だ。
 
 憲法も人が作った制度だ。それをあまり金科玉条のごとくする必要はない。時代にそぐわなければ変えればいい。最後は国民の過半数で決める。それこそ民主主義であり、変えさせないというのは民主主義ではない。
 
 ――最後に決定権を持つ国民の理解をどう高めていくのか。
 
 「憲法改正をすべきか、すべきではないか」という議論はもう終わったと思う。護憲か改憲か、という対立の時代ではなくなった。世の中には「(憲法改正を)ゆっくりやろう」と言う人がいるが、それは意味がない。これまで相当ゆっくりやってきたのだから。
 
 国会では何を改正するか、中身を議論しようという段階に入ってきた。ただ、国民がそこまでついてこられているか、というとまだついてこられていない部分もある。国会の議論がきちんと見えてくれば、もっと国民の関心がわいてくると思うが、自民党として憲法改正の講演会などを通じて、国民の理解を深める運動に力を入れたい