産経新聞が「今国会での改憲の発議は難しく東京五輪後になる公算が大きい」とする記事を出しました。
それは安倍首相が憲法記念日の3日、改憲派の憲法フォーラムに寄せたビデオメッセージで、「いよいよ私たちが憲法改正に取り組むときが来た。~」と述べた趣旨に反するだけでなく、同じく改憲派である産経新聞としても不本意な記事の筈ですが、希望とは裏腹に実際にはそういう段階に至っているということのようです。
第2次安倍政権が発足してから、特定秘密保護法、新安全保障法(戦争法)、共謀罪法などの悪法をを立て続けに成立させましたが、すべて政府からの「満足な説明がないまま」に数を頼んで行われた強行採決によるものでした。
国会の異様さは最初から始まっていたのですが、森友学園・加計学園疑惑が明らかにされてからの国会は、まさに「学級崩壊状態」に等しいもので、とても改憲を審議できるような状況ではありません。
実際、衆参の憲法審査会は2月以降開かれておらず、当面、与党からの開催要請に応じる気配はありません。
安倍首相はなぜか「信なくば立たず」という言葉を良く口にしますが、これ程彼には不似合いで、国民に違和感を与える発言もありません。自分に少しでも「信」があると思っているのでしょうか。世論調査を見ても、これ程政府が国民の信頼を失っている事態は異常です。改憲の審議など出来る状況ではありません。
どんな理由付けがされるにせよ、ひとたび「自衛隊」が憲法に明記されればこれまでの制約から解放されるので、たちまち万能の「フリーハンド」が与えられることは自明です。たとえ「国を自衛するための自衛隊」と定義しようとも、「古来あらゆる戦争は全て自衛を口実に行われた」(「平和運動原論」福山秀夫)のであってみれば、たちまち「普通の軍隊」になることもまた自明です。
これからそういう議論を要するときに、「信」とは無縁の安倍政権が相手ということなど、まったくあり得ないことです。
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【憲法改正】
国会発議の道なお遠く 東京五輪後にずれ込む公算
首相に立ちはだかる「2つの壁」
産経新聞 2018年5月3日
3日は憲法記念日。安倍晋三首相(自民党総裁)が平成32(2020)年の新憲法施行の方針を掲げて1年を迎える。自民党は今年3月の党大会で、9条での自衛隊明記など「改憲4項目」の条文素案を発表したが、発議権を有する国会は参院が2月に憲法審査会を開いたきりで動こうとしない。もはや年内発議は絶望的となり、本格論議は参院選後、発議は32年夏の東京五輪以降にずれ込む公算が大きい。
外れた思惑
「この1年間で改憲議論は活発化した。議論はいよいよ煮詰まっている」
首相は1日、訪問先のヨルダンで記者会見を開き、改憲機運が醸成されつつあるとの見方を示した。
とはいえ、首相が1年前に思い描いたのは、今夏に衆参両院で改憲を発議し、今秋に国民投票を実施するスケジュールだった。衆院選と国民投票のダブル投票も想定していたとされる。
思惑は外れた。長引く「もり・かけ」疑惑に加え、財務省の公文書改竄(かいざん)などが次々に発覚し、国会は空転。もはや今国会は憲法審査会での改憲4項目の審議入りは困難となった。秋の臨時国会の2カ月程度の会期では、発議にこぎつけるのは絶望的だといえる。
論議すら困難
31年は、4月の統一地方選、6月の20カ国・地域(G20)首脳会議、夏の参院選など政治日程がめじろ押し。加えて4月末に天皇陛下が譲位され、5月1日の皇太子さまの即位・改元に伴う行事も相次ぎ、改憲発議どころか、国会の憲法論議さえ難しい。
32年も夏に東京五輪・パラリンピックがあり、通常国会の大幅延長はできない。しかも国民投票法の規定では、国会で発議後「60日以後180日以内」に国民投票を実施しなければならない。この日程を考慮すると、改憲発議は早くとも32年夏以降となる。
党内にも異論
自民党は、5月の連休後にも衆参の憲法審査会を開き、改憲4項目の審議入りを目指すが、日本維新の会を除く6野党に応じる気配はない。特に立憲民主党や共産党などは「安倍政権の改憲論議には応じない」ととりつく島もない。
連立与党の公明党も改憲論議に消極的だ。憲法審査会の開催には応じる意向を示すが、議題を国民投票法改正に限定するよう求めており、改憲4項目の議論に踏み込もうとしない。
自民党内でも異論はくすぶる。党条文素案は、首相の意向を受け、憲法9条はそのまま残して自衛隊を明記する案だが、石破茂元幹事長らはなお憲法9条2項の削除を求めている。
「憲法は最終的に国民が国民投票で決める。そのためには、しっかり国会で議論がなされ、理解が深まることが大切だ」
首相は1日の会見でこうも語った。一向に動こうとしない国会へのいらだちの表れだといえなくもない。(水内茂幸)
【憲法改正】
自民党が「改憲4項目」素案を公表も、党内や公明党にくすぶる火種
産経新聞 2018年5月3日
自民党は3月、憲法改正をめぐり、自衛隊▽緊急事態▽参院選「合区」解消▽教育の充実-の4項目に関する条文素案をまとめ公表した。憲法改正に向けた国民の理解を深めるとともに、国会での議論を活発化させる狙いがあったが、9条改正は自民党内に対立が残るほか、公明党も慎重姿勢を崩していない。合区解消や教育充実に関しても改憲勢力内の考え方の違いが解消しきれていない。
9条への自衛隊明記
安倍晋三首相(自民党総裁)が憲法記念日に提起した内容に沿い「9条の2」を新設して自衛隊の存在を明記した。政府は自衛隊を合憲と解釈してきたが、違憲論を解消することを目的とした。
憲法に自衛隊の存在を明記しても自衛隊の権限と役割に変更がないことを明確にするため、戦争放棄をうたった9条1項、戦力不保持と交戦権を否定した2項とその解釈を維持。9条とは別条文となる「9条の2」を設け、既存の9条は一切変更しないことを強調した。
自民党の石破茂元幹事長らが強く主張した2項削除論は、集団的自衛権をフルスペック(際限のない形)で認めることにつながりかねないと判断。「公明党の理解が得られず現実的でない」(党幹部)として、条文素案に採用しなかった。
「加憲」を掲げる公明党に配慮しているが、公明党は拙速な議論に慎重な姿勢を崩しておらず、まだ与党協議は始まっていない。野党の立憲民主党などは憲法違反だとする安全保障関連法を前提とした9条改正に反対している。
緊急事態条項の創設
緊急事態を「大地震その他の異常かつ大規模な災害」と定義した。ただ、戦争などの人災は公明党や野党の慎重論を踏まえ、定義から省いている。国会が機能しない場合、内閣が政令を出して一時的に権限を集中する条文を新設する。国政選挙が実施できないときは、衆参両院で出席議員の3分の2以上が賛成した場合、国会議員の任期を延長する。
参院選「合区」解消
47条と92条を改正し、参院選の「合区」解消と都道府県単位の選挙制度の維持を図る。衆参両院の選挙区と定数は、現行憲法の人口比例による基準とは別に、「地域的な一体性」などを「総合的に勘案」して定めるとした。特に参院選について「改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる」と明記した。
ただ、公明党は参院選を全国11ブロックに分ける大選挙区制を提唱し、自民案に否定的だ。「一票の価値の平等」を損ねる恐れがあるとして、他党からは異論も出ている。
教育の充実
自民党の素案では「経済的なハンディが教育に反映しないように、誰でも教育の機会が得られるようにする」(細田博之・自民党憲法改正推進本部長)ことを主眼に26条を改正し、国が教育環境を整備する努力義務を規定する。89条も改め私学助成の合憲性を明確にする。
ただ、日本維新の会が求める幼児教育から大学までの教育無償化は、必要財源を確保するのが困難として明記を見送った。維新は自民案が現状のままなら反対する考え。立憲民主党などの野党は改憲する必要性はないとの立場だ。(原川貴郎)