安倍首相は9日、中国の李克強首相と会談し、東シナ海での自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を回避するための「海空連絡メカニズム」(ホットライン)の運用開始を正式に合意しました。尖閣列島云々の文言は意識的に避けていますが、この合意は日中双方が事実上、尖閣の領有権を『棚上げ』したもので、日中衝突の危険性は大いに弱まったとされます。
日中間における尖閣列島問題は、領有権問題は簡単には決着がつかないという前提の元で、当面「棚上げ」しておくことで合意(1970年代)し、日本が実効支配していることを中国も認めていました。
それを10年9月、中国漁船が巡視艇に体当たりしたという口実で突然船長を逮捕(前原外相)し、12年には野田首相が尖閣列島を国有化宣言したことで中国を激怒させた結果、大々的に中国の漁船軍団が尖閣列島海域に押し寄せるようになりました。
当時、中国漁船が船首を急激に左方に向けて巡視船に衝突した動画が流されましたが、ボートでもない漁船があんなに急速に船首を方向転換できる筈はないので、明らかに巡視艇が高速で回り込んで漁船の針路をさえぎったために衝突したのでした。
第二次安倍政権は登場するや否やこの尖閣列島問題を中国脅威論に結びつけ、外交面では「中国包囲網」の構築を画策し、内政面では防衛費を拡大し、尖閣上陸を念頭に自衛隊内に離島奪還専門部隊の「水陸機動団」を発足させました。
高名な評論家は、オスプレイは尖閣列島を防衛するために必要だと述べました。
隣国を仮想敵国に仕立て上げることで軍備拡張に奔るのは、最も安直で使い古された手法です。しかしそうした虚妄はもはやバレてしまいました。
中国との緊張が緩和し、朝鮮半島も非核化に向けて動き出しては、安倍首相の言う『わが国を取り巻く脅威』は消えて行きます。もともと軍備の拡張では脅威は排除できません。憲法9条の精神に基づく国同士の信頼の醸成「善隣友好」こそがもっとも肝要であることを知るべきです。
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尖閣も緊張緩和へ 安倍首相が煽った「脅威論」露と消える
日刊ゲンダイ 2018年5月11日
脅威の「大前提」が音を立てて崩れている。安倍首相は9日、公賓として初来日した中国の李克強首相と東京・元赤坂の迎賓館で会談。東シナ海での自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を回避するための「海空連絡メカニズム」の運用開始を正式に合意した。
海空連絡メカニズムは、日中の防衛当局間のホットライン設置、艦艇・航空機が接近した際の直接通信の仕組み構築などが柱となる。2007年に第1次安倍政権時の日中首脳会談で、双方が交渉開始に合意したが、12年の尖閣諸島国有化に中国が反発。交渉が難航していた。
今回の交渉では尖閣を巡る日中対立を考慮し、具体的な対象地域を明示しないことで双方が合意。対象範囲に尖閣周辺の領海・領空が含まれない“玉虫色”の決着とはいえ、日中間の最大の懸念だった尖閣を巡る緊張関係が緩和に向けて大きく動き出すことになる。
「玉虫決着と言えば聞こえが悪いですけど、今回の合意内容は、日中双方が事実上、尖閣の領有権を『棚上げ』したに等しい。1978年の日中平和友好条約締結時の状況に戻りつつあり、緊張緩和で日中衝突の危険性が弱まるのであれば、大いに歓迎すべきです」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
■目先の支持のために政治利用
日中関係の改善は結構なことだが、改めて問われるべきは、これまでの安倍首相の言動である。12年末に政権に返り咲いて以来、支持基盤の“ネトウヨ”たちにこびるように中国脅威論を散々、煽ってきた。
外交面では「中国包囲網」の構築を目指し、内政面では中国の脅威をタテマエに防衛費を拡大。尖閣上陸を念頭に自衛隊内に離島奪還専門部隊の「水陸機動団」を発足させた。脅威への抑止力と称して解釈改憲の禁じ手で、集団的自衛権の行使を容認し、安保法制を制定。目先の支持を得るためだけにナショナリズムに火をつけ、中国との緊張関係を高めてきた。
李首相との共同記者発表で安倍首相は「全面的な関係改善を進め、日中関係を新たな段階に押し上げていきたい」と得意顔だったが、つくづく「どの口が言うか」である。
「中国との緊張が緩和し、朝鮮半島も非核化に向けて動いています。つまり、安倍首相が集団的自衛権の行使容認の前提に掲げた『わが国を取り巻く脅威』は消えつつある。ならば、違憲状態の安保法制は空文化するか、違憲部分を改正した方がいい。違憲状態が延々続くのは不健全です。安倍政権の応援団メディアは、シーレーンの要諦である南シナ海への中国の進出という『潜在的脅威』は残っているとか言いそうですが、日中の友好関係が守られている限り、衝突はあり得ません。脅威の排除には安保法制の死守よりも、日中間の信頼を深める方が大事です」(五野井郁夫氏)
年内にも安倍首相は訪中するそうだが、まず中国脅威論を政治利用してきたことを詫びるべきだ。