北朝鮮は、韓国周辺で実施されている米韓の空軍による軍事演習を批判し、16日に予定されていた韓国との閣僚級会談を一方的にキャンセルするとともに、米朝首脳会談についても「運命を熟考すべき」と警告し、中止の可能性を示唆しました。
しかし今回よりも大規模の4月の軍事演習については「理解する」としていたので、今回唐突に批判し出したのは、演習が頻繁過ぎることを言いたいのかあるいは別の理由からなのかも知れません。
北朝鮮が、首脳会談の下打合せを進めているボルトン大統領補佐官に相当不満を持っているのは明らかで、天木直人氏は、北朝鮮の真意はボルトンの更迭にあると見ています。
実際ボルトンは、別に米朝の和解を望んではいないのでいつ決裂してもいいとばかりに過酷な要求をしています。
北が「朝鮮半島の非核化」を主張したのに対しては、ボルトンは在韓米軍は「核武装していない」として、逆に北に対しては核放棄を先行させた「リビア方式」を主張し、①廃棄した核兵器の米国搬出 ②弾道ミサイルや生物化学兵器など大量破壊兵器の廃棄 ③技術者数千人の出国 ― などを要求し、それが完全で検証可能かつ不可逆的に実行された後に経済制裁解除や支援に動くとしています。
カダフィー治下のリビアでは、2003年にまず米英両国の武器専門家とIAEA査察団の主要疑惑施設への訪問を含め検証対象に含まれる全ての施設の関連文書を提供したほか、サンプル採取、写真撮影などで合意し、2004年にIAEAの第一次査察活動を受けた後,直ちに大量破壊兵器関連施設の廃棄に着手しました。
しかし2011年2月、リビアでの反政府運動が内戦に発展すると、それを見計らっていたかのように米英仏は3月19日夜に突如リビアへの国際法違反の空爆を開始し、カダフィ政府軍の部隊や施設を攻撃しました。これによって劣勢になった政府軍は結局敗北し、同年の10月にカダフィーも拘束され殺害されました。
核の放棄とカダフィーの滅亡とは直接関係ないという見方もあるでしょうが、金正恩氏は、アメリカが自分たちに従順でない指導者を撲滅する一貫した過程と見ています。
そうした一種のトラウマを持っている金氏が、この度進めている核とミサイルの放棄はそれなりに一大決心であることを理解する必要があるのに対して、ボルトンの超高圧的な態度は一向にそれにそぐわないという取り合わせになっています。
日刊ゲンダイの記事は金氏に対してやや諧謔的なニュアンスになっていますが紹介します。
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米朝会談中止で揺さぶり 金正恩“ドタキャン外交”の勝算
日刊ゲンダイ 2018年5月18日
史上初の米朝首脳会談を1カ月後に控えた北朝鮮が揺さぶりをかけ始めた。板門店宣言を受けてセットされた南北高官協議を16日、ドタキャン。米国が垂れ流す非核化プロセスに猛反発し、米朝会談の中止をにおわせた。拘束された米国人3人の解放に成功し、11月の中間選挙に向け意気揚々と突っ走ろうとするトランプ大統領は出はなをくじかれた格好だ。したたかな金正恩朝鮮労働党委員長は、どういう腹積もりなのか。
北朝鮮が一方的に南北協議の「無期延期」を通告した理由に挙げたのが、11日から実施されている米韓合同空軍演習「マックスサンダー」だ。朝鮮中央通信を通じて「軍事的挑発だ」と非難したため、米韓は核搭載可能な米軍のB52戦略爆撃機の訓練参加を見送った。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。
「B52は平壌を一瞬で火の海にする破壊力がある。北朝鮮情勢が緊迫するたびに米軍が朝鮮半島に飛ばした経緯があり、金正恩委員長は相当な恐怖心を抱いています。それに、北朝鮮の防空網を突破できるステルス戦闘機F22が昨年末の演習より多く投入されたのも気に食わないはず。これまでは、どれほど騒いでも歯牙にもかけられませんでしたが、今なら米朝対話を人質に要求をのませることができると踏んでヤリ玉に挙げたのでしょう」
■ボルトンの非核化プロセスに激怒
北朝鮮がさらに噛みついたのが、核放棄を先行させる「リビア方式」を主張するボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の一連の発言だ。ボルトンは▼廃棄した核兵器の米国搬出 ▼弾道ミサイルや生物化学兵器など大量破壊兵器の廃棄 ▼技術者の出国――などを要求し、完全で検証可能かつ不可逆的に実行された後に経済制裁解除や支援に動くとしている。
ボルトンの青写真は、見返りを得ながら段階的な非核化を狙う金正恩のもくろみとは真っ向対立する。それで、対米外交を長年担う金桂冠第1外務次官が怒りの談話を発表。
「核開発の初期段階にあったリビアと核保有国である我が国を比べること自体が愚かだ」などと罵り、「トランプ米政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、そのような対話にもはや興味を持たないだろう」「朝米首脳会談に応じるかどうか再考せざるを得ない」と中止をチラつかせたというわけだ。
どうやら、金正恩はどんなに強く出ても、トランプは米朝会談にしがみついてくるとみているようだ。
朝鮮半島情勢に詳しい国際ジャーナリストの太刀川正樹氏は言う。
「イラン核合意の離脱やエルサレム問題で中東を大混乱させたトランプ大統領は、国際社会の批判の的です。これで米朝対話までオジャンになれば立つ瀬がない。中間選挙は苦戦必至です。それに、現実的にいって中東と北東アジアの二正面戦略は厳しい。金正恩委員長は〈トランプは米朝会談を成功させたいはずだ〉と足元を見て、譲歩を引き出す好機とみているのでしょう。実際、米国はB52の投入を見送っています。むろん、金正恩委員長も米朝会談を破談にするつもりはないでしょう。文在寅大統領から綿密な助言を得て、むしろ前のめりです」
第三国であるシンガポールを巻き込み、世紀のビッグ会談の演出に余念がないトランプは、北朝鮮お得意の瀬戸際外交に踊らされてしまうのか。