東京新聞が4~5日に「世界の中の日本国憲法 9条編(上・下)」を連載しました。
第一次世界大戦後に締結された多国間条約である「パリ不戦条約」(1928年)は、それまでは国家の自由に属するとされていた戦争を、はじめて「違法」であるとして、「国際紛争を解決する手段として、締約国相互での戦争を放棄し、紛争 は平和的手段により解決する」ことを規定しました(加盟国:63か国)。
この精神に基づき多くの国は憲法に「戦争放棄」を謳いましたが、交渉過程で自衛のための戦争は容認されたので、先進各国は自衛の名の下に侵略を続けとうとう第二次世界大戦に至りました。
自衛権を根拠に憲法に軍隊を規定するのは戦争の抑止にはならない、という何よりの証拠です。
共同通信が3~4月に実施した世論調査で、戦後73年間、日本が武力行使をしなかったのはひとえに憲法9条のおかげ(69%)とする国民意識が明確にされましたが、9条の要となってきたのが「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とした2項でした。
日本でも、急迫不正の侵略を「現に受けた」場合には、国は憲法13条の国民の幸福追求権を保障するため防衛に立ち上がれるというのが、通説になっています。
そうした中でも、他の国家と違って戦力不保持を謳った9条2項があったので73年間「不戦」が守られてきました。
そのバランスを崩し、実際に戦争できる軍隊を持とうというのが安倍政権による9条改憲の策動です。
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<世界の中の日本国憲法>
9条編(上) 「不戦」支える「戦力不保持」
東京新聞 2018年5月4日
日本国憲法は三日、施行から七十一年を迎えた。この間、条文は一文字も変わらず、自衛隊が海外で一発の銃弾も撃つことなく、日本は平和国家として歩んできた。日本国憲法の本質はどこにあるのか、世界各国の憲法と比べながら考える。まず、平和憲法の根幹とされる九条を取り上げる。
◆パリ条約が源流
九十年前の一九二八年八月二十七日、パリ・フランス外務省の「時計の間」。日本を含む十五カ国の高官を前に、ブリアン仏外相が宣言した。「利己的で意図的な戦争に終わりをもたらす日となるだろう」
千六百万人が犠牲になった第一次世界大戦の反省から生まれた「パリ不戦条約」の調印式。それまで戦争は国家の自由と考えられていたが、初めて戦争を違法とした条約だった。加盟国は六十三カ国に増え、「戦争なき世界」を目指した。
しかし、自衛のための戦争は制限されないことが交渉過程で確認され、実効性が薄かった。日本は旧満州(中国東北部)を占領。ドイツやイタリアも自衛の名の下に侵略を広げ、第二次世界大戦を防げなかった。
大戦後、四五年の国際連合発足とともにできた国連憲章は、条約の理念を引き継いだ。国際紛争を「平和的手段」で解決することや、「武力による威嚇又(また)は武力の行使」を慎むよう加盟国に求めている。
日本国憲法九条一項はこの流れをくみ、戦争放棄をうたう。ただ、戦後制定された多くの国の憲法にも同様の規定があり、九条一項が特別とは言えない。つまり、多くの国の憲法も日本と同じく「戦争放棄」の理想を掲げている。
四七年制定のイタリア憲法は、紛争解決手段としての戦争などを否定。八七年制定のフィリピン憲法も「国の政策の手段としての戦争」放棄をうたう。二〇〇〇年代に左派政権が誕生したエクアドルやボリビアも、紛争解決手段としての戦争放棄を新憲法に掲げた。
侵略や征服目的の戦争を否定した憲法も多い。ドイツは「侵略戦争の準備」を違憲とし、刑事罰も規定。フランスは一七九一年憲法で征服戦争放棄を定め、現行憲法も引き継いでいる。
◆自衛の名の下に
だが、〇一年に米ブッシュ政権が「自衛のための戦争」を宣言してアフガニスタンを攻撃したように、自衛権を根拠にした軍事行動が繰り返されてきた。国連憲章は個別的、集団的自衛権を国家の「固有の権利」として認めているからだ。侵略と認めて軍事行動をするケースはほとんどない。
自衛権を根拠に、多くの国は憲法で軍隊の保持も定めている。不戦の理想が実現しにくいのは、これが大きい。世界で最も強固な平和憲法とされる日本国憲法が特別なのは、九条一項の「戦争放棄」に続き、二項で「戦力不保持」を明記している点にこそある。二項は9条編(下)で詳しく紹介する。 (小嶋麻友美)
<世界の中の日本国憲法>
9条編(下) 「戦力不保持」 G7で唯一
東京新聞 2018年5月5日
日本が戦後七十三年間、海外で武力行使をしなかったのは「九条があったからこそだ」との回答は69%。「他の要因もあったからだ」は29%-。
三~四月に共同通信社が実施した世論調査で、戦後日本の平和はひとえに憲法九条のおかげとする国民意識がくっきり示された。
九条の要となってきたのが「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とした二項。一項のように戦争放棄を定めるだけでは「自衛のための軍事行動」という理屈がつけられ、歯止めとして不十分だからだ。
先進七カ国(G7)のうち、成文憲法を持たない英国を除く六カ国で「戦力不保持」を明記した憲法は日本だけ。米国、フランス、カナダ、日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツとイタリアは、憲法で軍隊について明記している。世界では、この型の憲法の方が圧倒的に多い。
こうした国々が、自衛などの理由で軍事行動を行うのは珍しくない。米英仏三国は四月、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして巡航ミサイルを発射。「主権国家への侵略」との批判も出た。韓国も、国軍の存在を憲法に明記。かつてベトナム戦争やイラク戦争に派兵した。
憲法に明文規定はないが軍隊が存在するロシアやインドなどのケースも。日本のように戦力不保持を明記した憲法は極めて少数だ。
同様の憲法を持つ国では、中米コスタリカが憲法一二条で「恒久的機関としての軍隊は禁止する」と規定。国は国家予算を医療や教育、福祉に回した。ただ、国防のために軍隊を組織できるとも規定しており、条文上は日本の九条二項の方が、より徹底している。
ところが今、日本では安倍晋三首相らが自衛隊の存在を明記する九条改憲を目指す。現行の一項と二項は残すとしているが、死文化するとの懸念は絶えない。
アジア太平洋法律家協会事務局長の笹本潤弁護士は「軍事力を使わずに戦争を防止する日本の基本政策は、国際政治に大きな影響を与え続けている」と指摘。日本は今、海外で武力行使をする国になるかどうかの分岐点にいると訴える。(中根政人)