トランプ政権が2月に発表した核戦略の中期指針「核体制の見直し」(NPR)は実に酷いもの(非人道的)で、通常兵器で攻撃された場合でも核兵器で反撃することを排除しないだけでなく、先制核攻撃そのものも排除せずに、戦闘機から投下できる小型核爆弾はすでに所有しているのに加え、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に用いる小型核の開発に取り組むと共に、核を装備した海洋発射巡航ミサイル(SLCM)を開発するというものです。
いわば小型(広島型原爆の50分の1程度)の原爆であれば、先制使用を含めて何らの使用上の制限も受けないという、核兵器に関する全ての禁忌を無視するもので、これほど人道に反するものはありません。核兵器禁止条約の対極にあるものです。
⇒ (2月5日) 米の核体制の見直しは 軍拡・核開発に邁進するもの
それにもかかわらず安倍政権は真っ先に賛成を表明しました。「人道」という感覚がないのでしょう。
2016年にオバマ大統領(当時)が広島を訪れた際、核の先制不使用宣言を予定していたと言われていますが、それに強硬に反対して止めさせたのも安倍政権でした。要するに日本は単にアメリカの「核の傘の下」にあるだけでなく、米国がその核を先制使用することを期待しむしろけしかけています。最悪の「核の傘」論者です。
オバマ大統領時代の「核体制の見直し」(NPR)のときにも、日本政府(外務省)は米上院軍事委員会公聴会(2009年)の意見聴取に対して、米国の保有する核兵器の持つべき能力について「ステルス性があり、透明で迅速であること、堅固な標的に浸透できるが、副次的被害を最小化し、爆発力の小さな能力を望んでいる」などと具体的に述べているとの報告者の証言が、議事録に記録されていました。
ところが今年3月、共産党の井上議員室が米政府印刷局のデータベースでこの議事録を確認したところ、「日本の代表は」の部分が「われわれの同盟国の一つの代表は」との文言に差し替えられていました。それは日本国内での反発をおそれ、米国の「核の傘」強化を求めた日本側の見解を隠ぺいする狙いで、日本が要請した結果です。
いずれにしても、米国の、核兵器の先制使用を含め核兵器の使用を厭わない政策に公然と賛成するのは、唯一の被爆国にあるまじきことです。
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「核の傘」強化要求 「日本」→「同盟国」に 米議会議事録
日本政府が隠ぺい工作か
しんぶん赤旗 2018年5月9日(水)
【写真説明】米上院軍事委員会公聴会(2009年5月7日)の議事録。当初は「日本の代表が」となっている箇所が「我々の同盟国の一つの代表が」に変わっています
オバマ前米政権の「核態勢見直し」(NPR)策定に向けて米議会が設置した「米国の戦略態勢に関する議会委員会」(戦略態勢委員会)による米議会証言のうち、日本を名指しした箇所が改ざんされている可能性が浮上しました。日本国内での反発をおそれ、米国の「核の傘」強化を求めた日本側の見解を隠ぺいする狙いがあったものとみられます。
戦略態勢委員会の委員は2009年5月7日、米上院軍事委員会公聴会に出席しました。このうちジョン・フォスター委員は、複数の同盟国から意見聴取を行ったところ、米国の「核の傘」の信頼性についての疑問が出たと証言。その代表例として日本を名指しし、「特に日本の代表は、米国の『核の傘』としてどんな能力を保有すべきだと自分たちが考えているかについて、ある程度まで詳細に説明した。ステルス性があり、透明で迅速であることだ。彼らはまた、堅固な標的に浸透できるが、副次的被害を最小化し、爆発力の小さな能力を望んでいる」と述べました。
本紙は公開されていた議事録を入手して同年9月3日付で報道。日本共産党の井上哲士議員も同年11月19日の参院外交防衛委員会でこの証言を取り上げていました。
ところが、今年3月、井上議員室が米政府印刷局のデータベースでこの議事録を確認したところ、フォスター氏の証言のうち「日本の代表は」の部分が「われわれの同盟国の一つの代表は」との文言に差し替えられていました。
米国の核態勢をめぐっては、米科学者団体「憂慮する科学者同盟」のグレゴリー・カラーキー氏が、戦略態勢委員会の意見聴取に対する日本側の文書発言(09年2月25日付)や議事概要を入手。本紙3月4日付が報じ、波紋を広げました。文書発言の内容とフォスター氏の議会証言は一致しています。
カラーキー氏は「議会議事録の変更は通常ありえないが、不可能ではない」として、特別な手続きを取れば可能との見方を示しています。
二つの議事録を比較すると、細かい変更がところどころありますが、内容に関わる変更は「日本」が「同盟国の一つ」という文言に変更された箇所だけです。日本政府は、意見聴取で見解を述べたことは認めているものの、詳細は明らかにしていません。
解説
「核依存」 国民の批判恐れ
「われわれが今聞いたことは、びっくりさせるものだ」。2009年2月25日、水上発射型核巡航ミサイル・トマホークの代替兵器や地中貫通型兵器など具体的な兵器名をあげて米国の核態勢強化を求めた日本政府関係者の発言に対して、米議会の諮問機関「戦略態勢委員会」の委員がもらした感想です。
日本からの意見聴取の内容はもともと公開を前提にしたものでした。だからこそ、1面報道のように、委員の1人が同年5月7日の米上院軍事委員会で日本の発言内容を具体的に証言したのです。
ところが、意見聴取の内容はその後、日本側の要請で非公開にされたことが明らかになっています。これと並行して、上院軍事委員会の議事録から「日本」という文言が削除され、「同盟国」に差し替えられたのです。こうした経緯から、意見聴取の内容を隠すよう求めた日本側の要請が、議事録書き換えにつながった公算は高いといえます。
なぜ隠すのか。世界で唯一、原爆の惨禍を経験した日本国民の圧倒的多数は核兵器廃絶を強く望み、世界の反核平和運動をリードしてきました。こうした世論や運動と、米国の同盟国の中でも突出した「核の傘」依存の政府の姿勢は相いれず、国民の強い批判を恐れているからです。
09年の意見聴取での日本側の発言は、その後の米国の核政策を大きく左右しました。意見聴取を踏まえ、10年から「日米拡大抑止協議」が開始。日本は米国の「核抑止」強化を正式に要求するようになりました。ここでの議論が、アジア地域での核戦力の大幅な強化を掲げたトランプ政権の核態勢見直し(NPR=今年2月公表)につながっています。
さらに懸念されるのは、朝鮮半島の非核化プロセスでの日本の役割です。安倍晋三首相は「完全な非核化」を盛り込んだ南北首脳会談の「板門店宣言」を高く評価する一方、4月18日の日米首脳会談では、軍事的な選択肢を含む「全ての選択肢」への支持を表明しています。
日本が今後も米国の核に過度に依存し続ければ、朝鮮半島情勢に否定的な影響を与える可能性もあります。(竹下岳)