2018年5月20日日曜日

本末転倒 企業救済策に消費税を流用するなど言語道断

 政府は、来年秋予定の消費税増税に合わせて、住宅ローン減税を拡充し、自動車取得税の廃止など自動車関連税制を見直し、消費増税の増収分5兆円強のうち、2兆~3兆円をその減税対策に計上する構想だということです。
 消費税は所得の高さと税負担の関係で逆進性を持っていて、低所得者からも満遍なく徴収されます。そうした貴重な税金で自動車産業や住宅産業などを優遇するのですから、到底許されません。
 安倍政権になって国の借金が急速に増大した結果、今年度の借金返済額は予算の歳出総額の238で、社会保障費の伸びを上回るペースで増え続けています。このままいけば借金返済額が2025年ごろには国の最大経費となるということです。
 
 経済学者の高橋乗宣氏が、「本末転倒…企業救済策に消費税を流用するなど言語道断」とする怒りの記事を載せました。
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 日本経済一歩先の真相  
本末転倒…企業救済策に消費税を流用するなど言語道断
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2018年5月18日
 15日付の日経新聞の1面トップ記事を読み、頭に血が上った。来年秋予定の消費税増税に向け、政府が住宅や自動車の購入者に減税を実施、買い控え防止を検討しているというのである。
 具体的には消費税増税に合わせて、住宅ローン減税を拡充し、自動車取得税の廃止など自動車関連税制を見直す。けしからんのは、減税の財源だ。消費増税の増収分5兆円強のうち、2兆~3兆円を減税対策に計上する構想だというから、本末転倒である。
 消費税は本来、国債に大きく依存した国の財政状況を是正するため、創設された側面がある。ところが、安倍政権は消費増税の増収分の使途のうち、借金返済の充当額を減らし、プライマリーバランスの黒字化を先送り。そればかりか今度は増税後の自動車や住宅の売り上げ減を防ぐため、消費税の増税分を充てるというのだ。
 
 消費税は高齢者や、その逆進性に苦しめられる低所得者も満遍なく支払っている。こうしてカキ集めた税金を国の借金返済に回さず、自動車や住宅業界の売り上げを守るために使うとは許しがたい。露骨な企業優遇策であり、安倍政権の財政規律は完全に緩み切っている。
 国の借金は既に1000兆円を軽く突破し、GDPに占める割合は240%と先進国で断トツだ。今年度の借金返済額は予算の歳出総額の23・8%を占める。社会保障費の伸びを上回るペースで増え続け、借金返済額が2025年ごろには国の最大経費となる恐れもあるのだ。
 
 かような状況で、安倍政権が財政規律を緩めていいわけがない。財政を健全化する感覚がマヒした要因は歴然だ。“アベ・クロサンバ”の異次元緩和で、国債発行のたび、黒田日銀がガンガン買い占めるため、政府全体で国債依存の構造を打破する意欲がマヒしているからに違いない。
 
 消費税率を引き上げたところで、こんなデタラメな使い道を考えているくらいなら、いっそ消費税はもちろん、個人の所得税も地方税も減税し、国が発行する国債は黒田日銀に全部、面倒を見てもらったらどうなのか。むしろ、その方が個人消費は活発化するかもしれない。安倍首相が夢想し続ける経済成長が実現する可能性も高まる。
 時の政権の財政規律が緩めば、国の会計を預かる財務省内の緊張感も失われる。安倍政権の不健全財政は忖度まみれの公文書改ざんや、次官のセクハラ騒動など財務省の不祥事続発にも直結しているのではないか。
 
 いずれにせよ、借金返済に充てるはずの消費税増税分を企業救済策に流用するなど、あってはならないことだ。とにかくまあ、頭にきている。 
 
 高橋乗宣    エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。