2018年5月5日土曜日

蓮池透氏に南北首脳会談と拉致問題の今後を聞く(LITERA)

 拉致問題は安倍首相にとってはまさに政治利用するのに恰好のテーマで、実際に自ら「拉致問題の安倍」を任じその宣伝効果で首相にまで上り詰めました。
 当初、「家族会」はそれに幻惑され、安倍氏と彼のシンパで固めた「救う会」が言うところの「対北制裁・対北圧力」が唯一の解決策であると信じました。日本のメディアもそれに完全に同調しました。
 
 しかし北朝鮮への送金を禁止し、連絡船:万景峰号を入港禁止にし、貿易を停止しても、北朝鮮はそれに屈しませんでした。そのことは早期に判断できたことなので、その時点で対北政策を再検討すべきであったのですが、安倍政権がやったことは「対北制裁」の一層の強化であり、それに向けての「家族会」の団結でした。「家族会」に対しては「政府は蔭では拉致被害者の帰還に向けて精力的な交渉を進めているから」というようなデマ宣伝を吹き込んでいたようです。
 
 そうした流れに臆することなく安倍氏のやり方を批判した蓮池・家族会副会長(当時)は2010年に家族会の総意で退会させられましたが、その背後に安倍氏の従って「救う会」の意向があったことは想像するに難くありません。
 
 第二次安倍政権になってからも、安倍首相は北朝鮮に対してことごとに非難し、北の核兵器・ミサイル開発に対しても、常に最も過激に批判し、制裁の強化を訴え続けました。それが今年に入って、見事などんでん返しを受けて「世界の孤児」化したのは、ご存知の通りです。
 
 驚くべきことに、文大統領の口添えでようやく日朝首脳会談の見通しが立ったというのに、安倍首相は今月の1日、ヨルダンのアブドラ国王と会談した際に、「ヨルダンが1月に北朝鮮との国交断絶に踏み切ったことを評価し、両首脳は北朝鮮が完全な非核化を実現するまで最大限の圧力を維持する方針を確認した」と報道されました。
 
 これから拉致問題と戦時賠償問題で日朝首脳会談を行うというのに、一体どういう神経なのかと疑われます。LITERAのインタビューで、元家族会副会長の蓮池透氏は、「安倍首相は拉致解決より自分の面子を優先しているとしか思えない。本当は対話などしたくないんじゃないか。その行動を見ていると、拉致問題を解決するつもりがないとしか思えない」と述べています。なるほどそういう視点に立たたないことには、これまでの安倍首相の対北政策や言動を理解することはできません。
 
 LITERAのインタビュー記事を紹介します。
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元家族会副会長・蓮池透に南北首脳会談と拉致問題の今後を聞く
 
蓮池透が安倍首相を「いまも北朝鮮との対話をする気がない」と批判!
「私も安倍さんから現金を渡された」の衝撃発言も
LITERA 2018年5月4日.
 本サイトでは先日、4月29日に放送された『池上彰緊急スペシャル 激動の朝鮮半島!どうなる拉致問題!平成の宿題徹底解説』(フジテレビ)での拉致被害者・蓮池薫氏の発言を紹介した。これまで自身の立場や、北朝鮮に対する国民感情、そして安倍首相による圧力を考慮して沈黙せざるを得なかった薫氏だが、南北首脳会談の実現、そして米朝首脳会談が行われるこのタイミングが拉致問題解決の最大にして最後のチャンスと捉え、日本政府の圧力一辺倒に疑義を呈し、その転換を国民世論に訴えたのだ。
 しかし、こうした薫氏の言葉はほんとうに日本政府に届くのか。本サイトでは薫氏の兄である「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)元副代表・蓮池透氏のインタビューを行った。
 
 蓮池透氏は近年、安倍首相らによる拉致問題の政治利用と圧力一辺倒を真っ向から批判している。2016年には『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)を出版し、安倍首相のいくつのも嘘を暴き、安倍首相の「私が申し上げていることが真実であることはバッジをかけて申し上げます。私の言っていることが違っていたら、私は辞めますよ。国会議員を辞めますよ」という国会発言を引き出すきっかけともなった。
 
 その透氏に、南北首脳会談や、これからの米朝首脳会談について訊いたところ、透氏は対話の動きを高く評価しながらも、それが拉致問題の解決につながらないのではないかという強い危機感を表明。安倍首相が実は拉致解決よりも政治的面子を優先して、拉致問題解決の障害になっていることを厳しく批判した。
 しかも、蓮池氏は安倍首相による圧力路線誘導について語るなかで、驚きの事実を明かした。なんと、安倍首相は15年前、蓮池氏らに現金を渡していたというのだ。いったいどういうことなのか。そして、蓮池氏がいま、拉致問題解決に向けて抱いている最大の危機感とは何なのか。ぜひ最後まで読んでほしい。(編集部)
 
安倍首相はいまも北朝鮮と対話したくない、拉致問題を解決するつもりもない
――今回の南北首脳会談は朝鮮半島の平和に向けての一歩となったと思います。また弟さんの薫氏は「拉致問題解決の大きなチャンス」と踏み込んだ発言をしました。
蓮池 たしかに南北の接近は歓迎すべきだと思いますが、日本が圧力一辺倒でやってきたせいで、北朝鮮との対話は米国と韓国に主導権を握られてしまった。そうなると、ほんとうに拉致問題がきちんと話し合われるのか、進展するのか。
 それに気になるのは、安倍政権の姿勢です。私は安倍首相が拉致問題を自分の野望のために政治利用しているだけだということを主張してきましたが、南北会談によって、安倍政権の圧力路線はやはり間違いで、日本政府、安倍首相は拉致問題に関してやはり何もしていないということが明らかになった。
 今回の会談についての発言を見ても、安倍首相は拉致解決より自分の面子を優先しているとしか思えない。おかしいなと思ったのが会談後、文在寅大統領からその結果の説明を受けて、金正恩党委員長が「日本と対話の用意がある」と表明したことを説明したのに、安倍首相はその内容を詳細には語らなかったことです。
 
――4月29日に安倍首相は韓国の文在寅大統領と電話会談をして、南北会談について報告を受けた件ですね。文大統領が金正恩党委員長に拉致問題を含めた日本の立場を伝えたと、安倍首相に報告しました。しかし安倍首相は「詳細は控える」と。
蓮池 なぜ言えないのか。しかもこの情報は日本政府から出たものではなく韓国の大統領府からのものです。日本政府や、安倍首相は何も情報を出していない。それはおそらく文大統領が南北首脳会談で「安倍首相も北朝鮮と“対話”する意思があり、とくに過去の清算を基盤に“日朝国交正常化”を望んでいる」と伝えたからではないでしょうか。圧力一辺倒の安倍首相が“対話”という言葉を使ったことを公にしたくなかった。そう勘繰られてもしかたがない。
 というか、安倍さんは本当は対話などしたくないんじゃないか。その行動を見ていると、拉致問題を解決するつもりがないとしか思えないのです。29日には逃げるように中東歴訪に行ってしまった。中東へ行くんだったら北朝鮮へ行けと思いましたよ。金正恩委員長は「日本と対話の用意がある」と言って、文大統領もそれを仲介すると言った。そうである以上、中東行きを取りやめて、すぐにでも北朝鮮に行くべきではなかったのでは。
 しかし、驚いていたことに訪問先のヨルダンでアブドラ国王と会談した際に、同国の北朝鮮との国交断絶を評価し、最大限の圧力を維持する方針を確認したという。本当に懲りない人ですね。北東アジアの平和などまったく望んでいない。
 
拉致問題解決には日本が主体的に動き、事前交渉が必要なのに…
 
――たしかに、安倍首相から自分たちが積極的に北朝鮮との交渉に動くという姿勢はまったく感じられない。日本政府の対応は、韓国頼み、トランプ大統領頼みという感じです。
蓮池 そもそも、南北首脳会談と拉致問題は別で、それを韓国に頼むというのは筋が違う、過大な期待はしてはいけないとも考えています。この調子でいくと、5月に行われるとされる米朝首脳会談も楽観はできません。「正恩氏は拉致問題は解決済みだと言っていたぞ、シンゾー。賠償しろと言ってたぞ」なんてトランプ大統領に言われたら目も当てられませんからね。私は北朝鮮に対する戦後賠償が拉致解決のための唯一の交渉カードだと主張してきました。しかし米朝首脳会談で、金正恩委員長の請求書をトランプ大統領が預かってきて安倍首相に渡すなんてことになったら、そのカードが役に立たなくなる。それが心配です。
 
――いまの安倍政権の様子を見ていると、日朝首脳会談が実現するのかさえ、怪しい感じです。
蓮池 それはわかりませんが、日朝首脳会談が実現するとしても、いまの情勢では米朝首脳会談の後でしょうから、最後の搾りかすみたいな会談になってしまう。だから、そうならないように、日本は首脳会談前に積極的に交渉して、具体的な道筋をつけることが大切になってくる。今回の南北首脳会談で金正恩委員長も話せばわかるということがわかった。日本はこれまで戦略なんてなく、圧力一辺倒のバカのひとつ覚えでやってきたわけですから、対話の局面になったとき、どうするのか。時すでに遅しかもしれないですけど、こうした状況になったいま、具体的な交渉戦略を検討すべきだと思います。
 そのためには、以前から言っていますが、“拉致問題の解決とは何か“をきちんと定義しなければいけません。「ここまで到達したら解決だよ」と北と協議し合意を得た上で、会談をする。いまは日本が守勢に回っていますから、それを挽回する必要がある。
 
――たしかに、拉致問題解決には蓮池さんの言う通り日本の主体的な働きかけが必要ですが、マスコミもこうしたことを指摘するどころか、安倍首相を擁護するかのように、「北は信用ならない」「何度も裏切られてきた」とヒステリックに報じるばかりです。
蓮池 安倍首相の応援団となっている日本のマスコミもひどいと思います。なぜ朝鮮半島が分断されたのかを念頭において話していない。分断の原因をつくったのは日本なのですから、それをまず念頭に置いて、基本として報道しないといけないと思う。しかしマスコミはその視点が欠けていて、まったく歴史的視点を棚にあげて勝手な批評をしている。「非核化の道筋がない」「金委員長がまたデタラメを言っている」「何度も裏切られているから」なんていうコメントばかり。そんなことはどうでもいいでしょう。北の肩をもつわけではないが、朝鮮半島の平和に向けての第一歩なはずで、南北があれだけ親密にしているんですから、それがもしパフォーマンスだったとしても、日本としては大いに歓迎すべきだと思うんです。もっと素直になれよと思うんです。会談を見ていて金正恩委員長は話がわかる人なんだなということが垣間みえた。「狂気の男」「残虐な素顔」とかそんなことを言っていないで、きちんと分析しないといけないと思います。マスコミの論調は“北に対し疑心暗鬼になるのは当然”というもので、しかし、朝日新聞までもが「信用していいのか」なんて書いています。元外務官僚の天木直人さんはこれを“一億総安倍化”と言っていましたが、その通りですね。南北首脳会談の成果を素直に受け入れて、歓迎すベきは歓迎することです。
 
蓮池透が「安倍からですと手渡された封筒に20万円が入っていた」と自ら告白
 
――しかし、この“一億総安倍化”は、拉致問題以降、安倍首相や「救う会」が圧力を加え続けた結果でもあります。蓮池さんはインタビューや著作で、「家族会」も安倍首相や「救う会」に洗脳され、政治的に利用されていたということを告発されていましたが、それも「北朝鮮への圧力を強める」という以外の選択肢を許さない空気に支配されてしまった理由ではないでしょうか。
蓮池 私も含めて「家族会」が安倍首相らに誘導されて、拉致問題解決とは関係のない政治的主張をし、その空気づくりに加担させられてしまったという問題はあると思います。安倍首相は当時、いろんなかたちで私たちを洗脳し、懐柔していましたから。そういえば、先日、あるメディアから「森友問題で籠池理事長が安倍首相から100万円をもらったと言っているが、蓮池さんは安倍首相から金銭をもらったことはないか」と問い合わせがあったのです。で、記憶をたどって思い出したのですが、たしかにあったんですね。2003年3月、家族会の事務局長として、アメリカ・ワシントンに行ったときのことです。ホテルに着いてロビーにいたら政府関係者が近寄ってきて「安倍からです。ワシントンで使ってください」と茶封筒を渡されたのです。中には20万円が入っていました。当時はつい受け取ってしまったのですが、安倍さんは、こうやってお金を渡すのが常態化していたのでしょう。他の家族会や拉致被害者のなかにももらっている人は当然、いると思います。
 
 もちろん安倍首相からお金を受け取ってしまったことは、いまは反省していますし、強く後悔しています。それ以前に、アメリカに行くべきではなかった。
 実際、日本政府が勝手にどんどん米高官との会談日程を入れて、完全にパフォーマンスとして利用されただけでしたから。でもあの状況下では、自分たちを助けてくれるのは安倍首相だ、安倍首相の言うことを聞いていれば、拉致問題は解決するというふうに思い込んでしまっていたんですね。
 
――お金まで配られていたとは驚きですが、「家族会」はいまも安倍政権や「救う会」に操られ、政治的に利用されているんじゃないかという気がします。その結果、マスコミもいまだ「対話などあり得ない」という呪縛から抜けきれない。ただ、一方で、横田早紀江さんなどは「日本政府を信じてきて良かったのか」という発言をするなど、騙されていたことに気づき始めた人もいるのではないかと思いますが。
蓮池「家族会」は米朝首脳会談を前に、4月30日、米国政府に協力を求めて渡米しましたが、これは、日本政府はあてにならないと言っているようなものですからね。日本政府もそれを止めるわけでもなく行かせてしまった。でも、これは私のときと同じで、たんにパフォーマンスとして利用されるだけだと思います。そうではなく安倍首相に「安倍さん中東行かないで一緒に北朝鮮に行きましょう」と言うべきだったんじゃないでしょうか。とにかく、「家族会」には一刻も早く目を覚ましてほしいと思う。そして世論に「圧力でなく対話」を訴えていかないと、拉致問題はこのまま放置されてしまいますよ。
 
――たしかに南北首脳会談、米朝会談で拉致問題解決にも希望が見えたとはいえ、まだまだ障害はありますね。しかも、最大の障害は北朝鮮でなく、日本だということですよね。
蓮池 繰り返しになりますが、圧力では拉致問題解決はできない、そして安倍さんに拉致問題解決の意思がないことは、今回の南北首脳会談で浮き彫りになったんです。安倍首相は“好き嫌い”や“敵味方”で外交をしてきた。そのつけがいま回ってきている
 一方、韓国の文大統領は極めて戦略的に自ら打って出て、朝鮮半島の危機回避、非核化への確実な成果をあげた。しかし、日本政府も日本マスコミもそのことを認めようとはしないで、逆に、安倍首相の失態を隠すために南北首脳会談を矮小化している。でも、そんなことをしていたら拉致問題はどうなりますか。まずは会談の成果を認めた上で、日本はどうするか、具体的な道筋や交渉条件を考えなくてはいけない。本当に時間がないんです。(構成・編集部)