2018年5月10日木曜日

対北経済援助という切り札まで失った日本外交の挫折(天木直人氏)

 北朝鮮の核開発問題解決のため関係六ヵ国(北朝鮮、韓国、日本、米国、ロシア、中国)で協議(2007年・第6回で中断)を重ねていたころの日本は、経済的に豊かで潤沢な資金を持っていました。
 ところがその後中国が大発展を遂げ、外貨の不足に悩まされていた韓国も立ち直る一方で、日本はランキング上もじりじり落下していきました。直近の年間輸出黒字額は、中国が45兆円、韓国が13兆円に対して、日本は3兆円です。
 日本が対北用の財布役という時代はとっくに終わりました。もしもいまだにそんな感覚でいるのであれば大間違いです。
 
 週刊ポスト最新号(5月18日号)によれば、米朝関係が改善し国連の経済制裁が解除されれば、まず中国と韓国から止まっていた投資がどっと流れ込むので、金正恩がカネ欲しさに日本に譲歩する状況にはならないということです。そうなると日本は札束外交という唯一の切り札まで失うことになる、と天木直人氏は述べています。
 
 いまや北朝鮮に対する日米の態度は完全に一致している、などという安倍首相の説明は空しい限りです。
 金正恩氏が南北首脳会談で「いつでも日本と対話を行う用意がある」と述べた後にも、日本が北への制裁と圧力の維持を唱え続けていることに対して、労働新聞は6日、「安倍政権は北朝鮮への制裁と圧力の維持を唱えながら、米韓を通じて日朝対話を模索している」と批判し、「日本の孤独な境遇は実に哀れだ」、「下心を捨てない限り、1億年たってもわれわれの神聖な地を踏めないだろう」と述べました。
 
 こうなれば日本としては、2002年の日朝平壌宣言」の精神に立ち返って、拉致問題を早急に解決するとともに、植民地支配への賠償などに誠実に取り組むしかありません。
 7日午前のフジテレビが、〈日本政府は、日朝首脳会談年内の開催を目指、調整を開始する方針を固めた〉と伝えたということですが、一体なぜそんなにも「悠長」なのか理解に苦しみます。
 また夕刊フジのインタビューで、「拉致問題解決に向けた日朝首脳会談はあるのか」と訊かれたのに対して安倍首相は、「  日朝会談を行う以上、成果が見込まれなければダメだ。何がベストかを検討したい」と答えています。
 これも「成果が見込まれなければ日朝会談を行わない」かのように聞こえ、あまりにも拉致被害者家族の思いから隔たっていて唖然とします。正常な感覚を有していないのでしょうか。
 
 天木直人氏のブログと日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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経済援助という切り札まで失った日本の対北朝鮮外交の挫折
天木直人のブログ 2018年5月9日
 経済支援という名の巨額の賠償金を払って国交正常化を行い、同時に拉致問題を包括的に解決する。
 これが小泉訪朝で合意した平壌宣言だった。
 その平壌宣言が、北朝鮮の核開発は許さないという米国の横やりで挫折してからも、日本側はつねに北朝鮮との交渉においては、日本には経済援助という切り札があると高をくくって来た。今度の米朝首脳会談でもそうだ。
 
 米朝合意が実現した暁には、多額の北朝鮮の経済開発の支援が必要となる。
 その時こそ日本の存在価値が出てくると過信したり、逆に米朝合意が実現すれば日本はそのツケだけを払わされるという批判もある。
 きのうの日刊ゲンダイ(5月9日号)も、経済支援額が膨らんで4兆円もの手土産を安倍首相は持参することになると批判的に書いている。
 その一方で、安倍政権の中には、拉致問題が解決しない限り、びた一文渡すな、援助を武器に拉致被害者の全員帰国を実現すべきだという強気な意見もある。
 いずれにしても経済援助が日本の対北朝鮮外交の切り札だという認識で一致している。
 
 ところが、それがとんだ買い被りになりつつあるのだ。
 今日発売の週刊ポスト(5月18日号)が、日朝交渉に関わって来た外務省関係者の言葉として、次のように書いていた。
 米朝関係が改善し国連の経済制裁が解除されれば、まず中国と韓国から止まっていた投資がどっと流れ込む。だから金正恩がカネ欲しさに日本に譲歩する状況にはならないでしょう、と。
 なるほど。そうかもしれない。
 もしこの外務省関係者の言う事が本当なら、日本は札束外交という唯一の切り札まで失うということだ。
 日本は日本を過大評価しているのだ。
 北朝鮮の潜在的経済力は大きいはずだ。北朝鮮の経済開発という一大利権まで米国と中国に山分けされてしまう。それほど安倍首相の対北外交は蚊帳の外にあるのだ。
 そして週刊ポストは駄目押ししている。
 日本は韓国に慰安婦問題解決の為に10億円拠出した。
 慰安婦問題は北朝鮮との間でもある。
 北朝鮮は今度は北朝鮮に対しても10億円よこせと言い出しかねないと。
 踏んだり蹴ったりだ。
 安倍首相の対北朝鮮外交は、米朝首脳会談の成功により完全に挫折する事になりそうである(了)
 
 
「蚊帳の外」否定に躍起 日朝会談年内実現に4兆円ブラ下げ
日刊ゲンダイ 2018年5月9日
 よっぽど、「蚊帳の外」批判が腹に据えかねているのだろう。南北首脳会談以降、安倍首相がしきりに日朝対話の準備をアピール。2002年の日朝平壌宣言を引き合いに「国交正常化」を目指す考えまで公言し始めたが、どこまで本気なのか。巨額の戦後補償というニンジンをぶら下げ、あわよくば金正恩朝鮮労働党委員長を拉致交渉のテーブルに着かせる  。いかにも出たとこ勝負のさもしい発想は、痛い目に遭うのがオチだ。
 
〈日本政府は、日朝首脳会談の年内の開催を目指し、調整を開始する方針を固めた〉
 驚きの一報を伝えたのは、7日午前のフジテレビ系のニュースだ。フジの取材に、政府高官は「彼らが欲しいのは日本の経済支援」「年内の日朝首脳会談の開催は、十分あり得る」と語ったという。
 
 日本が経済支援をする根拠は、安倍首相が最近よく口にする「日朝平壌宣言」だ。
「2002年9月に当時の小泉首相が初めて訪朝した際、金正日総書記と署名した共同文書です。日本側は国交正常化後に、過去の植民地支配への補償として、無償資金協力など大規模な経済支援の実施を約束しました」(外交関係者)
 しかし、北が示した「拉致被害者8人死亡」の伝達に、世論の批判は沸騰。日本政府は平壌宣言の履行には「拉致問題の解決が不可欠」との姿勢を崩さず、交渉は暗礁に乗り上げた。
 それから16年近く。安倍首相が再び日朝平壌宣言を持ち出す理由は明白だ。北との交渉ルートが見当たらない中、大規模な経済支援をチラつかせれば、貧窮する北側も対話に応じるに違いない。そうすれば融和ムードに乗り遅れず、「蚊帳の外」批判もかわせる――。そんな相手の足元を見た「甘い期待」が透けて見えるのだ。
 
■札ビラで頬を叩く手法は「外交」とは言えない
 金正恩を振り向かせ、蚊帳の外から抜け出すために、安倍首相はどれだけの規模の経済支援を準備するつもりなのか。
 朝日新聞によると、北朝鮮は日朝国交正常化が実現すれば、100億~200億ドル(約1兆90億~2兆180億円)の経済支援が望めると計算しているという。1965年の日韓国交正常化に伴う経済支援では無償・有償あわせて5億ドルが支払われた。この額は当時の韓国の国家予算のほぼ2倍。今の北朝鮮の国家予算は約2兆円とされるから、経済支援が4兆円程度に膨らんだって、おかしくないのである。
 
「外交の基本は相手国の信頼を得ること。札ビラで頬を叩き、北朝鮮をさげすむような手法は外交というより、大人の対応とは言えません。仮に対話が実現しても、拉致被害者5人の帰国から15年が過ぎた今、北が『実は他の被害者も生きていました』と認める勝算はどれだけあるのか。安倍政権の対北外交は何ら戦略もなく、常に行き当たりばったり。蚊帳の外批判にムキになって反発し、日朝対話を模索しているだけなら、必ず深みにはまります」(外交評論家・小山貴氏)
 6日付の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、圧力維持を掲げながら、米・韓を通じた日朝対話を模索する安倍政権について、〈悪い癖を捨てない限り、1億年経っても我々の神聖な地を踏むことはできない〉とコケにしていた。
 
 行き詰まった日朝外交の打開には、サッサと安倍首相にお引き取り願って、いったんリセットするしか道はない。