2018年5月26日土曜日

米朝首脳会談中止 北朝鮮は「中国の傘の下で非核化」へ向かう

 米朝首脳会談の中止は、いわば米朝首脳会談の下打合せで、「非常識な対北強硬路線を歩む以外のことは何もできなかったトランプ政権体制」がもたらした必然と言えます。
 
 トランプは北の反発を受けると、即座に「リビア方式はとらない」と明言したにもかかわらず、「リビア方式以外の路線を具体的に歩める」外交関係スタッフが只の一人もいなかったので、具体的に北が望む方向に舵を切ることが出来ませんでした。
 従って、そのままで12日を迎えれば、米国と北朝鮮は対等な立場でテーブルに座り、北朝鮮が要求する体制保証を米国が提供し、北朝鮮の後ろ盾である中国の力の前に米国が押し切られたという構図になってしまう」ので中止せざるを得なかった、と「世に倦む日々」氏は分析しています。
 
 自分で政権内を米朝和解に反対のCIA系の閣僚で固めておきながら、米朝和解に向けて歩みだし、結局はそうした閣僚たちに説得されて断念したわけです。
 結果論ですが、彼らを説得する自信がないのであれば最初からそんなことに取り組むべきではありませんでした。
 「世に倦む日々」氏は、「北はこのまま核放棄路線を継続し、中国の核の傘で守ってもらい、中国による経済封鎖を解除してもらえばいい。そうすれば丸腰になった北朝鮮の安全保障は担保され米朝戦争と北朝鮮の体制崩壊を未然に防ぐことができる(要旨)」と述べています。
 なお、今回の顛末に関して韓国の文大統領に何の非もないことは明らかです。
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米朝首脳会談の中止 - 北朝鮮は「米国なき非核化外交」へ向かう 
世に倦む日々 2018年5月25日
トランプが金正恩に宛てた書簡を公表し、6月12日に予定されていたシンガポールでの米朝首脳会談を中止すると通告した。事態はなお流動的だが、非常に残念な展開になってしまった。これに対して、北朝鮮は金桂冠が声明を出し、「極めて遺憾」と言いつつ、「北朝鮮としては問題解決のため、いつ、いかなる形ででも直接会談する意向があることをあらためて米側に伝える」と言って、態度を柔和に転換させている。ここには挑発的な言動はなく、北朝鮮の真意が伝えられていて、水面下での交渉を継続させ、米朝会談を実現させたいという意向が滲んでいる。なぜこのような展開になったのか。3月まで遡って経過全体を捉え直して言えば、トランプ外交の拙速が招いた破綻と言える。トランプは功を焦って米朝会談の実施をあまりにも急ぎすぎ、準備なしに早期のゴールを設定してしまった。中間選挙のためのアクロバティックな外交だったため、その歪みと無理が噴出してしまった。鄭義溶ら韓国代表団が訪米し、金正恩が非核化の決意があり、米朝首脳会談を希望していると伝えたとき、トランプはその場で即座に米朝会談を応諾し、ホワイトハウスの庭でそのことを鄭義溶に発表させた。 
 
このとき、トランプは、早期の米朝首脳会談への猪突猛進に反対するティラーソンを馘首していて、トランプの超高速の北朝鮮外交は、ティラーソン切りの内部政局と重なっていた。トランプはこの外交の実務をCIAに委ね、穏健派の国務省(ジョセフ・ユン)のラインを完全に外してしまう。DCの世界と全く無縁の一匹狼のトランプは、DCで政策の実務を回すスタッフの人脈がない。腹心の参謀たるブレーンもいない。その役割を担う人間は、政権発足以来次々と切ってきた。完全なワンマンなのである。だから、方針を決めることはできるけれど、具体的に中身を詰め始めると矛盾が出てきて、方針どおりに政策を動かすことができないのだ。マクマスターを切って後釜に据えたボルトンは、嘗て、対北朝鮮と対イランで核問題を担当した経験者であり、トランプはそこを買って補佐官に任用したのだろうが、トランプの望む「米朝会談の成功」の絵とは全く逆の方向性しか考えてない右翼だった。ポンペイオの下で今回の外交実務を担い、平壌で交渉に当たったアンドリュー・キムも同じで、基本的には「リビア方式」しか頭になく、双方が歩み寄って合意などというシナリオはない。
 
前回、私は、「チキンゲームに勝利した北朝鮮」という記事を書き、ボルトンら強硬派の失脚を論じたが、実際のところ、トランプの下には強硬派しかおらず、トランプがボルトンの「リビア方式」を却下しても、北朝鮮との妥協をキャリーするハト派のスタッフがいないのである。だから、18日にトランプが「リビア方式の適用はない」と会見で発表しても、交渉現場で米国側の態度は変わらず、体制保証の見返りは曖昧にしたまま、一方的に核放棄のプロセスとスケジュールを要求し、承諾を迫る米国側の姿勢に変化はなかったのだ。恥をかかされたボルトンはペンスに泣きつき、巻き返しを図っていく。そして、21日のペンスの警告となり、24日の崔善姫の非難声明となり、悪い方に転がって行き、トランプの決断となった。トランプ政権を楽観視しすぎた北朝鮮側の読み違えという問題もあるが、この外交がトランプの思惑とはずいぶん違ったものになったというのが真相で、トランプが浅知恵すぎ、参謀を持っていなかったという欠陥の露呈だ。当初、トランプは、北朝鮮は簡単に非核化を受け入れるだろうし、面倒なことは言って手こずらせることはないだろうと思っていた。まして、中国を後ろ盾にして米国と渡り合う構えを見せるなど、予想外だったに違いない。
 
現状、トランプが3月に想定していたような、子どもの金正恩が父親のトランプの説得に従い、やんちゃ坊主を止め、素直で従順な生き方に更生するというような、そういう「米朝会談の成功」の絵は遠のいている。北朝鮮が米国に屈服し、全面非核化を世界に誓い、トランプが MAKE AMERICA GREAT AGAIN の雄叫びを上げて鼻高々になり、中間選挙の集票の材料にするというような、そういう図式ではなくなった。このまま首脳会談に臨めば、米国と北朝鮮は対等な立場でテーブルに座り、北朝鮮が要求する体制保証を米国が提供し、北朝鮮の後ろ盾である中国の力の前に米国が押し切られたという構図になってしまう。ペンスら右翼はそう判断する。右翼と軍人しかいないトランプ政権のチームはそう判断する。その図はトランプにとって大いに不本意で、トランプの決断で会談中止になってしまった。このことは、トランプ自身にとって大きなマイナスの影響となる。3月以来、この北朝鮮外交でトランプがずっと言ってきたことは、オバマやクリントンなど歴代大統領の無能で、オレは違うということだった。自分はこうやって北朝鮮の非核化を実現して成果を出したと、そう豪語して喝采を受けるというのがトランプの戦略だった。
 
米朝会談を自ら決裂させたことで、トランプは面目を失ったと言える。このことは、トランプ政権とDCの権力状況全体にも影響を及ぼすはずで、トランプ個人のカリスマの失墜を導く結果になるだろう。ペンスとボルトンが力を増し、以前にも増してCIA(軍産複合体)の論理と意向がホワイトハウスの政策を支配するようになると思われる。面目を失ったのは、トランプ以上に韓国の文在寅政権で、今は相当に狼狽し憔悴しているに違いない。この北朝鮮非核化の外交のステージで、これまで文在寅は輝くスターであり、スタッフのいないトランプの右腕として機能してきた。この歴史的な外交を前に押し進めていた。だが、その過程は、何度も指摘してきたように、米国の保守派・CIA派との権力闘争の刻一刻であり、トランプがCIA側(右)に傾いたり、文在寅側(左)に傾いたりを繰り返してきた日々だった。文在寅政権が右翼CIAの側からどういう性格に見えるかは、櫻井よしこがプライムニュースで何度も言っている。テレビではとても口に出せないような過激なことを、この上品で美貌の高齢女性は簡単に言いのけてしまう。この政治は右と左の戦いだった。現時点で、左(文在寅)が破れた格好になっている。韓国の保守マスコミは勢いづき、ハリスやコリアハンドラーズと一緒に文在寅の追い落としに動くだろう。
 
私は悲観していない。何度も言ってきたように、北朝鮮の非核化とは、北朝鮮が自国の長期戦略として決めたことで、後戻りはないと確信するからだ。米国との直接交渉が破綻したとしても、北朝鮮は非核化を進めるだろうし、舵を切ったその方向で周辺の国々と外交関係を深め、国際社会で本気を認められようとするだろう。北朝鮮の非核化は、米国に対して行うものではなく、物理的にそれをやれば、国際社会に対して一つの行為になるものだ。そして、北朝鮮にとって最も重要な目的は、中国による経済制裁を解除することであって、中国とロシアと韓国が一致協力して国連で運動を進めれば、EU(英仏)のエンドースを得て、米国を単独拒否権行使の立場に追い込み、ギブアップさせられることができる政治である。体制保証についても、米国が提供しなければ中国が提供すればよい。中国が「核の傘」を差し出せば、それで丸腰になった北朝鮮の安全保障は担保される。その措置が講じられることによって、米朝戦争と北朝鮮の体制崩壊を未然に防ぐことができる。その進行になれば、北朝鮮は非核化の対価を得られ、そもそもの目的を達成することができる。今後、そうした動きが起き、中国と北朝鮮が平壌で首脳会談して明らかにして行くだろう。この地域の責任大国であり、これまで脇役の地位で甘んじていた中国が、これから主役として割り込んでくると思われる。
 
同じくロシアも、出番を探して顔を出してくるだろう。北朝鮮の非核化は、南北中露の四カ国の体制で立て直されるものと期待する。紆余曲折はあり、バックラッシュの局面はある。だが、歴史は確実に前へ進んでいく。北朝鮮は「米国なき非核化外交」の道へ進むだろう。