岸井成格さんが、15日午前3時35分、肺腺がんのため東京都内の自宅で死去されました。73歳でした。
岸井さんはNEWS23のアンカーの他、長らくサンデーモーニングのメイン・コメンテーターとして政治に鋭く切り込みました。
2016年3月、3年間つとめたNEWS23のアンカーを降ろされたのは、彼の鋭い政権批判が官邸の逆鱗に触れたからと見られています。
降坂させられた年の7月、日刊ゲンダイのインタビューで「偏向報道かどうかを権力側が決めるなんてことはありえない。それなのに、突然、権力側にそうした権限があるかのように言い出したのが安倍政権なのです」と語りました。
日刊ゲンダイが追悼の意味をこめて、その時のインタビュー記事を再掲載しましたので紹介します。
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「NEWS23」アンカー岸井成格さん死去 安倍政権の暴走批判
日刊ゲンダイ 2018年5月16日
岸井成格(きしい・しげただ=毎日新聞社特別編集委員)さんが、15日午前3時35分、肺腺がんのため東京都内の自宅で死去した。73歳だった。
東京都出身で1967年、毎日新聞社入社。ワシントン支局、政治部長、論説委員長などを歴任。TBS系の情報番組「サンデーモーニング」などの番組にコメンテーターとして出演した。
2016年3月、アンカーを務めていた「NEWS23」を降板した際、安倍政権への批判的な姿勢が影響したといわれた。同年7月、日刊ゲンダイのインタビューで「偏向報道かどうかを権力側が決めるなんてことはありえない。それなのに、突然、権力側にそうした権限があるかのように言い出したのが安倍政権なのです」と語っていた。
注目の人 直撃インタビュー
元NEWS23岸井成格氏 「このままだとメディアは窒息する」
日刊ゲンダイ 2016年7月10日
選挙報道が減ったのはイチャモンが面倒くさいから
改憲派が3分の2を制するのか。天下分け目の参院選を前にこの国の報道の静かなこと。まともに争点を報じず、アベノミクスの検証すらやらない。この国のテレビはどうなっているのか? さぁ、このテーマを聞くなら、この人。毎日新聞特別編集委員の岸井成格氏(71)しかいない。
――参院選の報道を見て、どう感じますか? 報道の量そのものが減ってしまったような気がします。
その通りだと思いますね。集計していないのでハッキリわかりませんが、減っている印象です。2014年の衆院選の時も、テレビの選挙報道は減った。従来の衆院選の時に比べて半分くらいになった。そうした傾向が続いていますね。
――2014年の衆院選といえば、安倍首相が岸井さんの「ニュース23」に生出演して、文句を言った選挙ですね?
アベノミクスについての街録で反対意見が多すぎる。局が恣意的に選んでいるんじゃないか。そういうことを言われたんですが、その2日後に自民党からテレビ各局に政治的に中立、公平な報道を求める文書が届いた。街録の人数とか時間とか具体的なことにまで踏み込んで要請文書が来たのは初めてでした。
――テレビ局がスクラムを組んで文句を言うかと思ったら、選挙報道そのものが減ってしまった。
街録そのものもなくなっちゃった。
――なぜですか?
イチャモンをつけられるのは嫌だからでしょう。それに現場は面倒くさい。街録でアベノミクスに5人が反対したら、賛成5人を集めなきゃいけない。面倒だから報道そのものが減ったんですが、今回は参院選の争点も番組で扱わなくなっている。だから、何が争点だか、ぼやけてしまっている。舛添問題や都知事選の報道ばかりで、参院選を真正面から取り上げている番組が少ない。今度の参院選が盛り上がらないのは、権力側が争点隠しをやっていて、メディア側も与野党の相違点をきちんと報じないからですよ。
――この調子だとまた投票率が下がるかもしれない。
前回は52%ですか。それよりも下がるかもしれませんね。
――争点はズバリ、改憲と言論弾圧を許すのか否かじゃないですか?
特定秘密保護法に始まり、安保法制の強行、高市総務相の電波停止発言、それに自民党の改憲草案。中でもいざという時には国民の権利を制限できる緊急事態条項の創設ですね。これらを一連の流れで見ていくと、国家統制、監視社会の強化の方向に向かっているのは間違いないと思います。そういう時にメディア側が萎縮していていいのか、権力側に忖度していていいのか。強い危機感を覚えます。
――高市発言の際には岸井さんや田原総一朗さんらが立ち上がって外国人記者クラブで会見を行った(2月29日)。それでも現場は変わりませんか?
去年よりひどくなっています。「息苦しい」という表現が使われましたが、それを通り越して、このままだとメディアは窒息するんじゃないか。
――それほどですか? それは現場のディレクターなどの言動からですか? それとも上からの圧力?
具体的にどうのこうのというより、肌で感じる部分がありますね。
意見広告が出たときは「気持ち悪いなあ」と
――改めて、「ニュース23」の降板騒動について伺います。騒動のキッカケは昨年9月、いきなり新聞に意見広告が出て、岸井さんの発言が放送法違反であると糾弾されたことでした。
驚きましたよ、最初、何の広告だろう、気持ち悪いなあ、と思って読んでみたら、全編、僕と23への批判だった。
――文化人による意見広告の形を取っていましたが、裏には安倍官邸のにおいがしました。
皆さん、安倍応援団ですからね。
――つまり、官邸と一体であると?
彼らが官邸の空気を先取り、忖度して、広告を出したのかもしれません。でも、これが高市電波停止発言につながっていく。23では「変わりゆく国」というシリーズを組み、40回も安保法制の問題を取り上げました。アーミテージ元国務副長官のインタビューもやりました。アーミテージ氏はこう言ったんですよ。「日米共同で何かを行うために議論を始めようとすると、必ず憲法9条がバリケードのように塞いできた」と。解釈の変更による今度の法律でバリケードが取っ払われる、そんな言い方をしたんですね。
――本音をズバリ吐露ですね。
自衛権という言葉に騙されてはいけません。米国のために出ていくのですから。しかし、こういう議論を国会できちんとしていないでしょ? だから、番組で何回も取り上げたことを偏向報道だと批判された。
――背筋が寒くなるというか、恐怖心はなかったですか?
僕も甘くて、タカをくくっていた部分はあるんです。僕も取材してますから、官邸や自民党サイドから、「岸井はやりすぎじゃないか」「こういう発言は問題だ」という声は聞こえてはいました。でも、それを圧力とは思わなかった。あの広告を見て、初めて、ここまで苛立っていたのかと思いましたね。
――それが「ニュース23」降板につながったのでしょうか?
TBS側はメーンキャスターの膳場貴子さんが産休に入るので前から番組一新を考えていた。そうしたら、あの意見広告が出たものだから、困っちゃった。決して圧力に屈して決めたわけではありません、という説明でした。
――その説明を信じている?
今年5月、国連の人権委員会からデイビット・ケイ米カリフォルニア大教授が日本の「表現の自由」について調べに来た。僕の問題も調べて、インタビューを受けましたが、彼は圧力のエビデンスが見つからなかったと言っていました。でも、「岸井を辞めさせた方がいい」という声もありましたからね、忖度もあったのかもしれない。
――そもそも素朴な疑問なんですが、テレビ局側は権力側に媚びたり、忖度すると、何かいいことがあるんですか?
メディアにとってはいいことひとつもありませんよ。自殺行為なんだから。
――それなのに忖度するのはなぜですか?
面倒くさいのがひとつ。もうひとつはスポンサー。
――権力に逆らうと、スポンサーがなんか言ってくるんですか?
役所から「なぜ、あの番組のスポンサーをするのか」みたいなことを聞かれた社長はいたみたいです。
――もうひとつ、忖度すると総理が番組に出てくれるというのもあるんじゃないですか? というか、忖度してくれる番組を選別して協力している感じがします。
選別、これはハッキリしていますね。昨今は安倍チルドレンといわれる国会議員を中心に、なんか偏向報道は取り締まるのが当たり前みたいな感覚がある。これは安倍首相自身がテレビ報道に対してトラウマがあるからでしょう。初当選が93年で、この年、自民党は下野した。その背景には細川政権を応援しようというテレビ朝日の椿発言などがあった。そうした首相のトラウマが自民党の若手国会議員にも伝播し、広がっている。メディア側はそれを忖度して、自粛する。場合によっては番組内容を変える。ときにはキャスターまで代えてしまう。
■都知事候補だった桜井俊前次官がやってきたこと
――総務相が電波停止命令ができる放送法がある限り、テレビはいつでもそうやって脅されてしまう。違いますか?
放送法というのは戦前の反省から権力の介入を排除するために作られたんです。政治的に公平中立な放送を求めているのは、権力側の介入を許さないためで、偏向報道かどうかを権力側が決めるなんてことはありえない。それなのに、突然、権力側にそうした権限があるかのように言い出したのが安倍政権なのです。
――ここでも憲法の解釈変更のようなことが行われたということですか?
役所において、その中心にいたのが都知事候補だった桜井俊前総務省事務次官ですよ。
――岸井さんは政治記者として、若いころから安倍首相を知っているわけですよね。首相として、どういう評価をしていますか?
晋太郎さんの担当だったし、岸信介さんのロングインタビューもやりました。当時、晋三さんは秘書だった。いつのまにか右のプリンスみたいになって登場しましたが、政治に対する考え方や進め方について、問題がある首相であると思います。
(聞き手=本紙・寺田俊治)
▽きしい・しげただ 1944年9月生まれ。慶大中高を経て、慶大法卒。毎日新聞入社。主筆を経て特別編集委員。