「取引」に長けたトランプ大統領は、北朝鮮の瀬戸際外交に対抗し「米朝会談を中止する」との書簡を金正恩氏に出すという強気の交渉術で、本心は米朝和解を願っている北朝鮮から主導権を奪い返し、いまは一転して6月12日の米朝会談の実現に向けて前のめりになっています。その背景に違いはあるにしても、米朝会談を実現し何らかの実を上げたいという点では米朝トップの思いは同じです。
ただ、最大の焦点となっている北朝鮮の非核化をどう進めるかをめぐっては、米朝の間で立場の違いが浮き彫りになっています。トランプ政権内でリビア方式を目指してきたメンバーは、目前に迫った12日の会談では成果が得られるのかと懐疑的に見ていますが、トランプ氏はツイッターでそうした見方を否定しました。トランプ氏も米政権内で主導権を取り戻したようです。
天木直人氏は、リッパート前駐韓米国大使が米朝首脳会談の行方について見事に言い当てているとして、彼の「準備期間が短いことから会談までに課題の詳細部分を詰めることは難しいが、首脳会談で望まれる成果は、詳細部分を協議するための実務者協議の枠組みを確立させることだ。今度の首脳会談はトップダウンで決定される」とする見方を紹介しました。
そして「体制保証」が何を意味するのかや「不可逆的で検証可能な完全非核化」が何を意味するのかについては、トランプ氏と金正恩氏がトップダウンで合意した後で、実務者が時間をかけて協議すればいいのだと述べました。そうすれば、その間に北朝鮮の改革、開放は一気に進むことになるとしています。
確かに米政権の極右メンバーに非核化の詳細を詰めさせても、埒があかないだけでなく決裂の可能性を深めるだけなのでトランプ氏の政治的決断が望まれます。
英国BBC NEWS(JAPAN)は28日、開催への努力が続けられている米朝首脳会談に文在寅大統領も参加する可能性があると明らかにしました。文大統領は先月も、自身を含めた3者による首脳会談を提案しています。
そもそも米朝首脳会談の環境を作り上げたのは、文大統領が主導した南北宥和でした。強気で鳴るトランプ氏と金氏の二人に、文大統領が加わるのは確かに良いアイディアで、文氏は最適の仲介者です。
東京新聞、天木直人氏のブログ、英BBC NEWSの各記事を紹介します。
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トランプ氏一転 前のめり 「米朝 今も事前交渉」
東京新聞 2018年5月28日
【ワシントン=後藤孝好】トランプ米大統領は二十六日、ホワイトハウスで記者団に、米朝首脳会談について「われわれは六月十二日にシンガポールで開くことを検討している。何が起きるか見てみよう」と述べた。一度中止を通告した会談を予定通り開催することに前のめりになっている。
トランプ氏は「今もある場所で(北朝鮮との)話し合いが行われている。場所がどこかは言えないが、ここからそれほど遠くないところだ」と明言した。ニューヨークにある北朝鮮の国連代表部を通じた非公式の外交チャンネルで米朝が接触を再開した可能性がある。
首脳会談の事前協議へ向けた動きも活発化。米メディアによると、会談内容などを調整する先遣隊は、ホワイトハウスや国務省の職員ら三十人規模で構成。二十七日に出発し、二十八日にシンガポールに到着する予定だという。
「取引(ディール)」が得意と自負するトランプ氏は、北朝鮮の瀬戸際外交に対抗する強気の交渉術で北朝鮮から主導権を奪い返した格好で、朝鮮半島の非核化で成功すれば「北朝鮮や韓国、日本、米国、中国、世界にとって素晴らしいことだ。多くの人がそれに取り組み、とてもうまく動いている」と自信を示した。
ただ米政府高官は二十四日、事前準備の不足から六月十二日の開催は「時間が足りない」との見通しを示している。米紙ニューヨーク・タイムズは、ある高官の話として「六月十二日は十分以内(に会談する)と言っているようなものだ」と報道。トランプ氏は二十六日、ツイッターで「間違いだ。でっち上げの情報源を使うな」とかみついた。
米朝首脳会談の行方を言い当てたリッパート前駐韓米...
天木直人のブログ 2018年5月28日
きょう5月28日の朝日新聞紙上で、リッパート前駐韓米国大使が米朝首脳会談の行方について見事に言い当てている。
米朝首脳会談の実現に向けて前に進むだろうと。
両国は(中止発表後も)離反するのではなく、逆に首脳会談の開催に向けてお互いに近づきつつあると。
極め付きは、今度の首脳会談はトップダウンで決定されるとして、次のように語っているところだ。
すなわち、準備期間が短いことから、会談までに課題の詳細部分を詰める事は難しいと。
だから首脳会談で望まれる成果は、詳細部分を協議するための実務者協議の枠組みを確立させることだと。その通りだ。
つまり今度の首脳会談は、トランプと金正恩が北朝鮮の体制保証と引き換えに北朝鮮の完全非核化で合意する。首脳間の合意はそれだけでいいのだ。
そして首脳間のその合意こそすべてなのだ。
体制保証が何を意味するか、不可逆的で検証可能な完全非核化が何を意味するか、そんな事は、トランプと金正恩がトップダウンで合意した後で、実務者が時間をかけて協議すればいいのだ。その間に北朝鮮の改革、開放は一気に進む。
皆が北朝鮮の経済開発、観光開発に参加する。
トランプタワーが平壌に出来るかも知れない。
もはや、体制保証とか北朝鮮の非核化など、どうでもよくなる。
いくら時間をかけてもいいから実務者同士で満足いくまで勝手にやってろと言う事になる。これこそがトップダウンの合意なのだ。
これまでのボトムアップ方式の否定だ。
官僚たちが警戒するのはまさしくその事だ。
しかし、トランプや金正恩にはそれはまったく通じないということだ。
反対すればたちどころに更迭されるか粛清される。
歴史が動く時とは、そういう時である(了)
文大統領が米朝首脳会談参加の可能性=韓国大統領府
BBC NEWS JAPAN 2018年5月28日
文大統領は最初に3者による首脳会談を提案したのは先月だった
韓国の青瓦台(大統領府)は28日、開催への努力が続けられている米朝首脳会談に文在寅(ムン・ジェイン)大統領も参加する可能性があると明らかにした。
青瓦台は、文大統領が実際に参加するのかどうかは、米国と北朝鮮の間で現在進められている準備協議の進展によるとしている。
ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の歴史的な首脳会談は、来月12日にシンガポールでの開催が予定されている。
トランプ氏は先週24日に首脳会談を中止すると発表し、開催の見通しに不透明感が生じていた。
しかし、それ以降は米朝双方が予定通りの開催に向け努力を続けてきた。
実現すれば、現職の米大統領と北朝鮮の指導者が史上初めて首脳会談を行うことになる。
首脳会談の詳細は依然として明らかになっていないが、朝鮮半島の非核化や緊張緩和が主な議題となる見通し。
「非核化」が具体的に何を意味するのかをめぐっては、米朝間の意見は一致していない。
トランプ大統領は首脳会談中止を表明した際に、北朝鮮の「あからさまな敵対心」を理由に挙げていた。中止発表前には、北朝鮮高官がマイク・ペンス副大統領を「愚かな」発言をしたと非難していた。
ペンス副大統領は、北朝鮮が「リビアのようになる」かもしれないと警告していた。2003年に核兵器放棄に同意した当時のリビア指導者、ムアマル・カダフィ大佐は2011年に反政府勢力によって殺害されている。
しかし、会談中止を表明したトランプ大統領はその後、米国は依然として北朝鮮と協議を続けているとし、会談は開かれるかもしれないと述べた。
トランプ氏は27日、首脳会談の準備のため、米政府担当者たちが北朝鮮に到着したと語った。トランプ氏は、首脳会談が北朝鮮の「素晴らしい可能性」を実現する助けになると述べている。
韓国政府高官たちは28日、文大統領が米朝首脳会談に参加する可能性の検討はまだ初期段階にあると語った。
聯合ニュースは韓国政府高官が、「我々は依然として事態の推移を見ているところだが、結果によっては、(文)大統領がシンガポールで同席するかもしれない」と語ったと報じた。
一方、文大統領と金委員長は26日に、先月27日に続き2度目の首脳会談を電撃的に行った。
青瓦台は、軍事境界線上にある板門店で行われた会談について、「朝米首脳会談の成功に向け、(中略)指導者2人は意見交換した」と述べた。
(英語記事 Trump-Kim summit: President Moon could attend, says South Korea)