2019年5月18日土曜日

18- 消費税を凍結・減税すべし!(9) ~(10)(藤井聰教授)

 藤井聡・京大教授によるシリーズ「消費税を凍結・減税すべし!」の9回目・10回目を紹介します。
「<9>「延期」ではなく「デフレ脱却まで凍結」すべし!」では、
 97年の5%への消費増税の前には「消費の伸び率」は年率3%弱の水準にあったもの増税で一気に3分の1の年率1%程度の弱々しい消費拡大率になり、14年の8%への消費増税で消費の伸び率はさらに0.8%程度に下落した事実を挙げて、消費税増税により消費にブレーキがかかったことを明らかにしています。
 
「<10> 財務省が宣言した「政府は破綻しない」という真実」では、
 財務省自身が、日本政府が日本円でどれだけ借金しても破綻することはありえない、と公式文書で宣言していることを引いて、財務相らの「日本経済が破綻するのを避けるために消費増税だ!」などという主張は完全なる勘違いであると述べています。
 文中の太字強調部分は原文に拠っています。
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<9>「延期」ではなく「デフレ脱却まで凍結」すべし!

日刊ゲンダイ 2019/05/10
 萩生田光一自民党幹事長代行の発言以降、消費税増税が延期され、衆参同日選挙となるのではないか――いう憶測が、永田町やメディアで飛びかっている。

■1997年と2014年の増税で消費にブレーキ
 理性的に考えれば、デフレはまったく終わっておらず、しかも外需が冷え込み始めて景気が下落し始めている状況で、消費税をさらに引き上げるなど論外中の論外。文字通り、10%消費税が日本経済を破壊するわけであり、増税延期になるのではないか、という空気が流れ始めるのは、当たりまえとしか言いようがない。むしろ、そういう空気が流れないことこそが異常事態である。

 その点を踏まえると、今回の増税の「中止」の判断が単なる延期なのか、それとも、増税そのものを、デフレ脱却や海外の経済状況が回復するまで、「凍結」や「減税」すると言う話までいくのか ―― が重要な焦点になる。

 そして日本経済の復活を考えるのならば、今回は単なる延期でなく、少なくとも「凍結」、そして、本来的には「減税」にまで踏み込むべきであることは明白なのだ。 
 そもそも、安倍内閣は、2015年10月と17年4月の過去2回に渡って、消費増税を延期してきた。しかし、その延期後、消費は決して上向きはしなかった。
(※画像のグラフを参照 <消費増税自体が「リーマンショック」以上である)
 
 この背景にはもちろん、消費税の増税それ自体が、消費に大きなブレーキをかけていることが原因だ。事実、前述のグラフに示した通り、97年の5%への消費増税の前には「消費の伸び率」は年率3%弱の水準にあったものの、97年増税でそれが一気に3分の1程度にまで下落し、年率1%程度ずつの弱々しい消費拡大率になってしまった。そして、14年の8%への消費増税で、消費の伸び率はさらに下落し、0.8%程度に至ってしまったのだ。

■消費を活性化させる経済対策を
 そもそも消費税は消費の罰金として機能する以上、消費そのものが伸びなくなるのも当たり前だ。だからこそ10%増税など、論外中の論外なのだが、ただ単に増税を延期するだけでは、消費が活性化し、経済が上向いていくことなど、期待できないのである。
 したがって、今求められているのは5%への減税だ。そうすれば消費が再び活性化してくることになるだろう。
 かりに、官邸と財務省との力学関係などの「政治的な理由」で「減税」が難しかったとしても、最低限、「デフレ脱却までは凍結する」という「新しい判断」が必須となろう。
 それができれば、かりに税率が8%のまま据え置かれたとしても、消費者たちの先行きの不透明感が払拭され、消費の拡大が期待できることとなろう。そういう状況下で、さまざまな経済対策をあわせて実行することを通して、デフレ脱却が期待できることとなろう。

 もしもどうしても消費増税が必要だと言うのなら、デフレが完全に脱却できた後に考えればよいだけだ。そもそも安倍総理は、2012年の総裁選当時はそう主張していた。
 今日の経済状況は、2012年の時といまだデフレ状況という一点でなんら変わるものでもない。「デフレ脱却までの凍結」に向けた「新しい判断」を強く提案したい。 
 
 
<10> 財務省が宣言した「政府は破綻しない」という真実
日刊ゲンダイ 2019/05/17 10:55
 1000兆円も超えた国の借金。このままだと、国が破綻してしまう。だから消費増税は、もう仕方ない――というのが、消費税を上げなきゃダメだと素朴に信じている方々の一般的な認識です。
■麻生財務大臣の責任とは
 6年ぶりに景気が「悪化」していると政府が発表しても、米中経済戦争が激化の一途をたどって日本経済に相当な悪影響がもたらされることが明白であっても、それでもなお、多くの人々が「消費増税が必要だ」と主張し続けています。
 そんな不条理な見解を表明し続ける典型的な御仁が「財務省」の大臣を務めている麻生太郎氏だ。5月15日付『毎日新聞』デジタル版は「消費増税/予定変わらず・麻生氏ら閣僚、景気悲観せず」と題する記事で、
<麻生太郎財務相は14日の閣議後記者会見で、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことによる消費税増税への影響について「今の段階で、リーマン・ショック級の大きな話になるというような感じで捉えているわけではない」>と述べた、と報じていました。
 財務省を大臣として率いる麻生氏にしてみれば、このままだと財政がどんどん悪化してしまって、挙句に日本が破綻してしまうかもしれない、そんな最悪事態を回避するためにも、目先の景気が多少悪かろうが、とにかく消費税を上げておくことが政治家の責任であり財務省の責任だ、とでも思っているのでしょう。
 じゃあ、消費増税を断行したせいで、日本経済を悪化させて、私たちの賃金を下落させ、貧困と格差を拡大させてしまうことの責任を、麻生大臣、あなたは取らなくてもいいのですか!? と即座に突っ込みを入れたくなってしまいます。

■麻生大臣の勘違い
 それ以前に、どうやら麻生大臣はトンデモない勘違いをしているようです。
 なぜなら、財務省自身が、日本政府が日本円でどれだけ借金しても破綻することなんてありえない、と公式文書で宣言しているからです!
 まずは下記のホームページをご覧ください。財務省の公式ホームページに公開されている「外国格付け会社宛意見書要旨」です。

「意見書要旨」は日本国債にはリスクがあると再三主張していた外国の格付け会社3社(ムーディーズ、S&P、フィッチ)に対して、財務省が平成14年(2002年)4月30日に発出したものです。
 この財務省の文書の冒頭に明記されているのが次の一言です。
「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」
 デフォルトというのは債務不履行のことを意味する言葉で、ようするに「破綻する」ということです。つまり財務省は「日本が、日本円をどれだけ借金しようが、それが原因で破綻するなんてことはあり得ないのだ!」と断定しているのです。

■円の借金で破綻はありえない
 なぜ、円の借金で日本政府がデフォルト=破綻することがあり得ないのかと言えば、それは、日本の中央銀行である日本銀行が、イザとなった時に日本政府にお金を貸してくれることが確実だからです。だから、(日銀や政府がとてつもなく悪意のある無能な人びとに支配されているという超特殊な状況をのぞけば)、日本政府が破綻することなど、あり得ないのです。
 一般に金融業界では、こういう日本銀行のようなイザとなった時にカネを貸してくれる存在を「最後の貸し手」と言います。つまり、そういう専門用語があるくらいに、専門家の間では、政府に何かとても困ったことが起こった時には中央銀行がおカネ(円)を貸してくれることは当たり前なのです。だから専門家集団である財務省もまた、日本政府が円で破綻することなどあり得ないことを、熟知しているのであり、それこそが、財務省の公式見解なのです。
 そうである以上、「破綻するのを避けるために消費増税だ!」などという主張は完全なる勘違い。破綻を恐れて消費増税なんてするのは、まるでいるはずもない亡霊に怯えて窓から飛び降りるような愚挙なのです。
 ぜひ、財務省の大臣である麻生太郎氏には、ご自身の部下がいったい何を世界に向けて宣言しているのか、そしてそれが一体何を意味しているのかを、しっかりとご認識いただきたいと思います。