2019年5月6日月曜日

子どもの権利条約 理念実現を急げ

 子どもの人権を国際的に保障する「子どもの権利条約」1989年に国連総会で採択され日本は94年に批准しました。今年でちょうど四半世紀となりますが、その理念が社会に根付いたとは言えません。
 それどころか、経済協力開発機構加盟国の中で、日本の教育機関への公的支出は最低水準にあり、子どもの7人に1人が平均的な所得の半分に満たない家庭で暮らしています親などによる子どもへの暴力や虐待事件相次いでいます。
 
 国連子どもの権利委員会は今年2月、10年以来となる日本への勧告を公表し、体罰の全面的禁止の法制化や、高い子どもの貧困率に対して十分な対策を取れる予算措置を勧告しました。
 
 子どもの日にちなみ、河北新報が「子どもの権利条約の理念実現を急げ」とする社説を掲げました。毎日新聞は、「子どもの権利条約批准25年 一向になくならない児童虐待」の問題を取り上げました。
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社説 こどもの日/権利条約の理念実現を急げ
河北新報 2019年5月5日
 児童虐待が後を絶たない。貧富の差が拡大し、子どもの貧困はなかなか解消しない。令和の新しい時代となった日本で、厳しい環境にさらされている子どもたちが少なからずいる。
 子どもの人権を国際的に保障する「子どもの権利条約」が1989年、国連総会で採択されてから、今年は30年の節目となる。日本は94年に批准し、ちょうど四半世紀となるが、その理念が社会に根付いたとは言い難い
 条約は子ども(18歳未満)を単に保護や指導の対象ではなく、権利を持つ独立した主体と捉え、「最善の利益」を尊重している。そんな国際社会の約束は、画期的だったと言っていい。
 
 これまで196の国と地域が批准、加入した条約は前文と54の条文から成る。命を守られて生きる、医療や教育を受けて育つ、暴力や差別などから守られる、自由に意見を表明し活動に参加する  。そうした子どもの権利を具体的に定めている
 しかし、日本の子どもを取り巻く現在の状況をこの条約に照らして眺めると、険しい光景が広がっている。
 全国の児童相談所(児相)が対応した児童虐待の相談件数は年々増加し、2017年度は13万件を超えた。虐待は子どもの人権の重大な侵害だが、その受け皿となる児相の体制は不十分だ。
 
 18歳未満の7人に1人が平均的な所得の半分に満たない家庭で暮らす。とりわけ、1人親の世帯は半数以上が貧困状態にあえいでいる。
 経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、日本の教育機関への公的支出は最低水準にある。子どもに最善の利益を保障する取り組みは、貧弱だと言わざるを得ない。
 国連子どもの権利委員会は今年2月、10年以来となる日本への勧告を公表し、体罰の全面的禁止の法制化などを求めた。子どもの貧困率にも言及し、十分な対策を取れる予算措置を勧告している
 
 勧告は特に、子どもの権利に関する包括的な法律がないことに懸念を示し、条約と国内法を調和させるよう強く求めている。男女平等を推進するための男女共同参画社会基本法のように、子どもの権利を包括的に定める基本法の制定が必要ではないか。
 政府は、東京都目黒区や千葉県野田市の女児が虐待死した事件を受け、親による子どもへの体罰を禁止する法改正案を今国会に提出している。しかし、これまでの対応は後手後手だった。政府は勧告を真摯(しんし)に受け止め、その内容を実施してほしい
 きょうは「こどもの日」。新たな時代の担い手となる子どものため、権利条約にも思いを巡らせたい。この条約を知り、理解し、実現していく責任が大人にはある。
 子どもの権利を守ることは、すべての人の人権を守る出発点であるはずだ。
 
 
子どもの権利条約批准25年 一向になくならない児童虐待
毎日新聞 2019年5月5日
 国連の子どもの権利委員会が2月、子どもへの暴力や虐待事件が相次ぐ日本への強い懸念を示し、政府に虐待防止に取り組むよう勧告した。子どもの人権を保障する国連の「子どもの権利条約」を日本が批准して今年で25年になるが、悲惨な事件は一向になくならない。5日は「こどもの日」。専門家は、日本では「子どもは体罰をしてでもしつける対象」という考え方が根強く、「子どもの権利」がないがしろにされていると指摘する。 
 
 「一人でも話をできる大人がいたら、違ったかもしれない」。福岡県内に住む30代男性は子どもの頃、生みの親の離婚を機に預けられた育ての親から激しい暴力や虐待を受け続け、満足に食事を与えてもらえない時期もあった。 
 気を失うまで激しく殴られた小学3年のある日、「このままでは死ぬ」と恐怖を覚え、交番に駆け込んで「うちに帰りたくない」と訴えた。ところが、警察官からは「早く帰りなさい」と言われ、あざにも気付いてもらえなかったという。「もう誰にも相談しない」。男性は大人に絶望したこの出来事を今も鮮明に覚えている。 
 男性は今年1月、千葉県野田市で小学4年の栗原心愛(みあ)さんが虐待死した事件のニュースを見て「なぜ救えなかったのか」と無力感を抱いた。事件では、心愛さんが父親の家庭内虐待を訴えた学校アンケートを、市教委の職員が父親に渡していた。 
 なぜこうした事件が相次ぎ、子ども自身による勇気の告発も軽視されるのか。東海大の山下雅彦名誉教授(教育学)は「日本では子どもを力なき者、未熟者とみる傾向があり、体罰をしてでもしつける、という子ども観を払拭(ふっしょく)できていない。市民社会も子どもを軽く見ている」と語る。
 
 これに対し、国連の子どもの権利条約は、18歳未満の子どもも大人と同じ権利の主体と位置づけ、▽暴力や搾取から守られる権利▽教育を受ける権利――などとともに、自由に意見を表明する権利も保障する。 
 締約国が条約が定める義務を守っているか監視する子どもの権利委員会は1月、日本の状況を審査し、2月、子どもへの暴力や虐待が「高い水準で発生している」と懸念を表明。その上で政府に▽子どもの通報や苦情申し立てなどを受け付ける仕組みづくり▽虐待防止の教育プログラム強化▽家庭への適切な支援――などを勧告し、法律による体罰の全面的な禁止も求めた。 
 
 委員会を傍聴した子どもの権利条約総合研究所運営委員の平野裕二さん(51)は「日本は西洋に比べ子どもの権利保障が遅れていることが明らかになった」と残念がる。 
 国内でも親権者による体罰禁止を盛り込んだ児童虐待防止法などの改正案が今月、国会で審議入り予定だ。山下名誉教授は、体罰を法律で禁止したスウェーデンなどでは子どもへの虐待が減少したとして「日本でも体罰禁止を急ぐべきだ」と指摘。その上で「権利条約を踏まえた政策の実現には、子どもに関わる市民の意識改革も大事だ」と強調した。【青木絵美】