2019年5月31日金曜日

31- 消費税を凍結・減税すべし! (11) (藤井聡教授)

 藤井聡・京大教授によるシリーズ「消費税を凍結・減税すべし!」の「<11> GDP速報値は『激しい経済低迷』を示している」を紹介します。
 
 政府は20日、GDP速報値年率プラス21%と報じ、茂木経財相などは「日本の内需の増加傾向は崩れていない」10月の消費増税率引き上げは予定通り実施すると明言しました。しかし事実は「内需の増加傾向」などではなく、1029兆円もあった輸入が内需が冷え込んだ結果947兆円へと82兆円も急落したため見かけ上GDPを押し上げたのでした。この輸入減が無ければ、GDPは年率マイナス27%になっていました。
 
 そうした実態を無視して消費増税に踏み切れば日本の経済は沈没します。
 文中の太字強調はすべて原文に拠っています。
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<11> GDP速報値は「激しい経済低迷」を示している

日刊ゲンダイ 2019/05/24
 5月20日午前、GDP(国内総生産)速報値が政府から公表された。1-3月期のGDPは、経済の冷え込みからマイナス成長になるのでは、との観測が支配的だったところ、フタを開けてみればなんと、年率プラス2.1%という、良好な数字となっていた。
 この「意外」な結果を受けて早速、茂木経済財政相などは<「日本の内需の増加傾向は崩れていないと述べ、10月の消費増税率引き上げは予定通り実施する(5月20日付「朝日新聞」デジタル)と明言している。

■単なる「見かけ」のGDP成長
 しかし、今回のGDPプラス成長は、「統計マジック」による「単なる見かけ上」の数字に過ぎない。その内容を詳しく見てみれば、成長どころかむしろ、激しく日本経済が低迷しているという真実が見えてくる。
 そもそも、今回の成長に最も寄与したのが、内需の拡大でも輸出の拡大でもなく、「輸入の減少」だった。

 具体的に言うなら、名目値で言えば、102.9兆円もあった輸入が94.7兆円へと8.2兆円も一気に急落。この8.2兆円の急落が、見かけ上、GDPを押し上げたのである。そもそも統計上、輸入はGDPから「差し引く」項目だ。だから「差し引く分が減った」ことで、GDPが見かけ上「プラス成長」したように見えたにすぎないのだ。
 実際、もしもこの輸入減が無ければ、GDPはプラス成長どころか、名目で年率マイナス2.7%になっていたのである。

■「激しい経済停滞」が導いた「見せかけ成長」
 なぜ、輸入がここまで急落したのかと言えば、内需が冷え込み、日本人の購買力が下落したからにほかならない。事実、「消費」も「投資」も下落している。年率で言えば、消費は0.3%減、投資は1.2%も減少している。
 つまり今回のGDP成長は、内需が冷え込み過ぎたことの帰結だったわけだ。
 だから今の日本は、茂木大臣がいうような「日本の内需の増加傾向は崩れていない」という言葉がイメージさせる「成長」とは正反対の状況にあるわけだ。だからその発言は、「悪質な印象操作」の類とすら言うことができよう。
 ちなみに、今回の急激な輸入の減少は、(内閣府が公表している統計表に掲載されている)1994年以降のデータ(実質値)をみれば、リーマンショック時の激しい輸入減少をのぞけば、ほかに類例なき最高値だった。
 いわばこの急激な輸入減少は、リーマンショック級、あるいはリーマンショックに準ずる水準の激しいものだったのである。

■自民党内からも異論
 だからこそ、今回のGDP公表値はむしろ、消費税増税を「凍結」しなければならない状況にあることを明らかに示している。それはたとえば、自民党の西田昌司参院国対委員長代行が21日の党役員連絡会で、「衝撃的な数字だ。縮小均衡で数値がプラスになったにすぎない」>(消費増税について)<「もう一度、党で議論すべきではないか」>(5月21日配信「時事ドットコムニュース」)と発言した通りだ。
 増税推進派はこれから間違いなく、「GDPが成長しているのだから、増税凍結なんて必要ない」という論調の発言を繰り返すだろう。そうしたプロパガンダに対抗するためにも、一人でも多くの国民に、ここで指摘した「GDP統計の適切な読み方」をしっかりとご理解いただきたいと思う。

 消費増税の延期問題はもはや政策論争ですらない。デマと事実の対立問題となっているのである。