日朝首脳会談には、安倍首相はこれまで「成果が得られなければ交渉に入らない」と不可解な口実をつけて踏み出そうとしませんでした。それを今度は180度方向転換して「条件を付けずに会談に臨みたい」と言い出しました。
本来はそうあるべきもので、共産党の小池書記長は「前提条件なしに会談することは当然だ」として、2002年の「日朝平壌宣言」に基づいて外交努力を強めるべきことを強調しました。しかしあまりにも唐突だったので、「くろねこの短語」氏は、「『条件付けず』ってのは『拉致被害者切り捨て』って言ってるようなものだと思うけどねえ」と述べ、北朝鮮も、「首相の真意はどこにあるのか。無条件とは言うが、拉致問題をどのように扱うつもりなのか」と疑問を投げかけています。
毎日新聞は、小泉政権時代の2002年に初の首脳会談が行われた際には、事前に水面下で長期間の実務レベルの接触があり、その結果「日朝平壌宣言」が合意され拉致被害者の帰国につながったが、今回こうした事前折衝が皆無の中でなぜ「無条件で」と言い出したのかと疑問を呈しています。
前回は外務省の田中均氏がその折衝に当たったのですが、安倍氏は自分の政権になると田中氏の些細な発言に激高して「北朝鮮ルート」から排除しました。普通であれば直ちに次の「北朝鮮ルート」が発動しなけれがならないのですが、それは何もないままで長年月が経過しました。要するに単にかんしゃく玉を破裂させて、貴重な人材を排除しただけのことで、「初老の小学生」と言われる所以です。
十分に時間を取ってから発表されたハノイ米朝首脳会談についての北側の総括を読んでも分かるように、北朝鮮は冷静で緻密な国です。そんな相手に「無手勝流」で臨んだところで、とても太刀打ちできるとは思えません。詰まるところ、交渉の中身ではなく交渉が出来たこと自体をサプライズとして、ダブル選挙に打って出るという以外の理由は見つかりません。
ただ、トランプ氏了承の下で戦時賠償金を支払う約束をする可能性はあります。日本には元々しかるべき賠償金を払う義務があるし、いまや韓国と大立ち回りをしているからには、韓国とのバランスは考えなくても良いと安倍首相が踏んでいる可能性は十分にあります。
これまで海外に数十兆円をばら撒いてきた人間なので、金額に関する悩みもほとんどないことでしょう。選挙勝利の果実に比べれば大したことではないと・・・
安倍氏が考えている選挙勝利への作戦はそれなりに成功に向かっているのかも知れません。
毎日新聞の社説と東京新聞の記事、そして北朝鮮の論調を伝えるJ-CASTニュースを紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
社説 日朝会談「無条件で」 国内向けに偏りすぎでは
毎日新聞 2019年5月8日
独裁国家のトップと会談を行う重要性は理解できる。
安倍晋三首相は北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と条件を付けずに会談に臨みたいとの意向を示した。トランプ米大統領との電話協議を受けての発言である。
拉致問題の解決に向けて首脳会談を行う意思をより明確にするためだという。懸案の解決に資する会談の実現を目指すのは当然だ。
ただし、やみくもに呼びかけるだけでは意味がない。小泉政権時代の2002年に初の首脳会談が行われた際には、事前に水面下で長期間の実務レベルの接触があった。それが拉致被害者の帰国につながった。
今回こうした前さばきが見られないのに、首相はなぜ無条件でと言い出したのか。外交上のメッセージというより、国内向けのアピールだと受け取られても仕方があるまい。
周辺国の首脳で会談していないのは安倍首相だけだとの批判を避ける狙いがあるようだ。金氏と対話を続ける方針のトランプ氏と足並みをそろえる意図もあるのだろう。
だが、首相はこれまで「拉致問題の解決に資する会談としなければならない」と訴えてきた。北朝鮮が非核化へ向けて具体的な行動を示す必要があるとも主張していた。
昨年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪に合わせて韓国政府が南北対話を推進すると、「北朝鮮のほほ笑み外交に目を奪われてはいけない」とけん制したほどだった。方針転換したのは明らかだが、その背景に合理的な戦略があるようには見えない。
最近、首相は北朝鮮との相互不信の殻を破ると強調している。今年の外交青書で北朝鮮への圧力を最大限まで高めるとの表現を削除したのはその一環であろう。
しかし、北朝鮮の国営メディアは歴史問題の清算が先だと批判を続けている。実のある会談を行うのは容易ではなさそうだ。
北朝鮮は今も核を温存したままである。4日には日本海に向けて飛翔(ひしょう)体を数発発射し、緊張を高めた。
日朝協議は、北朝鮮が14年にストックホルム合意で拉致被害者の再調査を約束したものの、核・ミサイル実験で暗礁に乗り上げた。トップ会談を行おうというのに、打開する妙案は見えていない。
北朝鮮、入国禁止解除を要求 関係筋 日朝会談へ条件
東京新聞 2019年5月8日
【北京=城内康伸】安倍晋三首相が条件を付けずに日朝首脳会談の実現を目指す発言をしたことを巡り、北朝鮮関係筋は、日朝関係改善のためには「日本がまず、人的往来を認めるべきだ」と本紙の取材に明らかにした。日本政府が北朝鮮籍の人物の入国を原則禁止としている独自制裁の解除が、本格的な日朝交渉の条件との考えを示したとみられる。ただ、日本政府に正式に伝えられたかどうかは明らかでない。
日本政府は二〇〇六年十月、北朝鮮による初の核実験を受け、独自制裁で北朝鮮籍の人物の入国を原則禁じた。一四年七月には、北朝鮮が日本人拉致問題の調査委員会を設置したことで解除に応じたが、一六年二月、北朝鮮の弾道ミサイル発射への制裁措置として、再び入国禁止とした。
北朝鮮関係筋は「今すぐかどうかは別として、(日朝)政府間の正式な対話は重要だ。そのためには、人的往来を制裁に加えてはならない」と強調。「(来年には)東京オリンピックも控えている」と指摘し、入国禁止を早急に解除するべきだと訴えた。
北朝鮮は入国禁止の解除を信頼構築の一環と位置付けているもようだ。
拉致問題については「既に解決済みだと言うのではなく、朝日関係をしっかりと結んでいこうということだ」と述べ、本格交渉が始まれば、北朝鮮が議論に応じる可能性に含みを持たせた。
一方、別の北朝鮮関係筋は、安倍氏が「金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と条件を付けずに向き合わなければならない」と述べたことに関し、「首相の真意はどこにあるのか。無条件とは言うが、拉致問題をどのように扱うつもりなのか」と疑問を投げかけた。北朝鮮の安倍政権に対する不信感は根強く、首脳会談の実現は依然見通せない。
<北朝鮮に対する日本の独自制裁> 拉致問題や核・ミサイル問題の解決を迫るため、日本政府が国連安全保障理事会の決議とは別に実施している制裁。「ヒト・モノ・カネ」を対象とした措置で、北朝鮮籍保有者の原則入国禁止のほか、北朝鮮を相手とする輸出入の全面禁止、関係船舶の入港禁止措置などがある。
「無条件」でも会談の道遠い? 直近の労働新聞は「日本の下心明らか」
J-CASTニュース 2019年5月7日
安倍晋三首相は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と「条件をつけずに向き合わなければならない」などと述べ、無条件で会談に臨む考えを示した。
安倍晋三首相は2019年5月6日夜、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と「条件をつけずに向き合わなければならない」などと述べ、無条件で会談に臨む考えを示した。これまで安倍氏は、会談を行う以上は「拉致問題の解決に資する会談としなければならない」などとして、解決に結びつかなければ会談に応じない考えを示していたが、これを転換した。
そんな中でも北朝鮮メディアは日本批判を続ける。日本としてはハードルを大幅に下げた形だが、北朝鮮側が会談に応じるかは不透明だ。
2018年秋には「あらゆるチャンスを逃さないとの決意」
(中 略)
過去の安倍氏の国会答弁を見ると、
(中 略)
菅義偉官房長官は5月7日午前の記者会見で、安倍氏の発言について
(中 略)
仮に「報告書」を出してきたとしたら...
一方、朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は5月7日付の紙面に掲載した論説記事で、日本がイージス艦に搭載する迎撃ミサイル「SM3ブロック1B」56発の購入を決めたことを「朝鮮半島と地域に宿る平和な雰囲気を故意に破壊する行為」だと非難。その上で、日本は「ありもしない『ミサイルの脅威』」を主張しており、
「日本の下心は明らかだ。朝鮮半島情勢を複雑にして漁夫の利を得ようというのだ」
などと独自の主張を展開した。
仮に首脳会談が実現した場合、北朝鮮側は「過去の清算」という名の経済協力や、在日米軍の縮小や撤退を求めてくる可能性がある。こういった中で拉致問題についてどういった成果が得られるかは不透明だ。
北朝鮮側は、拉致被害者や行方不明者を含む「すべての日本人」の再調査を約束した14年の「ストックホルム合意」を反故にしたまま、「拉致問題は解決済み」だと主張し続けている。仮に首脳会談で「再調査」の報告書を出してきたとしても、その対応に苦慮することになるおそれがある。 (J-CASTニュース編集部 工藤博司)