2019年5月18日土曜日

放送受信料強制徴収の問題点 / 倉敷民商弾圧事件

 東京地裁は515日、自宅にテレビを持たない女性に対して、自家用車に設置しているワンセグ機能付きのカーナビがあれば受信料契約を結ぶ義務があるとする判決を出しました。「放送法64 1 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」を、運転中の空き時間に短時間見(れ)るだけのものにも機械的に適用したもので、一般常識からは違和感のあるものでした。
 1712にも最高裁は、テレビを購入したがNHKを見ず、受信契約を締結する気がない場合でも、受信契約を結受信料を支払う必要があるとの判決を出しました
 NHKだけにそんな特権が認められているのは公共放送であるからですが、安倍政権になってからNHK一層顕著に政治権力の御用機関に成り下がりました。
 裁判ではNHKは「公共放送」と言えるのかが当然争われましたが、公平であらねばならない司法が事実上その認識を欠いているのは不思議なことです。
 
 植草一秀氏は、「放送法1放送の不偏不党性と放送が健全な民主主義の発達に資するものであることが謳われているが、現実には、NHKの運営がその規定に反していることが重大な問題なのだと指摘しています。そしてそれにもかかわらず、最高裁(など)が被告の訴えを退けてNHKの主張を認めたのは。政治権力の意向を忖度した司法判断であると述べています。
 安倍政権はNHKを最重要の情報操作機関と見做し、人事権を濫用して介入しましたが、 司法がNHKの偏向を正すことはありませんでした。
 植草氏のブログを紹介します。
 
 それとは別に、ジャーナリストの斎藤貴男氏が「大メディアが黙殺する倉敷民商弾圧事件の異常さ」と題する記事を出しました。
「倉敷民主商工会」の事務局長事務局員2人が税理士法違反などの容疑で14年に次々に逮捕・起訴されました。3人は、会員企業が集計した数字を入力したり、計算ソフトで正確な税額を出しただけで税理士業務など行っていないし、そもそも脱税の事実自体が存在しませんでした。
 取り調べたのも岡山県警公安部と異例で、女性事務局員が428日間、2人は184日間も勾留されるという、信じられないような弾圧事件ですが、ここでも最高裁は被害者を救済せずに、マスコミも黙殺しました。
 併せて紹介します。
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NHK放送受信料強制徴収のどこに問題があるのか
植草一秀の「知られざる真実」 2019年5月17日
日本の重大問題の一つは司法が行政権力から独立していないことだ。
日本国憲法は司法の独立を定めている。
 第七十六条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
ところが現実は異なる。裁判官の人事権を内閣が握っているために、内閣が恣意的な人事を行う場合には、裁判官が行政権力に支配されてしまうのだ。
現に、安倍内閣の下ではこの傾向が極めて顕著になっている。裁判官が行政権力の意向に沿う判断を示す傾向が極めて強くなっている。司法の独立は有名無実化している
5月15日、東京地方裁判所(森田浩美裁判長)は、自宅にテレビを持たない女性が、自家用車に設置しているワンセグ機能付きのカーナビについて受信料契約を結ぶ義務がないことの確認をNHKに求めた訴訟の判決で女性の訴えを退けた
放送法は受信契約について次のように定めている。
 第六十四条
1 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
放送受信設備を設置した者はNHKと受信契約を締結しなければならないこととしている。
 
テレビを購入したが、NHKを見ず、受信契約を締結する気がまったくない場合でも、なお契約を締結し、受信料を支払う必要があるのか
素朴なこの疑問に対して、2017年12月6日、最高裁はその義務を正面から認める判決を示した。この司法判断も行政権力の意向を忖度するものである。最高裁は名称を「最高忖度裁判所」に変更するべきだ。
この裁判はNHKが受信料の支払いに応じない男性に対して起こした裁判で、被告の男性は、この条項が契約の自由や知る権利、財産権などを侵害していると主張した。
しかし、最高裁は被告の訴えを退けてNHKの主張を認めた。政治権力の意向を忖度した司法判断である
 
政治権力=行政権力はなぜNHKを擁護するのか。それには理由がある。行政権力が人事権を通じてNHKを実効支配しており、行政権力にとってNHKが最重要の情報操作機関になっているからなのだ。ここに最大の問題がある。そして、この問題は放送法の根幹に関わる重大な問題である。
この重大問題についての考察を行わずに、受信契約の強制を合憲とした最高裁の姿勢は、まさに最高忖度裁判所の名にふさわしいものと言える。
放送法の第一条=目的を把握することが必要不可欠だ。
(目的)
 第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
 
キーワードは「放送の不偏不党」、「健全な民主主義の発達に資する」である。
NHKの運営が「放送の不偏不党」、「健全な民主主義の発達に資する」という規定に則っているなら、受信契約の強制が合憲であるとの判断にも一定の合理性がある。
しかし、現実には、NHKの運営が「放送の不偏不党」、「健全な民主主義の発達に資する」という放送法の規定に反していることが重大な問題なのだ。
放送法は第四条に次の規定を置いている。
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
二 政治的に公平であること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
ところが、現実にはこの規定がまったく守られていない。その原因がどこにあるか。
答えは明白だ。NHKの人事権を内閣総理大臣が握っており、人事権を濫用する者が内閣総理大臣に就任すると公共放送の担い手であるべきNHKが内閣総理大臣によって私物化されてしまうからだ。現在の状況がこれにあたる
 
NHKは政治権力の御用機関=広報機関に成り下がってしまっており、「放送の不偏不党」、「健全な民主主義の発達に資する」という放送法の目的が実現していない
この現実についての考察を行わずに、受信契約の強制を合憲とした最高裁判断は誤った判断であると言わざるを得ない。
(以下は有料ブログのため非公開)
 
二極化・格差社会の真相  
大メディアが黙殺する「倉敷民商弾圧事件」の“異常”さ
 斎藤貴男 日刊ゲンダイ 2019/05/08 06:00
 先月25日、岡山市内で「倉敷民商弾圧事件」全国連絡会の総会が開かれた。私も参加して、事件の異常さと、来るところまで来たこの国の現在地を、改めて思い知った。
 
「倉敷民主商工会」(岡山県倉敷市)の事務局長である小原淳、事務局員の須増和悦、禰屋町子3氏が税理士法違反などの容疑で次々に逮捕・起訴されたのは、2014年の1月から3月にかけてのことである。税理士資格がないのに会員企業の確定申告書類を作成し、または脱税を手助けしたと決めつけられた。3人は、会員企業が集計した数字を入力したり、計算ソフトで正確な税額を出しただけで税理士業務など行っていないし、そもそも脱税の事実自体が存在しなかったとして、無罪を主張した。
 だが、小原、須増の両氏は昨年6月に最高裁で有罪が確定。禰屋氏については控訴審が1審の有罪判決を破棄して差し戻すという異例の展開を見せているが、弁護団は楽観していない。
 
 彼らはおそらく冤罪だ。脱税事件の立件には「たまり」が欠かせない。庭に隠されていた裏金とか、プールされた土地や株式などといった“動かぬ証拠”のことだが、国税局の査察官は法廷で、この事件に「たまり」はない、と証言している。税理士ではない職員がむしろ日常的に申告書類の作成に携わっている青色申告会が刑事責任を問われないのはなぜか。徴税当局と協力協定を結んでいるからではないのか
 
 もともと日本の税理士制度は、グローバルスタンダードに程遠かった。だから税理士たちは、新憲法下にあっても、戦前戦中の税務代理士制度を引き継いだまま、“徴税権力の下請け”としての役割を色濃くさせている。
 戦後の重税反対運動を母体に旗揚げされた民商は、したがって目の敵にされてきた。現在は全国に600組織、18万人会員。納税者の権利擁護を掲げて、自主記帳、自主計算、自主申告を勧める彼らには、税理士業務の代行など、基本理念と相いれない行為なのだ。
 
 彼ら3人を逮捕し、取り調べたのは、なぜか岡山県警の公安部だった。勾留期間も禰屋氏が428日間、他の2人は184日間。あのカルロス・ゴーン氏は2カ月でも国際的な関心を集めたが、倉敷民商事件はマスコミにも黙殺されたまま。
 
 逮捕や起訴が消費税率8%への引き上げ直前に行われたタイミングにも注目されたい。民商は消費税の不公平きわまりない本質を批判し、増税に強く反対している、代表的な団体なのである。
 
 斎藤貴男 ジャーナリスト
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「戦争経済大国」(河出書房新社)、「日本が壊れていく」(ちくま新書)、「『明治礼賛』の正体」(岩波ブックレット)など著書多数。