岸田政権は「18歳以下への10万円相当の給付」でも迷走しています。
5万円分をクーポンで支給することに事務経費が967億円も余計にかかることが判明した上に、市町村の事務が煩雑になりそれが年度末に重なることから、自治体から悲鳴が上がりました。
すると岸田首相は突然「地方自治体の実情に応じて、現金での対応も可能とする」と言い出しました。しかしそれなら何故5万円ずつにしなくてはならないのかという問題になるし、そもそもどのような場合に現金給付が可能なのかは補正予算の成立後に基準を示すということで、それでは事前の準備も出来ません。
そんな風にまだ何も詰められていないのは、「まず、10万円の位置づけがコロナで困窮した人への支援なのか、経済対策なのか、子育て支援なのかハッキリしない」ことに加えて、公明党と自民党の公約の内容が異なっているところに、現金を配りたくない財務省の意向が合わさったため、結局「足して3で割った」ような方針になったためと五十嵐仁・法大名誉教授が指摘しています。
それだけではありません。岸田首相は、一旦は「現金での対応も可能とする」と言ったのですが、その場合は「5万円分は地方自治体の負担にする」と言い出しました。それでは話が根本的に違って来て、そんなことが出来るほど財政が潤沢な自治体などはありません。
岸田政権の「甘さ」と「場当たり」には際限がありません。
日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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10万円で露呈した「甘さ」と「場当たり」 バラマキで景気は上向くのか
日刊ゲンダイ 2021/12/10
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
結局、岸田首相が唱える「新しい資本主義」とは何なのか。6日に召集された臨時国会で、岸田の所信表明や各党の代表質問に対する回答を聞いていても、サッパリ分からない。
今国会には、一般会計の歳出総額が35.9兆円と過去最大の2021年度補正予算案が提出された。これを裏付けとする55.7兆円の対策について、岸田は「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策と命名しました」と胸を張っていたが、18歳以下への10万円相当の給付でさっそく迷走している。
年内に5万円の現金給付を開始し、来春に5万円をクーポンで支給する方針を決めたものの、クーポン支給の事務経費が967億円もかかることが判明。市町村の事務が煩雑になるだけでなく、クーポン支給予定の年度末は3回目のワクチン接種が佳境になると見込まれている時期と重なり、自治体から悲鳴が上がっていた。
大阪市が10万円を全額現金で給付する方針を示すと、大阪府内の堺市や岸和田市が追随し、さらには兵庫県や福井県、群馬県など各地の自治体にその動きは広がっている。
現場や国民からの批判にビビったのか、岸田は急に「地方自治体の実情に応じて、現金での対応も可能とする」とか言い出した。だったら最初から全額現金給付にすればよかったのではないかと思うが、どのような場合に現金給付が可能なのかは「地方自治体の意見を聞きながら具体的な運用方法を検討する」そうで、補正予算の成立後に基準を示すと言うのである。
信念がないから振り回される
現金給付の財源には予備費を使うが、クーポン支給は補正予算なので「財源が違う」ということらしいが、それでは年内の一括給付を希望する自治体は準備が間に合わない。
全額現金にしても5万円ずつ分けて支給することになり、二度手間になる。経費もその分、余計にかかるわけだ。
なんで、こんなアホらしいことになっているのか。
「まず、10万円の位置づけがコロナで困窮した人への支援なのか、経済対策なのか、子育て支援なのかハッキリしない。衆院選で公明党は高校3年生以下の子どもへの10万円相当の支給を、自民党は金額を明示せずに困窮者への経済的支援を公約していた。政策合意もなく、それぞれ勝手に公約を掲げていたのだから野党よりよほど野合なのですが、岸田首相が公明党の主張を聞き入れ、自民党の公約との整合性にも配慮し、現金を配りたくない財務省の言い分も聞いた結果、『所得制限を設けて現金とクーポン』という足して3で割ったような方針になった。ただ、貯蓄に回らないようにクーポン支給というのは、消費喚起の景気対策という側面があり、当初の意図とはずいぶん違ってきています。メンツの張り合いの揚げ句の迷走で、場当たり対応が続いている。現金がいいのかクーポンがいいのか、全額現金はどういう基準にすればいいのか、岸田首相自身もまだよく分かっていないのでしょう。信念がないから、人の話を聞いて振り回されるのです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
目玉政策でさえ、こんな生煮えなのである。他は推して知るべしだが、10万円相当の給付は自公両党の幹事長による協議で決着した。オツムが自慢の茂木幹事長も、この迷走は見通せなかったということか。
どうにもならない景気をバラマキでごまかそうとしているだけ
8日の衆院本会議では、自民党を代表して茂木が質問に立った。地中海からインドに至る広大な帝国を築いた古代ギリシャのアレクサンダー大王の言葉を引き、「『剣によって得たものは長続きしないが、優しさと節度によって得たものは永遠である』。まさに岸田総理が強調されている寛容、そして信頼と共感。これこそが今、政治に求められている」と持ち上げていた。
質問の最後にも「自民党の『チーム力』で国民の期待に応えていく」とか言っていたが、拍手はまばらだった。
「優しさや節度ではなく、力ずくで抑えつけるのが茂木幹事長のやり方なのにね。チーム力よりスタンドプレーで、自分の有能さを見せつけたいタイプだよね」(自民党ベテラン議員)
茂木が「新しい資本主義」について質問すると、岸田は「賃上げ税制について、企業の税額控除率を大企業で最大30%、中小企業で最大40%、大胆に引き上げる」ことで分配を進めると答弁していたが、これもどこまで効果が見込めるか疑問だ。
「給料が上がらないことが諸悪の根源ですから、分配を打ち出すのはいい。ただ、賃上げすれば企業減税というエサをぶら下げても、企業側は1回だけボーナスを上げてお茶を濁す可能性が高く、企業を税制で優遇するだけになりかねない。恒常的な賃上げにつながる施策ではありません。日本の賃金はいまやOECD加盟国の中で最下位水準です。米国の半分だし、韓国よりも低い。この20年間で見れば賃金は減っていて、その半分の約10年間を安倍・菅政権が担っていた。アベノミクスではダメだったということです。岸田政権の『新しい資本主義』はアベノミクスのアンチテーゼかと思って当初は期待もありましたが、やっていることは大企業優遇の安倍路線の継承で『新しいアベノミクス』でしかない。これでは景気を上向かせる効果は乏しい。そもそも、『新しい資本主義』のグランドデザインを示すのが来春では遅すぎます。安倍首相と同様、やってるフリと言われても仕方ありません」(経済評論家・斎藤満氏)
「聞くだけ番長」というリスク
どうにもならない景気をバラマキでごまかそうとしているだけなのだが、そのバラマキも、この迷走では話にならない。
岸田の所信表明も茂木の代表質問も、経済対策に関してはしょぼしょぼで盛り上がらなかったが、両者が力を込めたのが改憲と防衛費増額、敵基地攻撃能力などのテーマだった。
「経済対策はまず大きな予算規模を決めて、どこにバラマくかとやっているだけですから、政策効果はあまり期待できない。企業の利益が増えて個人の所得が減り続けるアンバランスな現状を是正することが求められているのに、そこは“やってるフリ”で、軍国化政策に意欲を燃やすのは、傷んだ国民経済に目が向いていない証拠です。実に不安なのは、人の話を聞くことが特技と自慢する岸田首相が米国追従を深化させそうなことです。思いやり予算の増額や沖縄の辺野古基地新設強行など、すでにその兆候はある。米中対立の本質を見極めることなく、米国に強く言われたら付き従ってしまうのではないか。それで経済的な結びつきが強い中国との関係が決定的に悪化したら、日本経済はどうなってしまうのか。岸田首相の場当たり体質は、わが国の安全保障上、大きなリスクです」(斎藤満氏=前出)
来年2月に開催予定の北京五輪について、米国や英国、カナダなどが“外交的ボイコット”を表明。国内でも、安倍元首相ら右派だけでなく、野党からもボイコットを求める声が上がっている。「国益の観点から自ら判断」と言っている岸田は、どんな決断をするのか。
ただでさえ世界情勢は不穏なのに、「聞くだけ番長」の首相がフラフラしているこの政権では、やがて国民にとてつもないツケが回ってくるのは間違いない。
岸田政権の「全額現金」給付つぶしに地方から悲鳴…
財源チラつかされ“兵糧攻め”に
日刊ゲンダイ 2021/12/10
18歳以下を対象に現金5万円とクーポン5万円を給付する「子育て世帯臨時特別給付金」。クーポン給付には967億円もの事務経費がかかる上に、準備の手間も増え、給付も遅くなることから「全額現金」を打ち出す自治体が相次いでいる。岸田首相も8日の衆院本会議で「自治体の実情に応じて現金給付での対応も可能とする」と「容認」に追い込まれた。ところが、全額現金の場合、国がクーポン分の財源を手当てしない可能性が浮上。非情な“兵糧攻め”に自治体は困惑している。
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岸田首相の容認答弁を受け、大阪府岬町、神戸市、広島県安芸高田市、岡山市、沖縄県石垣市なども「全額現金」を表明。これまでに10を超える自治体が打ち出している。
しかし、財源について雲行きが怪しくなってきた。
全額現金方針の大阪市の松井市長は8日、「国から(クーポン分を)財源措置されない可能性が浮上している。内閣府から『趣旨が違うから』と言われた」と明かした。9日の東京新聞も、自治体が独自判断で現金給付に切り替えた場合、「クーポン給付とは異なる取り組みなので5万円分の財源は自治体が負担することになる」との政府高官の談話を報じている。
「容認」と言いながら、国がカネを出さないのは「全額現金」つぶしに他ならない。全額現金を表明している自治体に聞いた。
「報道を見て驚きました。自治体負担となるとクーポンで支給せざるを得ない。額が大きいので自治体で負担するのは苦しいし、市が負担すれば、給付の対象とならない市民から理解を得るのも難しい。報道ベースなので、今後の国の出方を注視したい」(群馬県太田市こども課)
「5万円分を国に面倒を見てもらえないなら、どうするかは市長を含めて判断することになりますが、自治体が財源を確保して支給するのはもちろん厳しい。どこの自治体も同じではないでしょうか」(大阪府箕面市子育て支援室)
「国が財源措置をしてくれなければ、クーポンにせざるを得ない。市でとてもまかなえる額ではない。ぜひ、国で見てもらいたい」(沖縄県石垣市こども家庭課)
それでも諦めないクーポン配布
自治体の財政はどこも苦しい。国の財源措置がなければ全額現金は頓挫せざるを得ないのだ。
「岸田首相は『自治体の実情に応じて』と言うなら、自治体の都合で現金かクーポンかを選んでもらえばいい。もし、岸田政権が主張する通りクーポン給付のメリットが大きいなら、クーポンを希望する自治体が殺到するはずです。国の財源措置を渋ったり、全額現金給付に条件をつけ、愚策を押し付けるのは地方自治を理解しているとは思えません」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
全額現金給付の条件は補正予算成立後に示される。岸田首相は「柔軟な制度設計を進める」と答弁したが、木原官房副長官はクーポン給付について「現金よりも子育て目的への支出が促進される」と諦めない様子だった。迷走は長引きそうだ。