兵庫県内の生活保護受給者24人が、13~15年の安倍政権時に3年間で平均6・5%(最大10%)減額されては憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の維持に足りないとして減額の決定取り消しを求めたのに対して16日、神戸地裁は国側の裁量を認め、「判断の過程および手続きに過誤または欠陥があるとは解されない」として原告の請求を棄却しました。
そもそもこの生活保護支給基準の切り下げは自民党の冷酷な意図的・政策的発想に拠ったものであって、在野時代の12年夏の参院選に生活保護費切り下げを公約に掲げ、12年末の総選挙で政権に返り咲くと早速それを強行したのでした。
今年2月には大阪地裁が、神戸地裁とは正反対に、厚労省が物価指数を求めるに当たり、テレビやパソコンなどの価格の下落幅が大きく且つ生活保護世帯の支出割合が低い品目を基にし、しかも「特異な物価上昇」が起きた08年を減額算出の起点にしていることを不合理とし、国が基準額を引き下げた判断過程に誤りがあり裁量権を逸脱したとして減額決定を取り消す判決を出しています。
神戸地裁はこれらの論点をどう判断したのでしょうか。「最後の安全網」である生活保護費の引下げをまたしても司法が追認したのは残念なことです。
ところで、原告側の敗訴は、昨年6月の名古屋地裁、今年3月の札幌地裁などに続いて6件目となります。神戸地裁の判決文には「NHK受診料」という明らかな誤字がありますが、これは一連の「原告敗訴の判決文に共通」だということで、先に出された判決文をパソコンでコピーしたことが推定されるということです(その他の個所でも、同一表現が多数引用されています)。正に司法の退廃に他ならず、そんな「流れ作業」で判決が出されることはあってはならないことです。
27日付の熊本日日新聞に「年の瀬の熊本市、食料配布会に長い列 コロナ禍、生活困窮 『仕事失った』『収入減った』…悩み切実」が、しんぶん赤旗に「年の瀬 各地で食料支援 大津 “困っている人励まそう”」が、それぞれ載りました。
併せて紹介します。
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社説 生活保護判決/最低限度の生活を支えよ
神戸新聞NEXT 2021/12/27
兵庫県内の生活保護受給者24人が居住自治体に対し、減額支給の決定取り消しを求めた訴訟の判決で、神戸地裁は16日、支給額引き下げを「違法とは言えない」として原告の請求を棄却しました。
原告は、減額後の支給額では憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の維持に足りないと主張し、支給を担う伊丹、尼崎、神戸、明石市を相手に提訴していた。同種の訴訟は29都道府県で計約千人が起こしている。
原告側の敗訴は、昨年6月の名古屋地裁、今年3月の札幌地裁などに続いて6件目となる。生活保護は社会の「最後の安全網」である。またしても司法が引き下げを追認したのは残念でならない。
厚生労働省は2013~15年の安倍政権時に生活保護費の基準額を引き下げた。受給者は08年のリーマン・ショック後に急増し、民主党政権で増えたと批判する自民党が12年衆院選で減額を公約にした。「結論ありき」だったと言うしかない。
減額は3年間で平均6・5%、最大で10%に及んだ。根拠になったのは08~11年の物価下落だった。厚労省は独自に算定した指数で支給額の基準を改定した。
「引き下げ幅が大きくなりやすい算定だ」と主張する原告側に対し、判決は国側の裁量を認め、「判断の過程および手続きに過誤または欠陥があるとは解されない」とした。
だが今年2月の大阪地裁判決は、正反対の判断を下した。厚労省独自の指数は、テレビやパソコンなど生活保護世帯の支出割合が低い品目を基にしており、下落率が大きい。そのため「統計の客観的な数値などとの整合性を欠く」と指摘した。
さらに厚労省が、原油や穀物の価格が高騰し「特異な物価上昇」が起きた08年を減額算出の起点とした点にも疑問を呈し、国の生活保護引き下げを「違法」と結論付けた。神戸地裁判決と比べ、「最低限度の生活」を支えるという憲法と生活保護法の理念に沿い、明快である。厚労省は今回の勝訴に安堵(あんど)せず、受給者の生活実態に真摯(しんし)に向き合うべきだ。
一方、一連の訴訟で問題になっているのが、原告側が敗訴した福岡、京都、金沢地裁の判決文にあった同じ誤字である。「NHK受信料」がいずれも「NHK受診料」となっていた。原告側弁護団は、パソコンなどで文章を引き写す「コピペ」の疑いがあると批判している。
執筆において「コピペ」があったとすれば由々しき問題だ。言うまでもなく、判決は各裁判官が独立した立場で書くべきものであり、安易な前例踏襲があってはならない。裁判所には、冷静な事実認定に基づく厳正な判断を求めたい。
年の瀬の熊本市、食料配布会に長い列 コロナ禍、生活困窮 「仕事失った」「収入減った」…悩み切実
熊本日日新聞 2021年12月27日
長引く新型コロナウイルスの影響で生活が困窮した人を対象にした食料配布会が25、26の両日、熊本市で開かれ、年の瀬の寒空の下、子育て世代やお年寄りが長い列をつくった。「仕事を失った」「収入が減った」「公的支援が利用しづらい」…。相談ブースに訪れた人たちは、切実な悩みを打ち明けた。
県民主医療機関連合会(民医連)は26日、中央区の水前寺江津湖公園で「いのちとくらしを守る相談村」を開催。朝から約100人が米やカップ麺、生活必需品を受け取った。
「冬休みは食費のやりくりが大変なので助かる」。中高生の子ども3人を育てる近くの主婦(44)は笑顔を見せた。コロナ禍で自身のパートがなくなり、家計収入は月6万円減った。18歳以下への国の10万円相当の給付は始まったが、「いつまでコロナ禍が続くか見通せず、楽観できない」と一緒に来た主婦仲間と話していた。
会場では、医師や弁護士らが健康面や雇用、福祉に関する相談に応じた。数年前にがんを手術した中央区の男性(51)は、熊本市に生活保護を2度申請したが、同居の母に年金が支給されていることを理由に断られたという。
「弱った体でできるアルバイトはなく、途方に暮れている。生活保護のハードルは高く、本当に困っている人がたどりつけない」と男性。相談を受けた弁護士は、母親と世帯収入を分けて受給できるよう男性に付き添って市に働き掛けることを約束した。
相談会では、コロナ禍の受診控えで持病が悪化した人も。県民医連の光永隆丸会長は「コロナ禍の『二次被害』は、想像以上に深刻だ。飲食業や観光など経済全体の窮状は叫ばれるが、個々の生活困窮は見えづらく、以前から抱えていた家族や体調などの問題に重なるケースも多い」と危機感を口にした。
熊本民主商工会などが25日に東区戸島西の県営団地で開いた食料配布会には53人が訪れた。聞き取りでは、政府の緊急小口資金の特例貸し付けで、熊本地震時の借り入れが返済未了として対象外となった人や、困窮世帯に最大30万円を給付する政府の生活困窮者自立支援金を「収入などの要件が厳しく利用できない」と答えた人もいた。
同団地がある長嶺校区4町内自治会長で民生委員も務める木村正道さん(45)は「高齢世帯や障害者がいる世帯は特に内情が見えづらい。行政による把握と情報共有が欠かせない」と強調した。(堀江利雅)
年の瀬 各地で食料支援 大津 “困っている人励まそう”
しんぶん赤旗 2021年12月27日
生活に困っている人たちを励ます、食料支援などの取り組みが各地で取り組まれました。
大津市のNPO法人「大津夜まわりの会」(永芳明理事長、弁護士)は26日、生活に困っている人たちを励ます越冬支援のつどいを市内の膳所(ぜぜ)診療所駐車場で開きました。参加者に、もちやカップめん、マスクなどの入った“お楽しみ袋”やコメ、紅白まんじゅうなどが手渡され、豚汁が振る舞われました。今年で21回目。
永芳理事長は、コロナ禍で苦しむ国民への支援について「子育て世帯には10万円相当の給付をするということですが、困っているのは子育て世帯だけではない」と述べました。
初めて参加したという男性(60)は「フルタイムのパートとして食品会社の工場で5年間働いていましたが、今年8月、工場の移転で退職を余儀なくされました。就職活動をしていますが、仕事がまだ見つかりません。生活保護を申請しています」と話しました。
年金が月5万円ほどだという1人暮らしの男性(83)は「こういう支援はありがたい」と話しました。