現代ビジネスに石橋昌彦氏の記事が載りました。
ここでは安倍晋三氏と菅義偉氏という、9年近くに渡って日本の国をズタズタにした2人が主要人物として登場します。どちらも、もう聞きたくない見たくもない名前で、安倍氏の再々登場などは論外ですが、本人は「折を見て」と狙っているようで「二度の政権を終えても一丁上がりとはさらさら思っていない」ということです。
一方、岸田首相は「まずは安倍を潰したいというのが本心で、意外なほど好戦的で、麻生派の53人に岸田派の42人、それに谷垣グループを加えて再編し『大宏池会』を結成して、安倍派の95人を凌駕する」という戦略を持っていて、現実に安倍氏は政権の中枢から遠ざけられています。
今や安倍氏は「陰りゆく存在」なのですが、もしも菅派が結成されて反岸田に回れば、まったく見通せない戦いが始まると石橋氏は見ています。
石橋氏の2編(前・後編)を紹介します。
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菅義偉の派閥結成を、安倍晋三が後押しする「本当の理由」がわかった
石橋 昌彦 現代ビジネス 2021.12.15
近代日本の内閣制度が確立してから、「再登板」した総理大臣は意外に多い。初代首相の伊藤博文もそうだし、松方正義、山縣有朋、西園寺公望、大隈重信、近衛文麿に吉田茂 …。もっとも、選出ルールが現在とは異なり、比較的容易だった時代の話だ。
だが現憲法下において、退陣後に「再登板」したのは安倍晋三元首相ただ一人である。
党内には、いまなお安倍の3期目の首相就任、すなわち「再々登板」を望む声は根強い。三角大福中をも凌駕する最強政治家として、安倍の発信力は岸田政権樹立後も衰えを知らない。
師走に入った12月1日、ホテルニューオータニ「鳳凰の間」で開かれた西田昌司参院議員の政治資金パーティに講師として招かれた安倍元首相は、岸田政権についてこう言い放った。
「分配、分配と分配ばかり言っているが、分配より成長をもっと言わないと日本に活力は生まれない」
「分配」を説く岸田よ、忘れるなよ、安倍晋三はここにいる! とばかりに苦言を披露したのだ。岸田首相に成り代わって実現できる政策力を自信満々にアピールした。
さらに続けて『文藝春秋』に発表されたいわゆる「矢野論文」についてこう語ったのだ。
「矢野康治財務次官が月刊誌で、岸田政権をばらまき政策と批判論文を発表していますが、私が政権を担当していたころ、矢野財務次官はたしか財務省の主計局長だったと思います。予算編成の折に、『ばらまき』などと私に言ってきたことはただの一度もなかったんです。アベノミクスだって異次元の財政出動を打ち出し、成長戦略で経済成長を目指していた。アベノミクスと岸田政権はそんなに大きな政策的違いはないのに」
ここで安倍が言いたかったこととは何か。
岸田の言う「新しい資本主義」は、霞ヶ関官僚から甘く見られている。安倍政権時代とは違い、無条件で一定額を支給するベーシックインカムとも受け取られかねない「ばらまき政策」である ─ 安倍は岸田の未熟さ、ひ弱さを指摘したのだ。
岸田政権の経済政策には、具体策とそのゴールの輪郭が明確ではない。そこに歯がゆさを感じているのだろう。ならば、もし綻びが出始めればすぐさま政権を取りに行く──そう言わんばかりの迫力なのである。
岸田政権の状況は、日本経済の趨勢に直結する。とある有名企業の幹部は、この講演を興味深く聞いていた。
「安倍さんが岸田首相をどのように評価しているのか。それと同時に、来年7月の参院選を乗り切ることが出来るのかを見極めたかった。岸田政権が長期政権となるのか、はたまた短命で終るのかが知りたい。安倍さんには、岸田政権のグラグラした方向性に歯がゆさを感じているように感じました」(講演を聞いた一部上場企業の幹部)
岸田の党内基盤は、まだまだ一抹の不安が残る。だから、安倍待望論はいつまでもくすぶり続ける。まだ67歳の安倍元首相自身が、二度の政権を終えても一丁上がりとはさらさら思っていないのである。
後編(あんたは、どっちにつくんだ? 安倍から菅に投げかけられた「秋波」の意味)では、岸田と安倍の対立を軸とした党内抗争に、どう菅が影響を及ぼすか、証言をもとにレポートする。
あんたは、どっちにつくんだ? 安倍から菅に投げかけられた「秋波」の意味
石橋 昌彦 現代ビジネス 2021.12.15
前編(菅義偉の派閥結成を、安倍晋三が後押しする「本当の理由」がわかった)では、遠回しに岸田批判を繰り返す安倍晋三の焦りについてレポートした。ここでは、岸田と安倍の対立を軸とした党内抗争に、「菅派結成」がどう影響を及ぼすか、証言をもとに明らかにする。
安倍の「負のオーラ」
だが、こうした安倍元首相の「威嚇」ともいえる岸田への攻撃は、陰りゆく自身の存在を誇示したい気持ちの発露でもある。
「森友・加計・桜の問題や、それに伴う公文書改ざんと国会虚偽答弁は、国民の政治不信に直結した。安倍さんの持つ『負』のイメージは解消されていない。オーナーとなった清和会とて、安倍さんが戻ってきたと手放しで歓迎する雰囲気ではない。とりわけ選挙を控える参議院組にとっては、『安倍さんが表に出てくるのは困る』というのが正直なところだ」(安倍派議員)
一方、岸田周辺の議員がこう語る。
「まずは安倍を潰したいというのが、岸田は考えている。ソフトには見えるが、意外なほど好戦的だ。まずは任期満了まで4年間のまっとうを目指すため、その間に麻生副総裁との関係を深化させ、麻生派との合併を果たしたい。麻生派の53人に岸田派の42人、それに谷垣グループを加えて再編し『大宏池会』が成功すれば、安倍派の95人を凌駕した党内最大派閥ができる」
岸田派が安倍派を抑えれば、もう怖いものなしなのである。
「安倍のことを鬱陶しいのは明白だ。無役のまま放置し、完全に中枢から遠ざけられていることが何よりの証明じゃないか」(同)
敵の敵は味方なんだから
安倍にとって、岸田を牽制し、党内を掌握するには他の手はないか。そこで食指を伸ばした相手が、菅義偉前首相だ。背景には、菅と岸田の関係の悪さがある。そもそも73歳の菅前首相より9歳も年下の岸田は、「当選期数が私より下だから、(菅とは)ご縁がない」と言って、菅を歯牙にもかけていない素振りだ。無派閥を中心とする菅グループが、「反岸田」勢力になることを恐れ、11月11日にもわざわざ面会したが、形式的なものに過ぎない。
敵の敵は味方。わずか1年ほどで政権を退陣した菅と安倍の関係は微妙なものとなっていたが、安倍と菅の会食があったのは、臨時国会直前の12月2日のことだった。安倍元首相はわざわざインターネット番組で明かしている。
「菅さんと政治行動を共にしている無派閥グループ『ガネーシャの会』を菅派閥とするなら簡単に結成できるのではないか。私と菅さんの絆は相当強いので協力していける」
安倍から菅へのラブコールとも受け取られたが、わざわざネット番組で公にしている時点で、本気かどうかは微妙なところだ。だが、菅前首相もしたたかだ。「同志の皆さんと力を合わせて、政策を実現していきたい」と、この安倍宣伝を活用した。
菅はどちらにつくのか 抗争はもう始まった
もし菅派結成となれば、党内のパワーバランスは一段と複雑化する。
そもそも党内抗争は始まっている。党内に、経済政策で真っ向から対立する「財政規律派」と「積極財政派」の二つの政策本部が動き出しているのは、その端緒だ。この国の立て直しを、上げ潮経済政策に任せるのか、財政健全化を視野に入れながらそろりそろりと進むのか。
財政規律派の「財政健全化推進本部」最高顧問は麻生太郎元首相。つまり背後には岸田勢力がいる。
積極財政派の「財政政策検討本部」最高顧問は安倍晋三元首相。つまり背後には反岸田勢力がいる。
どちらにつくのが得なのか、中堅若手議員と来夏の参院選挙を戦う者にとっては悩ましい選択だろう。安倍元首相の発信力と政治力に与するのか、政権担当者となった岸田首相に加担するのか。そして、ここに菅がどう加わるのか。
「一連の岸田人事は、安倍元首相の力を削ぐ多数派工作で安倍さんにとっては面白くないだろう。衆院に鞍替えしたばかりの林芳正を外相に据え、次の選挙で山口新3区は安倍対林の一騎打ちとなる。そこで総理経験者である安倍元首相を中国ブロック比例1位に祭り上げ、選挙区を剥奪される可能性が高い。選挙区を持たない政治家はもはや名誉職だ」(麻生派議員)
今のところ、岸田と安倍の戦いは岸田優位に進んでいるように見える。だが、菅派が結成され、反岸田に回れば、まったく見通せない戦いが始まる。