2021年12月29日水曜日

29- 2021年 今年最も衝撃を受けた事件(世に倦む日々)

 世に倦む日々氏が「 ~ 2021年今年最も衝撃を受けた事件」と題する記事を出しました。記事は「銀座の風景」から書き出されています。それは今の日本の対照的な一面を映し出していますが、勿論本題ではありません。
 いわば30年前に鳴り物入りで ― 何か価値があるかのようにして ー 登場した「新自由主義」の行きついた果てを示してくれています。
 文中の「下線」はすべて原文に施されたものです。
 また原文の末尾には 文中で紹介された悲惨な事件などの記事が掲載されていますが紙面の関係で割愛しました
 お読みになりたい方は下記から原文にアクセス願います。
   ⇒ 年末の銀座の風景 - 2021年 今年最も衝撃を受けた事件
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年末の銀座の風景 - 2021年 今年最も衝撃を受けた事件
                                                   世に倦む日々 2021-12-28
久しぶりに銀座に出て歩くと、街の風景は一変していた。コロナの影響と不安がすっかり消えたかの如く賑わいが戻り、路上も店内も年末の買い物客で溢れている。コロナ前の銀座に戻ったように見え、また何より驚いたのは、その空間に外国人がいないことだった。中国人観光客の姿がない。ユニクロ銀座店の中に日本人しかいなかった。こんな絵は9年前の開業以来初めてだ。この店の日本人客の比率はいいとこ30%で、30%が中国人、20%が韓国人、20%が(東京在住含めた)欧米の白人というのがコロナ前の相場であり、清水寺と同様、成田空港コンコースの人種民族の構成比が直に反映されているのが常だった。日本人だけで活気を埋めている銀座を見て、10年前に戻ったようで懐かしく思われた。だが、よく見ると、10年前とは違う現実が分かる。歩いている日本人が変わっていて、昔の中間層の風情ではなく、NHKのニュースに「街の人」として登場してくる富裕層ばかりなのだ。着ているものが違う。誰もコロナ前の「制服」の The North Face など着ておらず、Nike の黑の「制靴」を履いていない。

三越の地下食料品売り場では、年末年始を自宅で過ごすための食材を仕入れようとする富裕層でごった返し、まさに足の踏み場もない混雑だった。金を持っている富裕層は鼻息が荒い。コロナ前の中国人観光客そのもので、がめつく我先に人を押しのけて高い商品に手を伸ばす。毛皮のロシア帽をかぶったモデルみたいな女性が、行きつけらしき地下3階の店でブルーチーズを買っていて、いかにも和久田麻由子が報道する「東京の街の人」っぽい感じで、NHKのカメラが撮りに来るのを待っているような趣だった。100グラム1080円。この肴だとワインも廉価なものでは釣り合わないだろう。話が逸れるが、ワインは日本の庶民が日常の食生活で楽しめる嗜好品ではなくなった。EUとのEPAで輸入ワインが安くなると、あれほど和久田麻由子と桑子真帆が宣伝し、安倍晋三の手柄だと持ち上げまくったが、輸入ワインは安くならず逆に高くなっている。円が安くなり、日本の購買力が低下しているからだろう。ボトルのラベルは同じだが、粗悪な樽が日本市場送りになっているでのはないかと邪推するのは私だけだろうか。

その夜のNHKの7時のニュースでは、コロナの影響長期化で生活に困窮する女性の問題が取り上げられていた。シフトが減って手取りが14万円。家賃、光熱費、車のローンとガソリン代を合わせて月10万円かかり、残り4万円を食費と携帯電話代に当てる生活で、どれだけ節約しても赤字になると言う。NHKの記事はこう書いている。

女性は「将来のために貯金をしたくてもできず、何をするにしてもお金のことを考えてしまいます。自分に余裕がなくなっていることがつらく、自分が情けないです」と涙ながらに話していました。今の仕事では生活が厳しいため4か月ほど前から新しい仕事を探しています。しかしハローワークやインターネットなどで企業などの求人をみていますが、求人の多くは収入が今と同じ水準で再就職できたとしても生活を続けることが難しいと感じています。転職の活動を続けることにしていますが、安定した仕事が見つかる見通しはたっていません。


今年、私が最も衝撃を受けたニュースは、愛知県の26歳の男性が母親を殺して逮捕された事件だった。読売の記事が10月25日に上がっただけで、マスコミ他社の報道が全く無く、続報も見当たらない。Yahoo のニュースリストに並び、人々の注意を集めたはずなのだけれど、テレビでは報道されず話題にならなかった。中学生の頃に両親が離婚、母親が病気を患い、長男は弟と一緒に働いて家計を支えていたとある。事件の数日前から母親は自殺未遂を繰り返し、見かねた長男が、弟を外出させ、「殺して」と懇願する母親を手にかけたとある。「こんなつらい役、任せてごめんね」「出来の悪い親でごめんね」と母親は謝ったとあり、警察は嘱託殺人罪の容疑にしている。真実はよく分からないが、記事は、長男が生活保護制度を知らなかったためにこういう悲劇が起きたと説明していて、長男と家族の無知の責任だと総括した。裁判で判決が出た後に事件が公になっていて、裁判所が意図的に読売にこの内容で書かせていることが窺える。この家族のこの10年間はどれほど苛酷で凄絶な生き地獄だっただろう。母親はまだ50歳の若さだった。

埼玉県の男性の事例で、9歳のときから、病気で倒れた祖母と母親の介護と家事に追われ、小中学校に満足に通えなかったという深刻な一件があった。NHKの取材記事がネットに載っている。いわゆるヤングケアラーの問題。マスコミでも多く取り上げられているし、ネットにも情報がたくさん上がっている。厚労省と文科省が実態を調査した報告が今年3月に上がっていて、それによると、「世話をしている家族がいる」と答えた子どもが、中学2年生で5.7%、高校2年生で4.1%いるという結果が出ている。昔見た英国映画『小さな恋のメロディ』で、ジャック・ワイルドが演じた男の子が、やはり事情を抱えて家族のために食事を作っていた。ヤングケアラーという言葉はなかったが、かかる難儀な境遇の中にいた子は、当時すなわち50年前の日本でも確かにいたと記憶する。でも、この種の問題は改善の方向でこの国は時代を進めていたはずだ。ヤングケアラーなどという言葉が出現し、多くの子どもが厳しい環境に置かれる状況になったのは、明らかに貧困(格差社会化)の所産であり、新自由主義(資本主義)の矛盾と弊害が甚だしくなった所為だ。

ちょうどソ連崩壊30年の報道と重なったので、併せてこんなことを考え書いてみたい気分にかられたが、貧しい国だったソ連で、果たしてヤングケアラーはどれだけいただろう。否、現在も社会主義国の体制のまま社会を運営し、米国やEUから「専制主義国」のレッテルを貼られて異端視され、白眼視され、侮辱され貶下されているキューバやベトナムで、病気の親の介護と家事の世話を強いられて、学校に行けない子どもがどれだけ存在するだろうかカストロとゲバラが理想に燃えて建てたキューバ共和国は、長く続く米国の経済制裁のため未だ貧しい貧しい極貧の国だが、そんな理由で義務教育を受けられず自己責任で放置されている子どもが、果たしてキューバにいるだろうか。論理的にはあり得ないことで、国家の原理原則すなわち憲法の理念に即せば、それは絶対に許されないことである。日本では、ヤングケアラーという概念を成立させ、語を世間一般に流通させ、事態を容認し、行政の(素振りと言い訳だけの)ケアで手当てしているように見せかけている。それで済ましている。問題を根治しようとはしない。リベラリズムの国だからだ。システム上是認すべき派生悪だからだ。

2020年度の国の税収は、前年度より2兆3801億円多い60兆8216億円で過去最高となった。この税収増に大きく寄与したのが法人税の増収で、財務省が8兆円と見込んでいた額が、何と1.4倍の11.4兆円に上振れしている。皆さん、あれれと意外に思わないか。2020年度はコロナ禍に経済が直撃された年で、GDPはマイナス4.6%と過去最大の下げ幅を記録した最悪の年だった。法人税収が財務省の見込みより1.4倍も上がったということは、予測を大幅に超えて企業の経常利益が増えた事実を意味している。日経の記事は、大企業が好調で巣ごもり需要と輸出増で増益したのだと言い、もともと赤字経営で法人税を払ってなかった中小企業は、コロナ禍だろうが経営不振だろうが法人税収の数字には影響がないのだと、このマクロ経済の摩訶不思議を解説している。謎解きの一つには違いないが、他にも要因はある。企業の経常黒字が増えたのは、人件費を大幅に削ったからだ。コロナ禍を理由とするところのリストラ。嫌がらせによる追い出し。人員削減と給与カット、時短と残業減。テレワークによる従業員通勤費減と出張交通費減。これらによって企業の経費が減り、利益が著しく増えた点が大きい。

2020年12月の毎月勤労統計によると、日本の実質賃金は前年同月比1.9%減少し、名目賃金にあたる1人当たり現金給与総額は前年同月比3.2%減となっている。世間一般の景況感はこの数字を反映したものだが、企業は経常利益を大幅に増やした。報道によると、2021年度の4-6月期も上場企業の純利益は前年同期の2.8倍となっていて、7-9月期の全産業の経常利益も前年同期比35.1%増となっている。