「デジタル田園都市国家構想」とは、昨年5月、検察庁の黒川問題のドサクサに紛れてたった11時間の審議で成立した「改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)」で謳われたもので、その原案をまとめたのは竹中平蔵氏らでした。国際ジャーナリスト・堤未果氏はスーパーシティ法の落とし穴について、米国の事例から「まず行政サービスを担う業者を決める際、住民と地方議会の手続きはすっ飛ばし、自治体の首長とパートナー企業、およびサービス提供事業者による地域協議会が決めればOK。スピード重視と効率優先で なし崩し的に住民主権は奪われる」と指摘しています。
経済アナリストの菊池英博氏も「スーパーシティは大企業が政府や役所に働きかけ、法や制度を自らに都合のいいように変え、利益を得るという方式で、竹中氏の仕事の総仕上げとなりかねません」と語り、五野井郁夫・高千穂大教授は、「岸田政権の構想は、地方分権の流れから逆行し、地方都市を壮大な実験場にして将来的には切り捨てる。効率優先で地方から自治と文化を奪い、デジタル支配で徹底的に住民を管理する。公共サービスの民営化で、パソナが喜ぶだけの暗い未来のイメージが浮かびます」と述べています。
⇒(11月16日)「デジタル田園都市構想」の真ん中に居座っている竹中平蔵
しんぶん赤旗が「デジタル田園都市 地域が主役の立場が見えない」とする主張を掲げました。
デジタル田園都市国家構想を成長戦略の柱にすると謳うと、如何にも地方自治体が主役であるかのように聞こえますが、成長するのは大企業だけで、その効果が周囲に及ばないことはこの20年で証明されました。むしろ逆で、大企業がリーダーシップを取って進めれば効率優先の名目の下で地方自治体の主体性が消失するのは、例のデジタル関連法に基づく「自治体情報システムの標準化・共通化」の中で地方自治体の独自性が消去される仕組みと同様です。
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(主張)デジタル田園都市 地域が主役の立場が見えない
しんぶん赤旗 2021年12月2日
岸田文雄政権が「デジタル田園都市国家構想」を推し進めています。「地方を活性化し、世界とつながる」が合言葉です。大企業が手掛けるデジタル事業への支援を中心に据える一方、肝心の地方活性化の政策が乏しく、個人情報を金もうけに利用する危険な施策が盛り込まれています。地域を主役とする立場が見られません。大都市と地方の格差を広げてきた政策から転換する必要があります。
危険な個人情報の利用
岸田首相が立ち上げたデジタル田園都市国家構想実現会議には、社会保障の削減や中小企業の淘汰(とうた)など極端な新自由主義を主張する竹中平蔵慶大名誉教授(パソナグループ会長)や、経団連副会長を務める冨田哲郎JR東日本会長が名を連ねます。大企業の意向を反映させる人選です。
政府は11月に決めた経済対策でデジタル田園都市国家構想を成長戦略の柱に位置づけました。次世代高速通信網の整備やデータセンターの設置など大規模な公共事業をいくつも並べました。しかし地方で雇用を増やし都市との賃金格差を是正する政策はありません。
実現会議に政府が提出した資料では、地方から東京圏への転入の理由として「希望する仕事が見つからない」「賃金など待遇の良い仕事が見つからない」ことが多数でした。こうした地方の声に応えていかなければなりません。大企業がもうかれば地域がよくなるという考えを改めるべきです。地方経済の主役である中小企業の振興や農山村の危機打開、全国一律最低賃金の実現は急務です。
デジタル田園都市国家構想は、個人情報を企業の金もうけに利活用する政策を重点としています。デジタル庁の資料には「オープンデータの促進」「地域ビッグデータの活用」が明記されています。
行政機関などが持つ住民の膨大な個人情報を匿名加工した上で本人の同意なく民間に売り渡し、企業はそれを使って事業を展開します。個人情報に関する権利をないがしろにする施策です。
個人情報を集めるために力を入れているのがマイナンバーカードの普及です。普及が進まないのは個人情報の流出や悪用に国民が不安を持っているからです。マイナポイントの付与と引き換えにカードを国民に押し付けることは地方の活性化と全く無関係です。
同構想は、9月に施行されたデジタル関連法に基づいて「自治体情報システムの標準化・共通化」を推進します。国のシステムに合わない自治体独自の施策が制限されかねません。国家戦略特区を活用してデジタル都市をつくる「スーパーシティ構想」の早期実現もめざします。いずれも地方自治を損ないかねない政策です。
東京一極集中を改めよ
地方経済の疲弊や住民の流出を招いた要因は、東京一極集中を加速させた歴代政府の政策です。政府も一極集中の是正を言わざるをえなくなりましたが「国際競争力強化」の名で大規模な都市再開発をなおも推進し、リニア中央新幹線の建設などで東京に人、物、金をさらに集中させようとしています。こうした政策を続ける限り、地方格差はなくなりません。
東京集中を改め、地方自治を大切にしながら住民が安心して住み続けられる地域づくりを支えることこそ国の役割です。