重い病気で働けないため生活保護を受けていた60代の女性が、交通事故で両脚が不自由になり春日部市内の病院へ通うのが難しくなったため、さいたま市の自宅を売却し、ほぼ同額で春日部市内のマンションを購入してそこから通院できるようにしたところ、春日部市はマンションを購入したから生活が苦しくなったとして、6月以降の支給停止を決定し、マンションの売却代金で1~5月分の保護費を返還するように要求しました。
女性は「生活困窮はさいたま市在住時からで、マンション購入が原因ではない」として、さいたま地裁に支給停止の取り消しとその仮処分を申請していたところ、地裁は7月に支給を命じる仮処分を決定し、高裁も8月に市の即時抗告を棄却したことが分かりました。
交通事故で両脚が不自由になった女性が通院できるようにと、1軒家を手放して医院の近くのマンションを購入したという事情を知りながら、それを口実に冷然と生活保護を打ち切り、さかのぼって返却させようとする市の対応は一体何なのでしょうか。
これはマンションに移るための「住居の等価交換」に対して、自宅を手放した瞬間に所得とみなすという、何んとも片手落ちな判断で、彼のシャイロック(「ヴェニスの商人」)の冷血さを思わせるものです。
いうまでもないことですが、国民には健康にして文化的な最低限度の生活をする権利があり、国(=行政)にはそれを保証する義務と責任があります。
それなのに何故職員たちは中世の小説もどきの、非道なあり方をするのでしょうか。何か大きな勘違いをしているといわざるを得ません。
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生活保護 再開を命じる 住宅買い替え理由に停止
東京新聞 2014年9月5日
埼玉県春日部市が市内の女性に対する生活保護費支給を打ち切った判断をめぐり、さいたま地裁が「市の対応は裁量権の乱用の余地がある」などとして、支給を命じる仮処分決定を出していたことが分かった。女性は、通院のため市外の自宅を売却し、ほぼ同額で市内のマンションを購入し転入していたが、市は「売却代金は生活費に充てるべきだ」などとして支給を停止していた。 (増田紗苗)
女性側弁護士や決定によると、女性は六十代で、四十代の長男と二人暮らし。ともに重い病気で働けず、女性は二〇一〇年十月からさいたま市で生活保護を受け始めた。一一年には交通事故で両脚が不自由になり、主治医がいる春日部市内の病院へ通うのが難しくなった。
女性は医師から春日部市への転居を勧められ、さいたま市の一戸建て自宅を約五百七十万円で売却。昨年末にほぼ同額で中古マンションを春日部市内で購入し移り住んだ。
春日部市は今年一月に女性への保護費支給を始めたが、二月に「マンションを購入したため生活困窮に陥った」として売却を要請。女性が応じなかったため、市は四月、六月以降の支給停止を決定し、マンションの売却代金で一~五月分の保護費を返還するよう求めた。
これに対し、女性は「生活困窮はさいたま市在住時からで、マンション購入が原因ではない」と反論。六月に支給停止の取り消しを求めてさいたま地裁に提訴し、仮処分も申請した。
地裁は七月の仮処分決定で「買い替えの前後で女性の生活状況に特段の変化はなく、マンション購入が原因で生活困窮に陥った、購入を断念すべきだったと評価するのは相当ではない」などと女性側の主張を認め、判決が確定するまでの支給を市に命じた。
市は決定を受けて支給を再開したが、決定を不服として東京高裁に即時抗告。しかし、市によると、高裁は八月に「地裁の判断を支持する」として棄却した。
◆国の見解 あいまい 識者「まるで兵糧攻め」
生活保護を受給しながら、ほぼ同額で自宅を買い替えることは問題なのか。国の見解ははっきりしない。専門家からは、春日部市の対応について「話のすり替え」などと批判も出ている。
厚生労働省によると、生活保護受給者の持ち家は一定の範囲内で認められているが、買い替えについての規定はない。
担当者は「生活保護法は、受給要件として『利用できる資産を最低限度の生活の維持に活用する』と定める。自宅の売却代金は生活に使うべきで、買い替えは原則認められない」と説明する。ただ「個別の状況や理由は考慮する」とした上で、今回のケースについては「司法の判断に委ねる」とするにとどめた。
春日部市は「女性は買い替えが原因で生活困窮に陥った」と主張する。だが、生活保護問題に詳しい首都大学東京の岡部卓(たく)教授は「女性は買い替えに関係なく困窮している。市が住居売却を求めて保護を打ち切ったのはまるで兵糧攻め」と厳しく批判。生活保護受給者の自宅買い替えについて「国は、以前住んでいた物件と同程度かそれ以下の価格の物件なら認めるべきだ」と話す。
「生活保護問題対策全国会議」事務局長の小久保哲郎弁護士は「不正受給問題がクローズアップされ、全国の自治体が保護適用を引き締めており、春日部市の対応もその一例ではないか」と指摘する。