2014年9月8日月曜日

安倍改造内閣の支持率がメディアで大きく違う理由

 旬までに新聞やテレビなどメディア各社が行なった世論調査の結果によると、内閣支持率はバラつきがあるものの、軒並み50%を切り、政権発足以来の最低水準を記録しました。支持率の低下は政権運営や政策決定に影響を与えます。
 
 ところが次安倍内閣改造後の世論調査では、読売新聞では前回調査から13ポイント上昇して64%に、日経新聞では前回調査を11ポイント上回って60%に、共同通信で前回調査より5・1ポイント上昇して54・9%に、それぞれ急上昇しました。
 一方毎日新聞は支持率は47%で前回調査と同じでした
 
 何故こんなことが起きるのでしょうか。5日のTHE PAGEに政治学者 菅原氏の解説が載りました。
 菅原氏は、内閣支持率の上昇は「質問文の改造」によるもので、これまでの例では質問文の改造で一時的に支持率が上昇しても、次回調査でまた低下してしまうとしています。
 
 6の日刊ゲンダイも、同じテーマについて、明大教授の井田正道氏(計量政治学)の次のような見解を紹介しています。
 「“支持”“不支持”の他に“関心がない”という第3の項目を用意するかしないか、用意しないで“関心がない“強いて支持、不支持のどちらか選ぶとしたら?”と重ねて聞くと、たいてい“まあ、支持かな”と答えることになる」
 要するに“関心がない”という層がどちらに誘導されるかで、支持・不支持の数字が大きく変わる・・・つまり「世論調査は聞き方によって、結果が大きく変わる」というわけです。
 
 ちなみに今回の改造の特徴の一つは、一挙に女性5人を大臣や党の幹部に登用したことですが、小渕氏以外の4人はいずれも極めつきの右翼です。
 例えば松島みどり氏は5人の中では小渕氏とともに「日本会議」には所属していませんが、法相就任の記者会見で、「日本の治安がきちっと守られること、これが人権にとって大事なことであって、犯罪者の人権などというのは二の次、三の次だ」「他人を死傷させたり性犯罪を行ったりした凶悪犯罪者については、心を入れかえたというふうに法務省が判断してからでなければ世の中に出してはいけない」「イラン人受刑者の宗教上の豚肉なしは逆差別でずるいんじゃないか」などと、法治主義の要を務める人には到底相応しくない発言を連発しました。
 
 いすれにしても、こうした陣容の内閣が支持を受け続けるとはとても思えません。
 
 2紙の解説記事を紹介します。
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安倍改造内閣の支持率の傾向が読売・日経と毎日で違う理由
 菅原琢 THE PAGE 2014年9月5日
(政治学者)                    
 第2次安倍内閣で内閣改造が行われたが、各社の世論調査では、内閣支持率が急上昇している。読売新聞では「改造前の前回調査の51%(8月1~3日実施)から13ポイント上昇」して64%、日経新聞では「8月下旬の前回調査を11ポイント上回って60%、共同通信でも「内閣支持率は54・9%と、前回8月調査より5・1ポイント上昇した」そうである。
 
 内閣改造は、「政権浮揚」を目的に行われるとよく報道される。これらの支持率上昇という結果を見ると、今回の内閣改造は少なくとも内閣支持率の「浮揚」には成功したように見える。
 だがその一方で、毎日新聞は「安倍内閣の支持率は47%で前回調査(8月23、24日実施)と同じだった」とする結果を発表している。
 このように内閣支持率の傾向が各社で分かれたのはなぜだろうか? ――おそらくその答えは、質問文の改造、である。
 
 9月5日午前6時現在で、質問文がネットで公開されているのは共同通信のみである。上記の西日本新聞の記事にpdfファイルで質問文が公開されている。これを見ると、今回の支持率調査の質問文は「安倍晋三首相は内閣を改造しました。あなたは、この安倍内閣を支持しますか、支持しませんか。」となっている。当然、改造前の8月の調査では「安倍晋三首相は内閣を改造しました」という文は挿入されていないだろう。
 
 継続的に調査し、その増減傾向を見る目的があるとすれば、このように質問文を変えるのは好ましくない。この共同通信の例では、純粋に安倍内閣を支持するかどうかだけでなく、内閣改造を支持するかどうかを聞いているように聞こえる。あるいは改造という言葉に惹かれて「支持」と回答する回答者もいるだろう。この結果、内閣支持率は上がることになる。
 
 他紙の質問文についてはまだ公開されておらず、あるいは公開されたとしても正確でない可能性があり、今回の件について現時点で断定することは難しい。しかし過去の例では、質問文を「改造」した調査では高くなり、質問文を「改造」しなかった調査では大きく変化しないという傾向があることは明らかである。拙著『世論の曲解』(※6)のコラムでは、福田改造内閣の際の結果について取り上げているので、ご関心のある方は参照していただければと思う。
 
 この福田改造内閣のときは、読売新聞、日経新聞、産経新聞・FNN共同、報道ステーション、日本テレビの各調査で質問文の改造が行われ、最も小幅な日本テレビで5.8ポイント、調査手法も異なっていた読売新聞は14.8ポイントの大幅なプラスとなっていた。この一方、質問文を変えなかった朝日新聞は前月と全く同じ、毎日新聞は3ポイント増と、小幅な動きにとどまっていた。現時点で発表されてないが、朝日新聞が世論調査をしているとすれば、毎日新聞と同様にあまり支持率は変動していないはずである。
 
 継続的調査で質問文を変えない意義も、過去の例を確認すれば明確である。福田内閣が改造した2008年8月の日経新聞の世論調査結果を、その前後と比較してみよう。なおこのデータは日経リサーチのページ(※7)で確認することができる。
 
2008年6月定例 「あなたは福田内閣を支持しますか、しませんか。」 
支持する 26%
2008年8月改造直後「あなたは改造後の福田内閣を支持しますか、しませんか。」
支持する 38%
2008年8月定例 「あなたは福田内閣を支持しますか、しませんか。」 
支持する29%
 このように、質問文の改造で一時的に支持率が上昇しても、次回調査でまた低下してしまうことになる。質問文改造派の他紙でも同様の傾向が見られ、質問文非改造派ではこうした大幅な上下動は確認されなかった。仮に質問文を正直に公開しない新聞社があったとしても、来月以降の数字と比較すれば、「何かやった」ことは明白となるだろう。
 
 ちなみに野田内閣の第3次改造に際する読売新聞の調査では、改造時に7ポイント上昇し、次月ではこれが15ポイント低下した。紙面掲載の質問文は3回の調査とも同じであったが、おそらく改造時には質問文を変えていたか、冒頭で内閣改造について触れていたと想像することができる。
 
 このように質問文の改造によって数字が動くことは、単に調査のやり方として問題があるだけでない。質問文改造効果を無視してこの数字の上昇を捉え、記事を書けば、世論に関する認識を誤ることになる。質問文改造効果で数字が上がっただけのものを、「支持率回復」「安倍首相にとって追い風」としてしまう。さらに悪いことに、次回調査の際には急激な数字の低下の前に新たな(間違った)説明を加えなければならなくなる。したがって、内閣支持率の質問文を改造するのは、メディアにとっても決して良いことではないのである。
 
  菅原琢(すがわら・たく)
      政治学者、主著に『世論の曲解』(光文社新書)。「政治」の章を担当した『平成史:増補新版』(小熊英二編著、河出ブックス)好評発売中。
 
 
読売64%、毎日47% 内閣支持率バラバラ…本当の世論は? 
日刊ゲンダイ 2014年9月6日
 いったい、どの数字が正しく世論を反映しているのか。
 5日、新聞各紙が安倍内閣の支持率を発表した。内閣改造後、最初の世論調査だっただけに注目されたが、新聞社によって数字がバラバラなのだ。
 とくに、“アップ幅”が大きく違っている。
 たとえば、毎日新聞の調査結果は、前回と変わらない支持率47%だった。ところが、共同通信は5・1ポイント上昇の54・9%、読売新聞にいたっては13ポイントも上昇し支持率64%だった。調査日も調査方法も同じなのに、片や上昇ゼロ、片や13ポイントもアップするというのは、どういうことなのか。明大教授の井田正道氏(計量政治学)がこう言う。
 「3紙の調査で共通しているのは、いずれも不支持が30%前後だということです。毎日32%、共同29%、読売29%。なのに、なぜ毎日と読売は支持率が大きく違うのか。ポイントは、毎日新聞は“支持”“不支持”の他に“関心がない”という項目を用意していることです。“関心がない”は18%もあります。この“関心がない”という層に、“それでも強いて支持、不支持のどちらか選ぶとしたら?”と重ねて聞くと、たいてい“まあ、支持かな”と答えます。とくに、今回のように女性閣僚を5人誕生させたようなイベントの直後では“まあ、支持かな”という回答が増える。毎日新聞と読売新聞の差は、それが原因だと思います」
 要するに“関心がない”という層が、いつの間にか“支持します”に変化しているということだ。意図的なのかどうか、安倍シンパの新聞社の世論調査ほど、支持率が高い。それにしたって、ここまで数字がバラバラの世論調査にどこまで意味があるのか。
 
 「世論調査は聞き方によって、結果が大きく変わってきます。最近、気になるのは、大手メディアが“高支持率”と報じると、国民が誘導され、さらに支持率が高くなる傾向があることです。調査結果をよく見ると、読売新聞の世論調査でさえ“景気回復を実感していない”が76%に達している。この数字が一番世論を正確に反映していますよ」(政治評論家・山口朝雄氏)
 
 「まあ、支持かな」と安易に安倍内閣を支持している国民は、よく考えた方がいい。