2014年9月9日火曜日

(書評) 『沖縄平和学習論』 柳下換 著

 国連の人種差別撤廃委員会が8月29日、日本政府に対し、沖縄の人々は「先住民族」だとして、その権利を保護するよう勧告する「最終見解」を発表しました。同委員会は2010年に、沖縄への米軍基地の集中について「現代的な形の人種差別だ」と認定し差別を監視するために沖縄の人々の代表者と幅広く協議を行うよう勧告しています
※  8月31日沖縄の民意尊重を 国連人種差別撤廃委が日本に勧告 
 
 足を踏む側の人間としてそうした認識が希薄であって、そのことを海外から指摘されるのは愧ずべきことです。
 7日の琉球新報に、加藤彰彦沖縄大学名誉教授による『沖縄平和学習論』(柳下換著)書評が掲載されました。
 平和とは「戦争のない」「生命の存在を保障する」状態が維持されることであるとして、500年前に薩摩の軍勢が琉球(当時)に侵入してからの、沖縄の歴史を「生命の維持」の観点から論じているということです。
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(書評) 『沖縄平和学習論』 柳下換 
加藤彰彦 沖縄大学名誉教授 琉球新報 2014年9月7日 
教育界に一石投じる書
 本書は大学で行われた「平和学習論」の講義録であるが、混迷する教育界に一石を投ずる貴重な問題提起の書といえる。
 著者の柳下換氏は、小中高大学全ての教員体験を持ち、現在はオルタナティブスクールの園長もしている。多くの教員は「何を教えるのか」と問われれば、国語とか数学を教えると答えるはずである。柳下氏は、それぞれの科目を通して結局は何を教えたいのかを問い、その考察をしている。
 
 長い間の体験と思索の末、柳下氏は、こうした学びの根底には「生命(生きること)の存在を知らせる」ことがあるのだと気づいたというのだ。教えること、学ぶことを通して出合うものとは「生命(生きること)」の存在だというのだ。
 柳下氏はカントの「永遠平和のために」、ベンヤミンの「暴力批判論」(ともに岩波文庫)を検討しつつ平和研究を進めた。
 そこから沖縄をテーマに平和論を展開する視点が生まれた。
 平和とは「戦争のない」「生命の存在を保障する」状態が維持されることだが、どうすればその状態は持続されるのか。
 
 柳下氏は1995年に国が沖縄県を相手に争った代理署名訴訟を取り上げ、その内容を検討し、この問題の本質には生命(生きること)の保障を実現することがあったと指摘する。
 沖縄の基地問題を導入にして薩摩侵入後の琉球の石高制がどう機能したかについて柳下氏は、授業を展開していく。
 授業では具体的事実を確認しながら、対話が積み重ねられ「生命の維持」が焦点となっていく。柳下氏は、阿波根昌鴻さんを中心に行われた、50年代の伊江島の農民運動にその典型を見ており、米軍とも対話を求めた運動の在り方を評価している。
 平和を実現することも、学ぶことも、ともに生きるためであり、生活者として生きることであり、そこには人類の本性のようなものが流れている。
 
 学ぶことは「生きること」とつながる。本書には学ぶことの可能性が満ちており、確かな展望が示されていると感じた。(加藤彰彦・沖縄大学名誉教授)
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 やぎした・かん 1957年、横浜市生まれ鎌倉育ち、大学卒業後、2年間ほど高校・小学校教員を務め、84年から鎌倉地域教育センター代表。96年より鎌倉・風の学園学園長。2009年からは横浜市立大学非常勤講師を兼務。著書・論文を多数執筆。
 
『沖縄平和学習論』 柳下換著 榕樹書林・2800円+税