全国最年少市長として話題になった藤井浩人・美濃加茂市長(当選時28歳)が、市議会議員時代に浄水装置の導入をめぐって計30万円の賄賂を受け取ったとされる事件の初公判が、17日、名古屋地裁で開かれました。
この事件では、贈賄側とされるコンサルタント「水源」社長中林正善被告の供述で市長が逮捕され、「逃亡の惧れがある」などの理由をつけられて丸2ヶ月間拘留された上、保釈後も副市長など市の幹部約30人との接触が禁じられるなど、検察側の異様な対応が注目されています。
藤井市長担当の郷原信郎弁護士は、中林被告の供述調書について「信用性に重大な問題がある」として、中林被告が金融機関から融資をだまし取ったとされる詐欺事件では、10機関から計4億円近い融資を引き出したとみられるのに、検察は2件計約2100万円分しか起訴しておらず、「検察が中林被告を有利に扱う“司法取引”をして、藤井被告に不利な供述をさせたと疑われる」、「検察によって作られた犯罪」であると訴えています。
ジャーナリスト江川紹子氏による藤井市長直撃インタビュー記事と、郷原弁護士から出されている「報道についての要請」も併せて紹介します。
後者はこの種の事案での世論操作に長けている検察に牛耳られがちなメディアへの注意喚起でもあります。
後者はこの種の事案での世論操作に長けている検察に牛耳られがちなメディアへの注意喚起でもあります。
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美濃加茂市汚職 市長側「作られた犯罪」 初公判
毎日新聞 2014年09月17日
岐阜県美濃加茂市の浄水プラント導入を巡る汚職事件で、受託収賄罪などに問われた市長、藤井浩人被告(30)に対する名古屋地裁での17日の初公判。贈賄側の経営コンサルタント会社「水源」社長、中林正善被告(44)との癒着ぶりを冒頭陳述で指摘する検察側に対し、藤井被告は「真実を見極めてほしい」と訴えた。【金寿英、駒木智一、三上剛輝】
午後4時、名古屋地裁1号法廷。黒いスーツ姿で入廷した藤井被告は傍聴席に向かって頭を下げた。ネクタイは市長選のイメージカラーだった緑色。起訴内容の認否では、声を震わせながら無罪を主張した。
「中林被告は、以前から藤井被告に現金を渡すつもりであることを知人に漏らしていた」「中林被告は知人に、プラント導入が『現金30万円を渡した成果』である旨話した」。検察側の冒頭陳述に、藤井被告は口を真一文字に結んだまま耳を傾けた。
この後、弁護側は中林被告の供述の問題点を攻めた。現金授受の状況に関する供述が変遷したことについては「つじつま合わせ」と指摘。「全く信用できないだけでなく、警察、検察に作り上げられた犯罪だ」と指弾した。
閉廷後の記者会見で藤井被告は改めて潔白を主張し、「警察や検察に屈することなく無実を主張できるのは、市民の支援のお陰。今後の公判で無実が明らかになるように取り組む」と話した。
検察側は公判で、藤井被告が「僕と中林さんは、言ってしまえば、『良い癒着』ですよね」などと言っていたと指摘した。この点について、主任弁護人の郷原信郎弁護士は会見で「被告人質問で答える」とした。
藤井被告は昨年4月2日、現金10万円を受け取ったとされている。既に行われた公判前整理手続きで、検察側は同月4日に藤井被告が自身が経営する学習塾の口座へ9万5000円を入金したとの証拠を示している。
会見で入金の趣旨を質問された藤井被告は「(何の入金か)具体的には覚えていない」と述べた。郷原弁護士は「事件との関連性はない。検察側もあきらめて、入金記録の話は冒頭陳述に入れなかった」と補足した。
中林被告の供述についてどう思うか報道陣から尋ねられた藤井被告は、語気を強めた。「真実をしっかり述べていただきたい。これに尽きる」
本日初公判、全国最年少市長・藤井浩人が激白!
「『自白しないと美濃加茂市を焼け野原にする』と言われました」
週プレNEWS 2014年09月17日
(前 略)
公判でも一貫して無罪を主張するという藤井市長に、ジャーナリストの江川紹子氏が直撃インタビューを行なった。
■コーヒー一杯にも気をつけていた
―捜査の動きはいつ頃から感じていましたか。
藤井 今考えると、兆候はゴールデンウイーク明け頃。少し前に防災と教育の担当課長が警察から呼ばれたと聞いて、僕も事情を聞かれることがあるのかな、と。(中 略)
―では、中林氏のことで疑われているとは知らなかった?
藤井 それは記者が教えてくれました。ただ、記者からいろいろ聞かれても、忘れていることも多くて……。(中林氏との)会食は4回あったらしいんですが、はっきり覚えていたのは2回。(10万円を渡されたとされる)ガストでの昼食は、完全に忘れていました。 (中 略)
―どういう経緯で中林氏と接触するようになったのですか。
藤井 東日本大震災の被災地に何度か足を運んで、災害時の水対策の必要性を実感しました。飲料水だけでなく、手を洗うなど衛生面での水も大事なんだな、と。その後、名古屋の市議の方たちと話をしたときに、プールの水を浄化して災害時に役立てる浄水事業の研究をしている人がいると聞いて、話を聞きたいと思いました。
それで中林氏を紹介され、会って資料をもらいました。災害はいつ起きるかわからないですし、学校現場にそういう装置を置くことで、子供たちに対して防災意識の啓発にもなると考えたんです。
―中林氏の印象は?
藤井 口数は多くなく、汗をかいて働く中小企業の社長さんという感じ。食事はいつも割り勘でした、僕はコーヒー一杯、ランチ一食もごちそうにならないよう気をつけていたし、向こうも「議員にもお立場があるでしょう」と、無理におごろうとはしなかった。
―そういうところで、彼を信用した?
藤井 信用したというより、事業の提案内容に惹(ひ)かれました。市内の中学校のプールに浄水プラントを設置し、実証実験をやるというもので、費用は業者持ち。市としては、お金がかからずに試すことができる。
実際、藻が張ったプールの水は底が見えるまできれいになり、プラントの能力は悪くなかった。こういう好条件に目が行きすぎて、中林氏が信用できる人物かどうかについては、ちょっと置き去りになった反省はあります。
―当時、藤井さんは市議会議員。市長になって、この浄水装置についてはどうしましたか?
藤井 担当課長に任せていました。本格的に導入するなら入札になりますし、そういうことはうちの市は厳しくやってきた歴史がありますので。
■自分が罪をかぶれば、という思いもよぎった
―ところが、浄水装置の導入に関わったのは30万円の賄賂をもらったため、という容疑がかかり、任意同行されました。
藤井 取調室に入るなり、「お金をもらった話、はっきり事実を言ってください」と言われました。僕が「そういうことはありません」と答えた瞬間、(刑事は)持っていたクリップボードをバーンと机に叩きつけて、ふたりがかりで耳元で怒鳴(どな)り始めた。
―なんと?
藤井 「早く自白しろ!」「いいかげんにしろ!」「市長のくせにウソをつくな!」……それが3時間くらい続きました。ドラマとかだと、取り調べは怖い人と優しい人が交互に怒鳴ったり、優しい言葉をかけたりする、というイメージがあったんですが、両方怖かったので、これはまずい……と(苦笑)。僕は右耳が弱くて、耳元で怒鳴られると「キーン」となっちゃうので、これはもうすごい圧力でした。
―その後、逮捕されたわけですが、どんな気持ちでしたか。
藤井 逮捕状を見せられ、賄賂とされる30万円は、10万と20万に分けて2回ももらったことにされているのを知りました。本当にムチャクチャだと思いました。 (中 略)
―中林氏が“自白”しているのも知らなかった?
藤井 はい。取り調べで「中林氏本人に聞いてもらえばわかる」と言ったんですよ。そうしたら、「中林は泣く泣く、藤井さんのことを話したんだ。その気持ちになんで応えないんだ」と言われ、「なんだ、それ!?」と驚いた。「ああ、そういうことになったのか……」と。そんなふうに、徐々に何が起きているのかを認識していきました。
―藤井さんのお父さんは岐阜県警の警察官でしたね。
藤井 ずっと現場の警察官で、くそまじめな人です。おやじからはずっと、「悪いことはするな」「人に迷惑をかけるな」と言われて育ちました。些細(ささい)なこと、例えば弟の髪の毛にガムをつけるようないたずらも、ボコボコに叱られました。 (中 略)
―その警察が、自分を攻撃し始めたことをどう感じましたか。
藤井 ショックでした。警察への信頼があったので、マスコミの人がいくら騒いでも、やってないことで捕まるとは思ってもいなかった。信頼しすぎていたのかもしれない。耳元で怒鳴られたのは初日だけですが、その後の取り調べでも、頭から賄賂をもらったという前提でしか話をしないので、まったく話が噛(か)み合わないんですよ。
僕が若いということで、「こんなハナタレ市長を選んだ市民の気が知れない」と言われました。それと、さんざん「市長をいつ辞めるのか」と聞かれましたね。「辞めません」と言っても、「どうなったら辞めるんですか?」「リーダーとして、有罪になる可能性も考えないといけないんじゃないか」と……。
―逮捕されて、身に覚えのない罪を認めてしまう人も少なくないですが。
藤井 僕も、最初の頃は市民の方々がどう思っているのか全然わからなくて不安でした。ひょっとしたら総スカンを食ってるかなとか、支援者が孤立していたらどうしようとか……。
それを見透かすように、(刑事は)「あれだけ報道されれば、美濃加茂市の人たちも藤井さんから離れていくよね」とチクチクついてくる。「藤井さんは選挙でいろんな人を巻き込んでいるんだから、全員を呼んで徹底的に聞きますよ。経営者の方々も多いですよね。そういう人たちへの影響も考えたほうがいい」と言われたときには、僕もひるみました。
「早く自白しないと、美濃加茂市を焼け野原にする」とも言われた。支援してくれた人たちが迷惑を被(こうむ)るのは申し訳ない、自分が罪をかぶったら(捜査は)終わるのかな、という思いがよぎりました。
でも、そういうときに弁護士を通じて、「地元は一丸となっているから大丈夫だ」という支援者からのメッセージが伝わってきました。1万5000人もの市民の署名もいただきました。これだけの署名を集めてくれた人の汗とか、信じてくれる人の気持ちや市に対する思いを、僕が弱い気持ちになって折るわけにはいかない。これからはどんなにプレッシャーをかけられても、強くあろう、事実を貫こうと決意しました。起訴後にも、早期釈放を求めて新たに集められた2万1150名の署名が支えになりました。
(後 略)
藤井浩人美濃加茂市長の第1回公判の報道についての要請
藤井浩人主任弁護人 郷原 信郎 2014年9月17日
藤井浩人美濃加茂市長の受託収賄等事件に関する報道については、9月8日に開かれた贈賄供述者中林正善の公判での検察官冒頭陳述の報道に関し、検察官の冒頭陳述が具体的かつ詳細に報じられることで、現金授受を全面的に否認している藤井市長が、あたかも有罪であるかのような印象を読者・視聴者に与えて藤井市長の名誉が棄損されることを懸念し、刑事事件に関する対等報道の観点に基づく格段の配慮を要請したところである。
9月17日午後4時から名古屋地方裁判所で行われる、藤井市長にかかる被告事件の第1回公判において、当職ら弁護人は、中林の贈賄供述の信用性に重大な問題があることなど、検察官の主張に対する具体的反論を詳細に行う予定であるが、同公判の報道に当たっても、以下の各事項を考慮し、公正かつ中立的な報道が行われることを強く要請するものである。
① 本件については、弁護人からの再三にわたる客観・中立報道の要請にもかかわらず、藤井市長逮捕直後から、捜査機関側の情報に基づくと思える「有罪視報道」が繰り返され、公人たる藤井市長の名誉が著しく棄損されてきた。今回の第1回公判における弁護側冒頭陳述等による弁護側主張は、これまでの「有罪視報道」に対しても、初めての具体的反論となるものであり、弁護側冒頭陳述の具体的内容を可能な限り詳細に報じることが、捜査側の情報に基づく「有罪視報道」によって読者・視聴者に生じた誤解を早期に是正し、名誉棄損によって生じ得る法的責任を最小化するための最も有効な手段であること。
② 当職は、上記中林公判の報道に関して、信用性に重大な問題がある中林供述に基づく検察官の冒頭陳述のうち、現金の授受の具体的状況について報道することは差し控えることを要請したが、報道各社は(中林供述の信用性に関する弁護側の主張を付記してはいるものの)、現金の授受の具体的状況を報じた。今回の藤井公判における、現金授受の具体的状況に関する検察官冒頭陳述が詳細に報道された場合、中林供述に基づく現金授受の具体的状況に関するほぼ同一内容の検察官の主張が二度にわたって報じられることで、それが読者・視聴者に印象づけられることになる。そのような検察官冒頭陳述の報道と、それに対する弁護側の初めての具体的反論としての藤井公判での弁護側冒頭陳述等の報道とが「実質的に対等」となるように配慮することが、「対等報道」の観点からの公正かつ中立的な報道として求められると思料されること。
以上