2014年9月17日水曜日

ウクライナ問題をアメリカの長期的戦略から説き起こす

 いまウクライナで起きている問題は、日本のメディアの報じるところだけを見聞きしても真相には近づけません。それはアメリカの言い分だけをそのまま報じているからです。
 そのことは日本に限らずいわゆる西側のマスコミ全体に言えることなのですが、櫻井ジャーナルは「マスコミの内情は第次世界大戦の前よりひどいかもしれない」と述べています。
 
 16日の櫻井ジャーナルが、現下のウクライナ問題を、1992年に生み出されたアメリカのウォルフォウィッツ・ドクトリンから説き起こして、簡潔に解説しています。それを読むと、アメリカが長期的で揺るがない世界戦略を持って、その達成に向かって着実に歩を進めていることが良く分かります。
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米国主導のクーデターへの反発が強く、キエフ軍は東部で敗北
 停戦で態勢立て直しの時間稼ぎか 
櫻井ジャーナル 2014年9月16日
 キエフの「ウクライナ最高会議」はドネツクとルガンスクの2州に対し、3年限りの特別な自治権を与えることを認めたとう。4年後には剥奪されるということだ。そんな「期限付き自治権」で2州の住民が納得するとは思えない
 キエフ政権の民族浄化作戦が行われる前でもこのような条件で問題は解決できなかっただろう。ましてキエフ軍が破壊と殺戮を繰り返し、約100万人の住民がロシアへ避難せざるをえなくなっている現在では論外の提案。キエフ政権、そして後ろ盾のアメリカ/NATOは本気で和平を実現しようとは考えていないのだろう。
 今回の停戦は劣勢に立たされたアメリカ/NATOが軍事的な態勢を立て直すための時間稼ぎにすぎないという見方がある。ペトロ・ポロシェンコ大統領の顧問を務めるユーリ・ルツェンコはフェイスブックで、ウクライナへアメリカ、フランス、イタリア、ポーランド、ノルウェーが最新兵器を供給すると書いている。
 それだけでなく、9月15日にウクライナの西部でアメリカを含む15カ国、約1300名の合同軍事演習を26日までの予定で始めた。アメリカは9月8日から10日にかけて黒海のウクライナ沖でも軍事演習を実施している。ロシアを牽制、あるいは挑発することが目的だと見られても仕方がない。
 
 クーデターの準備は遅くとも2004年に始まっている。この年、バルト3国にあるNATOの訓練施設でネオ・ナチのメンバーを軍事訓練しはじめ、ウクライナでの報道によると、昨年9月にはポーランド外務省がクーデター派(アメリカ/NATOの傀儡)の86人を大学の交換学生を装って招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたって暴動の仕方を訓練したという。
 訓練の内容には、追跡技術、群集操縦、ターゲットの特定、戦術、指揮、緊張した状況における行動制御、警察のガス弾に対する防御、バリケードの建設、そして銃撃のクラスにも参加して狙撃も含まれていたとされている。
 
 こうしたクーデターの背景にはネオコン(アメリカの親イスラエル派)の戦略が存在する。1991年にソ連が消滅、アメリカが「唯一の超大国」になったと考えて世界制覇を始めたのである。
 そのベースになる戦略は1992年に国防総省の内部で作成されたDPG(国防計画指針)の草案に書かれている。国防次官だったポール・ウォルフォウィッツが作成の中心にいたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。
 現在、アメリカはユーラシアの内陸国を包囲して締め上げるという戦略を推し進めているその締め上げる道具として使われているのがNATO。その戦略をまとめたのはズビグネフ・ブレジンスキーで、1990年代の後半のことだという。彼は1978年に「危機の弧」がインド洋に沿って伸びている」と語っているが、その発想を発展させたのだろう。この認識に基づき、ブレジンスキーはソ連をアフガニスタンへ誘い込む秘密工作を展開していた。
 ユーラシアの内陸国を包囲するという戦略をブレジンスキーがまとめたころ、アメリカ政府はユーゴスラビアを先制攻撃している。「人道」が口実に使われたが、嘘だったことが判明している。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)
 ウォルフォウィッツやブレジンスキーの戦略にとって好都合な出来事が2001年9月11日に起こり、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなどをアメリカは嘘を撒き散らしながら軍事侵略してきた。そうした行動を批判する人は「西側」にも少なくない。
 そうした人びとの中には、ウクライナで今年2月にネオ・ナチを使ったクーデターが実行された直後にロシア軍の介入を予想した人がいた。その時点でロシア軍が介入していれば東部や南部は簡単に制圧され、戦闘の舞台はキエフへ移動していたかもしれない。
 
 第2次世界大戦でドイツが降伏した直後、ウィンストン・チャーチル首相の指示で作成された「アンシンカブル作戦」では、数十万人の米英軍が再武装した約10万人のドイツ軍と連合してソ連を奇襲攻撃することになっていた。本ブログでは何度も書いていることだが、この作戦は参謀本部が拒否し、実行されていない。また、2003年にアメリカを中心とする「連合軍」がイラクを先制攻撃した際は17万6000人(ピーク時)だった。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻するなら、少なくともこの程度の兵力を投入すると考えるのが常識だろう。
 
 ウクライナの東/南部でキエフ政権の送り込んだ部隊が敗北した理由は、クーデターの実態と深く結びついている。つまり、アメリカ/NATOを後ろ盾とする勢力がネオ・ナチのメンバーを使って実権を握ったのだが、軍、情報機関、治安機関の中には、その新体制に反発する人が少なくない。そうした人びとがドネツクやルガンスクの住民側についてたのだ。さらに、ギリシャやロシアなどからも義勇兵(ロシア軍ではない)が入っている。
 クリミアがウクライナから離脱した際、日本を含む西側のメディアはロシア軍が軍事侵攻したと宣伝していたが、実際は駐留軍だということがすぐに判明する。つまり、1997年にウクライナとロシアが結んだ協定でロシアはクリミアにある基地を使用する権利を得ていたのだが、それにともない、2万5000名が駐留できることになっていた。その協定に基づいてロシア軍は1万6000名を駐留させていたのだが、これを「軍事侵略」だと宣伝したわけだ。
 東部2州の場合、軍事侵攻したという部隊は途中で消えてしまったり、中には「ステルス侵攻」という表現を使うメディアもあった。キエフ政権はロシア軍が侵攻していると主張しているが、証拠は示されていない。イラクを侵略する前にアメリカ政府が偽情報を流しているが、それよりもひどい。
 ところが、日本のマスコミは今でもアメリカ/NATOやその傀儡の「大本営発表」を垂れ流している。「ロシア軍侵入 裏切りやめ停戦を導け」、「ウクライナ停戦 ロシアの介入許されぬ」、「ウクライナ合意 停戦で露軍は撤退せよ」、「ウクライナ停戦 欧米は露の介入を排除せよ」といった見出しが並ぶ。NATOの直接的な軍事介入、ロシアとの核戦争という流れを期待しているようにも見える。
 
 集団的自衛権の行使が認められたならマスコミは何をするのか、こうした見出しをみても想像できる。マスコミの内情は第2次世界大戦の前よりひどいかもしれない。日米の支配層からなめられていることは間違いない。