2014年9月22日月曜日

アメリカとグローバル戦争 James Petras

 James Petras氏は、いまのアメリカの海外戦略は以前の欧州列強による帝国主義とは全く様変わりしているとして、以下のように述べています。
 
 かつての帝国主義は、暴力的に他国の政治権力を掌握し実務関係を強化することで、時間の経過とともに被占領地の富と資源母国へ流入することを拡大させ同時に植民地への帝国企業の進出も拡大させた
 しかし在のアメリカ軍介入は、相手国を占領してもそ後は全く逆の効果をもたらして、単に相手国を徹底的に破綻させるのみで、自国内には何の経済的利益ももたらさない。
 その結果帝国本体が疲弊を強めるという、いわば自らの体を貪り食うバンパイア吸血鬼国家に成り果てている。   (エンパイア:帝国・帝国主義国)
 
 近年のアメリカの対外軍事行動を理解する上で非常に参考になります。
 紹介文は抜粋文となっていますので、詳細は原文をご覧下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アメリカとグローバル戦争 エンパイアかバンパイアか?
マスコミに載らない海外記事 2014年9月18日
James Petras 2014年9月10日
序論
(前略)ある国の市場、資源や労働力を搾取し略奪する為に戦争をして、アメリカが帝国を建設しているという考え方は、過去二十年間の現実に反している(中略)逆に、アメリカの戦争は、事業を破壊し原料を入手しにくくし、世界中の生産的な労働者を殺害し、負傷させ、追い出し、経済制裁により、金になる投資の場や市場へのアクセスを制限している。(後略)
 
過去の帝国建設
ヨーロッパは、永続性のもうけの多い包括的な帝国を構築し、母国を富ませ現地の産業を刺激し、失業を減らし労働者階級の特権的な部分に対するより良い賃金という形で、富をトリクルダウン(滴り漏らす)”させた(中略)征服戦争の後に続くのは、それまでに存在していたエリートを、帝国政権の従属的な立場に取り込むことだった。帝国の営利企業と被占領国の既存エリートとの間での利益の分かち合いは、帝国建設の極めて重要な部分だった。(後略)
 
現代の“帝国建設”
現代のアメリカ軍介入と侵略の結果は、過去の帝国のそれと全く対照的だ。(中略)軍事行動に、大規模長期的な帝国の資本主義企業が伴わないのだ。大規模軍事基地を建設する帝国の他国籍建設会社は、帝国国庫消耗の原因だ。
現代アメリカの介入は、既存の軍事・文民上の国家機構を確保し接収することを狙っていない。そうではなく、侵略者は征服した国家を分解し、あらゆるレベルで基幹要員や専門家を殺し、最も逆行的な民族宗教的、地域、部族や氏族の指導者連中が、民族間、宗派間でお互いに争う戦争、言い換えれば混沌に参加させた。ナチスでさえ、拡張段階においては、現地のエリート協力者を通して支配することを選び、彼らが作り上げたあらゆるレベルの行政機構を維持したのだ。
アメリカによる侵略の場合、既存の社会・経済構造丸ごとが、奪取ではなく弱体化される(中略)それにもかかわらず軍事的政治的に介入し、新たな地域に拡大を続け、新たな属国を建設する力学は継続している。そして最も重要なのは、この拡張主義者の力学は、理論的歴史的に、帝国の基盤となってきた自国内の経済的利益を更に蝕んでしまうのだ。それゆえ、アメリカにあるものは、帝国のない帝国主義、弱いものを餌食にし、その過程で自らの体を貪り食うバンパイア(吸血鬼国家だ。
 
エンパイアか、バンパイアか: アメリカのグローバル戦争の結果
エンパイア(帝国)は、歴史上、暴力的に政治権力を掌握し、狙った地域の富と資源(物的、人的)を利用した。時間とともに、彼等は実務関係を強化し、母国への益々増大する富の流れを確実にし、植民地における帝国企業の存在感を拡大した。現代のアメリカ軍介入は、最近の全ての大規模軍事征服と占領後、全く逆の効果をもたらした
 
イラクバンパイア達による強奪
サダム・フセインの下、イラク共和国は主要産油国で、大手アメリカ石油会社にとって儲かる相手で、アメリカの輸出業者にとっては儲かる市場だった。イラクは、安定して、一つにまとまった非宗教国家だった。(中略)アメリカは軍隊は撤退させたが、過酷な経済制裁を課し第一次湾岸戦争の荒廃からの経済再建を制限した。2003年、アメリカが率いた第二次侵略と全面的占領は、経済を荒廃させ、何万人もの経験豊富な公務員、教師や警官を首にして、国家を分解した。これが完全な社会崩壊をもたらし、何百万人ものイラク人を殺害し、負傷させ人種・宗派間戦争を醸成した。G・W・ブッシュによるバグダッド征服の結果は破綻国家”をもたらし、アメリカの石油・エネルギー企業は、貿易と投資で何十億ドルも失い、アメリカ経済は不景気に追いやられた
 
アフガニスタン果てしない戦争、果てしない損失
アメリカの対アフガニスタン戦争は、1979年に、イスラム原理主義者の聖戦戦士達に武器を与え、資金援助し、政治的支援をすることから始まった彼等は非宗教的な国家政府を破壊し、分解することに成功した。2001年10月、アフガニスタンを侵略すると決心し、アメリカは、南西アジアにおける占領者となった。以後13年間で、ハミド・カルザイのアメリカ傀儡政権とNATO連合占領軍が、タリバン・ゲリラ軍を打ち負かすことが出来ないことが明らかになった。経済を破壊し、アフガニスタンの大部分を貧しくするのに何十億ドルもが費やされた。繁栄したのはアヘン密輸だけだ。傀儡政権に忠実な軍隊を作り出す取り組みは失敗した。2014年に始まったアメリカ軍の強制撤退は、南西アジアにおけるアメリカ帝国建設の苦い終焉を示唆している。
 
リビア儲かる貿易相手から破綻国家に
カダフィ大統領支配下のリビアは、主要なアメリカとヨーロッパの貿易相手、アフリカにおいて影響力のある国へと発展しつつあった。政権は、大手国際石油会社と、大規模な長期契約を締結していたが、それは安定した非宗教的政府によって支持されていた。アメリカやEUとの関係は、もうかるものだった。
しかしアメリカは、大規模な、アメリカEUミサイルと爆撃による攻撃や、イスラム原理主義テロリスト、国外在住のネオリベや、部族民兵の混成部隊を武装させ、体制転覆を押しつけることを選んだ。(中略)石油投資家は逃げ出した。百万人以上のリビア国民や、移民労働者は強制退去させられた。(中略)アメリカ・バンパイヤは、新たな獲物リビアの血は吸えたものの、もうかる帝国に組み込むことができなかったことは確かだ。帝国は、石油資源を手にし損ねただけでなく、石油輸出すらも消滅した。帝国軍事基地の一つとて、北アフリカには確保できていない!
 
シリア 帝国の為でなく、テロリストの為の戦争
アメリカ政府と、EU同盟諸国は、傀儡政権を据えつけ、ダマスカスを自分達の“帝国”に取り込むことを狙って、シリアでの蜂起を支援し、武器を与えた。傭兵の攻撃は、約200,000人のシリア国民の死を招き、国民の30%以上を退去させ、スンナ派過激派の軍、ISISによって、シリア油田を強奪した。
しかしISISは、世界中から何千人ものテロリストを採用し、武器を与えて、親米派傭兵軍を滅ぼした。隣国イラクを侵略し、北部の三分の一を征服した。これが、アメリカが、イラク国家を、2003年に意図的に分解させた究極の結果だ。
(中略)戦略は、アメリカ政府にブーメランのように戻った。ISISは、バグダッドのマリキ政権の無力なイラク軍と、イラククルディスタンの、アメリカが買いかぶっていた、ペシュメルガ代理戦士を打ちのめした。シリアにおけるアメリカ政府の傭兵戦争は帝国を拡大しなかった。実際、既存の帝国の前哨を弱体化したのだ。
 
ウクライナでの権力掌握、ロシア経済制裁と帝国建設
ソ連崩壊の直後、アメリカとEUは、バルト海沿岸、東ヨーロッパ、そしてバルカン半島の旧共産国を、自らの勢力圏に取り込んだ。これは、新自由主義政権の大半を、NATOに組み込み、NATO軍を、ロシア国境に派遣することで、ロシアとの基本的合意に、明らかに違反していた。(中略)2013年末から、2014年にかけて、アメリカは、選挙で選ばれた政府を打倒する暴力的右翼クーデターを財政支援し、精選した親NATO派の子分を押しつけて、キエフの権力を握らせた
(中略)キエフ政権は、経済的に破綻している。南東部の自国民に対する、この政権の戦争はウクライナ経済を破壊した。何十万人もの有能な専門職、労働者や、その家族がロシアに逃げた。キエフがEUを受けいれたことで、ロシアとの極めて重要なガスと石油協定が無効となり、ウクライナの主要エネルギー源と、わずか数ヶ月先の冬の暖房を失おうとしている(中略)要するに、アメリカEUのウクライナにおける権力掌握は、効果的な帝国の拡大には至らなかった。むしろ、それは新興経済国の完全崩壊を導き、ロシアとウクライナの金融、貿易や、投資関係の急激な逆転を促した。対ロシア経済制裁は、EUの現在の経済危機を悪化させている中略)EUは、農産品輸出市場としてのかなりの部分を失い、ロシアとの数十億ドルの軍産業契約も喪失し経済勢力としての帝国を強化するのではなく、確実に弱体化させている。
 
イラン1000億ドルの懲罰的経済制裁が、帝国を構築するわけではない
(前略)対イラン経済戦争は、湾岸君主国や特にイスラエルを含むアメリカ同盟諸国の強い要請によるものだった。こうした国々は、アメリカ帝国にとって疑わしい同盟国広く酷評されている有力者であり、貢ぎ物をよこせと、帝国の中心に強制できる人種差別主義政権だ。
(中略)経済制裁はイラン経済を弱体化させはしたが、イランがアメリカのライバル、ロシアと中国との経済的、外交的絆を強化したので、あらゆる種類の長期的帝国建設戦略に対して、逆効果をもたらしてもいる。
 
結論
この概略調査が示している通り、アメリカEU戦争は、従来のあるいは歴史的な意味での帝国建設に役立ってはいない。せいぜい連中は、帝国の敵の一部を破壊したにすぎない。しかしこれらは犠牲が多すぎて引き合わない勝利だ。標的政権の打倒と共に、国家の組織的な崩壊が、強力で無秩序な勢力を解き放ち、この勢力が、自らの社会を支配することができ、帝国主義者が経済搾取によって儲ける好機を確保できる様な、安定した新植民地政権を作り出すいかなる可能性も無くしてしまった。
 
海外でのアメリカの戦争(中略)帝国主義戦争は、絶え間ない地下抵抗運動、民族間内戦や帝国の中心にブローバック(逆流する恐れのある暴力的テロ組織を生み出した。
(中略)協調的な腐敗したエリートが率いていた東ヨーロッパ衛星諸国の無血奪取は終わった。(中略)今日の帝国主義戦争は、国内経済の経済崩壊と苦難、そして海外での永久戦争という持続不可能な流出を引き起こしている。
 
そしてロシア包囲し、ウクライナ国内主要核大国の中心を狙ったNATOミサイルを設置するという、現在のアメリカ/EUの軍事拡大と経済制裁は、世界核戦争をもたらす危険があるが、そうなれば実際軍国主義的帝国構築に終止符を打つことになる・・・そして人類にも終止符を打つことになる。
 
James Petras
     ニューヨーク、ビンガムトン大学元社会学教授50年間階級闘争に関与しており、ブラジルとアルゼンチンの土地を持たない人々や失業者に対する助言者Globalization Unmasked (Zed Books)の共著者である。