2020年2月25日火曜日

25- 黒川定年延長 検事正が信頼損なわれると/立憲デモクラシーの会が声明

 19日に法務省で開かれた「検察長官会同」には森法相や稲田伸夫検事総長ら、それに川検事長も出てましたが、主催者から説明があったあと意見があるかと聞かれた際に、静岡地検の神村昌通検事正が挙手して、黒川検事長の定年延長問題公然と批判しました。
 神村氏はが発することができる検察庁法で定められた「指揮権発動」についての条文を読み上げた上で、「今回のことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」「検察は不偏不党、公平でなければならない」「この人事について、検察庁、国民に丁寧な説明をすべき」と述べたということです。
 同期の落合洋司元検事は「神村氏は昔からすごく真面目で正義感が強い人」と評しています。
 僅かであれ、そうした正義感を表明できる検事がいたことは救いです。

 それとは別に、立憲デモクラシーの会が21日、安倍内閣が法解釈を変えて東京高検検事長の定年を延長した問題について声明を発表しました。
 声明は検察官の人事のルールは「国政上の最重要事項の一つ」であり、「従来の法解釈を自由に変更してかまわないということでは、政権の行動に枠をはめるべき法の支配の根底が揺るがされる」と批判しています。
 AERA dot. の記事と立憲デモクラシーの会の声明を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東京高検の黒川検事長の定年延長問題 
検事正の乱「国民からの信頼が損なわれる」
AERA dot.  2020/02/24 
「急な発言で何を言い出すのかと思ったら、黒川検事長の定年延長問題の公然と批判する意見を検事正が言い出した。本当にびっくりした」(法務省関係者)
 東京高検の黒川弘務検事長(63)の定年延長問題をめぐり、19日に法務省で開かれた全国の法務・検察幹部が集まる「検察長官会同」で、冒頭のような爆弾発言が飛び出した。森雅子法相や稲田伸夫検事総長らも、出席したこの会議。その席上には当事者である黒川検事長もいた。
 森法務相、稲田検事総長の訓示や挨拶などがあり、その後、日産自動車元会長、カルロスゴーン被告の逃亡を巡って、保釈制度など検察運営の論議に移った。
「ゴーン被告の逃亡を受けて、法律改正が見込まれる中でその説明などがありました。そこで、意見はないかとの声がかかり、挙手して発言したのが、静岡地検の神村昌通検事正でした」(前出・法務省関係者)
 紙を手にした、神村氏は黒川氏の定年延長を念頭に法務大臣が発することができる検察庁法で定められた「指揮権発動」についての条文を読み上げたという。
「今回の(定年延長)ことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」
「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」
「検察は不偏不党、公平でなければならない。これまでもそうであったはず」
「この人事について、検察庁、国民に丁寧な説明をすべき」

 こうした趣旨の意見を述べたという。それに対して法務省の辻裕教事務次官は、「定年延長は必要であった」と述べるにとどまったという。
 黒川氏はその場では表情を変えずに聞いていたという。その隣には黒川氏の定年延長がなければ、次期検事総長とみられていた、名古屋高検の林真琴検事長が座っていた。
「会場は凍り付いたのようになった。黒川氏は内心は腹立たしかったんじゃないのかな。神村氏は、林氏に近いという声も内部ではありますからね」(前出・法務省関係者)

 それに対して神村氏と司法修習が同期の元東京地検検事、落合洋司弁護士はこう話す。
神村氏は昔からすごく真面目で正義感が強い。黒川氏の定年延長は、めちゃくちゃですよ。検察内部でも定年延長を批判する意見を言う人は多々います。今回の検察長官会同で、黒川氏批判の意見を述べたことは、神村氏らしい。黙ってられなかったのだと思いました。神村氏の言ったように、検察の信頼が失われているのは事実ですよ。そういう意見に検察は耳を傾けてほしいと思いますね。それと同時に、意見した神村氏が左遷されたりしないようにと願うばかりです」

 安倍官邸が関与した黒川検事長の定年延長が検察の統率を崩し始めているようだ。(本誌取材班)      ※週刊朝日オンライン限定記事


検察官の定年延長問題に関する声明
2020年2月21日
立憲デモクラシーの会
東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題が論議の的となっている。
検察庁法は22条で「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と定める。黒川氏は「その他の検察官」にあたり、今年2月7日に退官する予定であった。ところが安倍内閣は1月末の閣議で、国家公務員法の規定を根拠に黒川氏の定年延長を決定した。
 ここには大きく分けて二つの問題がある。国家公務員法の規定とは同法81条の3第1項で、任命権者は、職員が定年に達する場合であっても、その職員の「職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは」、定年退職予定日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で、その職員の定年を延長することができるとしている。
 国家公務員法は、国家公務員の身分や職務に関する一般法である。検察官も国家公務員ではあるが、検察庁法が特別に検察官の定年を定めている。いわゆる一般法と特別法の関係にあり、両者の間に齟齬・抵触があるときは、特別法が優越するという考え方が法律学の世界では受け入れられている。国家公務員法81条の3が制定された当時の政府見解でも、検察官にはこの規定は適用されないという考え方が示されていた。
 それにもかかわらず、閣議決定で制定当時の政府見解を変更し、国家公務員法の規定を適用して黒川氏の定年を延長してよいのかというのが第一の問題である。権力の中枢にある者の犯罪をも捜査の対象とする検察官の人事のルールは、国政上の最重要事項の一つであり、全国民を代表する国会の審議・決定を経ずして、単なる閣議決定で決められるべき事柄ではない
 ときの政権の都合で、こうした重大事項についても、従来の法解釈を自由に変更してかまわないということでは、政権の行動に枠をはめるべき法の支配が根底から揺るがされる。政府の権限は、主権者たる国民からの預かりものである。預かり物として大事に扱い、メンテナンスを施し、次の政権へ、将来の国民へと手渡していかなければならない。その時々の都合で長年の法解釈を変更して恬として恥じるところがないというのでは、国民の法の支配への信頼は崩壊してしまう
 第二の問題は、百歩譲って検察官にも国家公務員法を適用して定年を延長できるとしても、それが可能な場合は現行法上、きわめて限定されているということである。前述したように、国家公務員法上、定年延長には「十分な理由」が必要である。そうした理由が認められる場合を人事院は、その規則で限定列挙している(人事院規則11-8第7条)。
第一が、職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするため、後任を容易に得ることができないときで、つまり本人が名人芸的な技能の持ち主であるときである。第二が、勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充できず、業務の遂行に重大な支障が生ずる場合で、持ち場が離島にある場合などがこれにあたる。第三が、業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときで、特定の研究プロジェクトがじき完了する場合や、切迫する重大案件を処理するため、幹部クラスの職員に一定の区切りがつくまで、当該案件を担当させる場合である[1]。これら三つの場合のいずれかにあたらない限り、国家公務員法に基づく定年の延長は認められない。
 かりに検察官に国家公務員法81条の3が適用されるのだとしても、今回の例がこのいずれにもあたらないことは明らかであろう。問題の検事長は名人芸の持ち主だとも知られておらず、離島に務めてもおらず、特別なプロジェクトを遂行しているとの情報もない。任命権者の裁量的判断で人事院規則に反する定年延長が許されるとなれば、内閣から独立した立場から国家公務員の政治的中立性と計画的人事を支える人事院の機能は骨抜きとなりかねない。つまり、問題となる国家公務員法の規定が適用されるとしても、今回の閣議決定は、人事院規則および国家公務員法に違反している疑いが濃い
 閣議決定がどのような思惑でなされたのかは、この際、問わないこととしよう。万一不当な動機が背後に隠されていたとしても、権力を握る者はそれにもっともらしい理由をつけて、国民を納得させようとするものである。しかし、今回の閣議決定に関しては、そのもっともらしい理由さえ存在しない。法の支配をないがしろにする現政権の態度があらわになったと言わざるを得ない。

     [1] 森園幸男・吉田耕三・尾西雅博編『逐条国家公務員法〔全訂版〕』(学陽書房、2015)698-700頁参照。