中国の専門家チームの調査で新型肺炎の潜伏期間が最長24日であることが分かりました。そうなると世界保健機関(WHO)に合わせて潜伏期間を「12・5日」としてきた日本の対応は根本的に変わることになります。
日刊ゲンダイが「新型肺炎で日本政府大誤算 潜伏期間最長24日と毒王の恐怖」とする記事を出しました(毒王 =「スーパースプレッダー」)。
同紙は、感染経路が飛沫感染と接触感染に加え新たに空気を浮遊する「エアロゾル感染」の可能性が出て集団感染が加速している恐れがあるため、政府は慌ててクルーズ船の乗客乗員約3700人全員のウイルス検査実施を検討し始めるというドタバタを演じているとする一方、イタリアでは新型肺炎の感染者が出た地中海クルーズ船の乗客を一時足止めしたものの12時間で解放している例があるとして「隔離より帰宅させて頻繁に検査をする」方法にすべきという医療ガバナンスの専門家の意見を紹介しています。
ブログ「世に倦む日々」は、「クルーズ船の感染者のうち重傷者が4人になり、検疫官1名の感染も確認されたことで『新型コロナウィルスは感染しても通常の風邪などの重度でない症状にとどまる』としていた厚労省の8日の所見が破綻した。特に検疫官の感染は世界とWHOに衝撃を与えているだろうとし、日本政府がこのウィルスの感染力を侮り、リスクを軽視していたため、かかる重大な過失が起きた。そして遂に外務省が中国全土の在留邦人に一時帰国を呼びかける事態になった」と述べました。
クルーズ船内の感染の全体像が何時になれば把握できるのかサッパリ分からないという状況から明らかなように、日本の新型肺炎への対応(の体制)は決して安心できるものではありません。現に対応の中核を担う国立感染症研究所は、安倍政権によって増員ではなく要員縮小の方向で推移しています。
「世に倦む日々」氏は、良心的な専門家たちを取り込んで、政府に対して建設的な対策を提起する有識者の合議体を作ることを野党に提案しています。
被害を過小評価し、検査を絞り、不作為に徹し、見かけの「感染者数」を少なくすることに必死になっている安倍官邸に対して、国内の感染症専門家の良識派を集め、分析で政府をリードし、対案でリードし、政府と国民を引っ張って行く本格的な「専門家組織」を作ることが必要だとしています。それこそは野党の政策能力の高さを国民に示すものです。
日刊ゲンダイと「世に倦む日々」の記事を紹介します。
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新型肺炎で日本政府大誤算 潜伏期間最長24日と毒王の恐怖
日刊ゲンダイ2020/02/12
大誤算だ。中国の専門家チームの調査で、新型コロナウイルスによる肺炎患者の潜伏期間が「最長24日間」だったことが分かった。世界保健機関(WHO)に合わせて「12・5日」としてきた日本の対応が根本的に狂ってくる。
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調査結果は、中国政府専門家チームのトップ、鍾南山氏らによるもの。湖北省武漢市で発生した新型コロナによる肺炎患者1099人の中に、潜伏期間が最長で24日間に及んだ事例があったという。1人が多数に感染させる「スーパースプレッダー」、中国で「毒王」と呼ばれる存在についても、「排除できない」と分析している。
武漢市からのチャーター便で帰国した763人のうち感染が判明したのは、11日に新たに確認された2人を含む12人。陰性の人たちは現在、千葉県勝浦市のホテルや埼玉県の税務大学校などの施設で“隔離生活”を余儀なくされているが、第1便の人たちは11日に、WHOに基づく健康観察機関の「12・5日」を迎え、検査で陰性が確定すれば順次、帰宅が許されることになっている。
ところが、潜伏期間が24日となると、話は違ってくる。新たな2人の患者は帰国直後は陰性だったのに、3度目の検査や再検査で陽性が判明した。この先、帰宅後に陽性となったり、症状が出る感染者が現れる可能性がないとは言えない。
横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の乗客は船上待機期間が14日間だが、こちらもそれでいいのかどうか。それでなくても、同クルーズ船からは感染者が増え続け、12日朝までに174人に上っている。検疫官1人も感染した。閉鎖空間で集団感染が加速している恐れもあり、政府は慌てて、約3600人の乗員乗客全員のウイルス検査実施を検討し始めるというドタバタだ。
「隔離より帰宅させて頻繁に検査を」
ウイルスは「新型」だけに、分からないことばかり。飛沫感染と接触感染とされてきた感染経路も、新たに空気中にウイルスが微粒子となって浮遊する「エアロゾル感染」の可能性も出てきた。現状、「ない」とされているウイルス変異だって、不安が残る。まだまだ今後、何があってもおかしくない。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう言う。
「潜伏期間がある以上、どうしても陽性の感染者を見逃してしまう。2009年の新型インフルエンザでは1人の感染者を見つけるまでに14人の見落としがありました。今回イタリアでは、新型コロナの感染者が出た地中海のクルーズ船の乗客を一時足止めしたものの12時間で解放しています。クルーズ客は高齢者が多く、船内に留め置く方が、ウイルスの蔓延を招く恐れが高いからです。現に、ダイヤモンド・プリンセス号は集団感染状態になっています。日本もクルーズ文化に慣れているイタリアの方式に倣うべきでした。要は、陰性の人は帰宅させ、自宅から出ないようにしてもらい、頻繁に検査をしてもらえばいいのです。通常の旅行客と同一の扱いにすべきで、人権を抑制すべきではありません」
自覚症状のない「スーパースプレッダー」がいたら、現状の「隔離政策」だけでは対処しきれない。発想の転換が必要か。
野党は感染症対策の追及と提案を - 田村智子を陣頭に国論をリードせよ
世に倦む日々 2020-02-12
クルーズ船の感染者のうち、人工呼吸器を使用したり集中治療室に入ったりしている人が4人いるという報道が出た。これによって、「(新型コロナウィルスは)感染しても通常の風邪などの重度でない症状にとどまります」と記していた厚労省の2/8の所見が破綻した。また、クルーズ船での作業に当たった検疫官1名の感染も確認された。中国以外の国で検疫官が感染した例は初で、世界とWHOに衝撃を与えているだろう。日本政府がこのウィルスの感染力を侮り、リスクを軽視していたため、かかる重大な過失が起きたと言わざるを得ない。そして遂に、外務省が中国全土の在留邦人に一時帰国を呼びかける進行となった。おそらく、今週中に日本で初の死者が出るだろう。クルーズ船の問題は容易ならざる事態に陥り、国際問題となって刻々の動きに世界から注目が集まるはずだ。これから2週間ほどは日本中がこの感染症の問題で一色となる。
野党に提案したいが、国会予算委での質疑は新型コロナウィルスの問題に集中したらどうだろう。テレビの報道番組を見ていると、国会で野党が北村誠吾を追及している絵が出ていて、内閣府が公文書を白塗りで国会に提出した問題が紛糾しているらしい。重要な問題に違いないが、新型コロナウィルスのニュースを見た後に流されると、何とも場違いな感じがして、野党は何をやっているのだろうという気分にさせられる。政府与党を攻めて国民世論を動かす成果を導いておらず、逆効果になっている。野党にとってマイナスだろう。この件は「桜を見る会」の追及から派生した問題で、野党側は国会開会前に戦略を立てて、国民の非難をこの急所に集めようと考えていたに違いないが、状況が変わり、現在の焦眉の課題から乖離していて、国民の眼からは無駄な騒動に映る。むしろ北村誠吾を巧妙に囮に使い、「大臣クビ獲り」に夢中になる野党の姿を戯画化して演出する政権側の手練手管が透けて見える。
共産党の田村智子が、昨年4月9日に参院内閣委員会で質問に立ち、国家公務員の定数削減による国立感染症研究所の機能の「弱体化」について追及していた。安倍政権の方針によって国立感染症研の予算と人員が一律に削減され、10年前より3分の1(20億円)も予算が削られ、職員の数も減らされている問題の告発である。国民の現在の関心からは驚愕すべき事実であり、安倍政権に批判が向かわざるを得ない問題だろう。ネットの一部では話題になったが、マスコミは取り上げておらず、大きな論点になっていない。あまりに予言的で意味の重い質問と言える。発言部分を抜粋しよう。「(田村智子)国家公務員の定員削減について、過労死水準の時間外労働が常態化し、非正規の職員が増大していることなど、私も繰り返し指摘をしてまいりました。しかし、定員削減は止まらず、二〇一五年度からの五年間、毎年二%、計一〇%の定員削減目標が各省に課せられています。(略)具体的な問題を指摘いたします」。
「国立感染症研究所は、感染症や病原体に対する国の対策、対応の中核を担う機関です。感染症の基礎研究及び応用研究、ワクチンの開発から検査、国家検定、国内外における感染症流行状況の調査、監視など、我が国の感染症研究や危機管理を行っています。実際に感染症が発生すれば、地方衛生研究所と一緒に実動部隊としても行動いたします。致死性の感染症のパンデミックが起きた場合は、職員や研究者は国家公務員として危機対応に当たるわけです。これはアメリカでいいますと、CDC、疾病予防管理センター、NIH、国立衛生研究所、FDA、食品医薬品局の三つの機関の役割を我が国では国立感染研が一手に担っているということになります。このように、国の安全保障の一翼を担う機関ですから、独法化の対象にはならずに国の直轄機関として維持されています。(略)私、実は二〇一三年、厚生労働委員会で感染研の体制について質問いたしました。(略)当時の研究者は三百十二人です。ところが今年度の定員は三百六人です。これはどういうことなんでしょうか」。
これはまさに、今、国会でやってもらいたい質問であり、加藤勝信と安倍晋三から答弁を聴きたい問題だ。中継されれば国民はテレビに釘付けになるだろう。嘗て、吉井英勝が、地震や津波による福島第一原発の炉心溶融と水素爆発の危険性を指摘した予言的な質問をしていて、歴史に残る金字塔の国会質問として高く評価されている。吉井英勝の質問は2006年2月のことで、福島第一原発の事故の4年前のことだった。この当時は、世間は誰も原発事故の危険性など考えておらず、地震と津波でメルトダウンが起きるなど思っていなかった。寺島実郎が原発立国計画を堂々を垂れていた頃だ。そして、共産党議員の数は今より少なく、質疑の持ち時間も少なかった。知識人吉井英勝の先見の明に脱帽させられる。国会議員の質問というのは、そのときマスコミで目立って世間で評価される時事の爆弾投下も大事だが、こうして、数年後数十年後に予言的意味を持って歴史に残る警鐘こそ、本当に価値ある質問なのだろう。
今回の田村智子の質問もそれに匹敵する。価値が光る。この質問で発した懸念がいま的中し、感染症禍への国民的な不安と動揺が現実のものになっている。この田村智子の質問を基軸にして、田村智子を再び先頭に立てて、野党は政府批判の論陣を組み立て直し、国会審議で主導権を握り直す策を講じるべきである。そして、この新型コロナウィルス対策についてこうするべきだという提案を示すべきだ。国民はそれを聴きたい。野党が活躍する舞台はある。まず、現在の最大の課題であり焦点であるPCR検査の能力と体制の問題について、マスコミからは要領を得た情報を得ることができない。専門家と称する御用学者は1日1400件しか検体検査ができないとテレビで言い、それに対して科学に無知な番組司会者は生放送で突っ込むことをしない。元厚労相の田村憲久は1日1万4000件のPCR検査の体制があると言っている。どちらが本当なのか。前者が事実なら、中国と比べてかくも貧弱なのは何故なのか。
このPCR検査の問題については、野党議員が国会で質問して、政府から責任ある正確な回答を受け取るしかない。安倍晋三と政府に忖度するマスコミは、何もまともな調査報道をしない。中国は1日3000人以上の感染者増加を確認してWHOに報告している。中国でどのような検査体制が敷かれているか、どんな検査キットが使われているかも重要点であり、国民が知りたいポイントだ。中国科学院とコンタクトのある野党が、実像を調べて報告することができるのではないか。クルーズ船の乗員乗客をどうすべきかについて、野党から何か提言があったという話を聞かない。自分が政権を担当していて、この問題に直面したらどうするのか。安倍政権と同じなのか、違うのか。黙って見ているだけなのか。クルーズ船の対処については、全員を検査すべきという意見と、全員検査の必要はないという意見に分かれている。良心的な学者や医師は全員検査を主張し、御用学者が「手間がかかる」と政府を擁護している。野党はどちらなのか。無責任に様子見するのではなく、立場と方策を明確にコミットしたらどうか。
野党に提案したいが、良心的な専門家たちを取り込んで、政府に対して建設的な対策を提起する有識者の合議体を作ることだ。専門家たちもそうした場を必要と感じているだろうし、実際に最前線で実務を担う厚労省の平職員たちや患者に接する保健医療関係者たちが、そうしたチームの存在を必要と感じているだろう。安倍官邸は何もしない。頼りにならない。ひたすら感染症の威力と被害を過小評価し、検査を絞り、不作為に徹し、見かけの「感染者数」を少なくすることに必死になっているだけだ。気に掛けているのは景気だけであり、企業の儲けだけである。矛盾は現場にしわ寄せされ押しつけられる。このままだと、クルーズ船で感染した検疫職員のように、市中の病院で診察に当たった医師や看護師が感染することになるだろう。国内の感染症専門家の良識派を集め、分析で政府をリードし、対案でリードし、政府と国民を引っ張って行く本格的なタスクフォース(=専門家組織)を作ればいい。緊急臨時の法制度と予算案を纏め、医師会とWHOのエンドース(=保証)を受ければいい。それができれば、国民は野党の政権担当能力を認めるだろう。支持率も上がるだろう。
野党の国会審議の戦略旋回 = 編成替えを促したい。