2020年2月24日月曜日

権力と一体化してきた司法 今さら黒川人事批判に違和感

 安倍政権が検察トップの人事に手を突っ込むという禁じ手に踏み込んだ背景に安倍首相の異常性があることはいまさら言を俟ちませんが、そんな政権に絶えず40%台の支持を示した国民や、これまで検察が政権に従属する在り方を批判をしないできたメディアにも大きな責任があります。

 日刊ゲンダイが「権力と一体化してきた司法 今さら黒川人事批判に違和感」とする記事を掲げました。実に本質を言い得ています。
 黒川人事の件でも安倍政権は、表面を取り繕うために官僚に理不尽な所業を強制しています。それを見るともはや政権の言うことに従うしかない官僚の姿は哀れというしかありませんが、この黒川人事の不当性についてはこれまでさんざん紹介して来ましたので今回は省略します。
 記事は中見出しで「戦後日本に一貫して存在しなかった三権分立」と謳っています。
 誰もが義務教育で習った「三権分立」が架空のものであるという主張ですが、それは安倍政権の横暴や各種の政治案件での裁判所の判決を見ると誰しもが納得できることです。
 日刊ゲンダイは、かつての小沢一郎バッシング事件(自民党⇒民主党政権交代間際に真の体制側と共に検察が小沢一郎議員を狙い撃ちした、政治と司法が表裏一体となった「国策捜査」に、メディアも一斉に同調した現象)や、今回の籠池泰典森友学園理事長への一審判決を、検察が体制側に従属している例として挙げています。
 そしてメディアが、ゴーン事件で一躍国際的に注目されるようになった『人質司法』を無批判に放置し司法一貫して政に従属してきたのにそれを追及してこなかったことを批判しています。
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権力と一体化してきた司法 今さら黒川人事批判に違和感
 日刊ゲンダイ  2020/02/22
 また、安倍首相の答弁のつじつま合わせで、現実が歪んできた。今度の火種は東京高検検事長の定年延長問題。追い込まれた末の安倍答弁で、官僚たちが「無理筋のストーリー」に付き合わされるハメに陥っている。
     (中 略)

無理筋は官邸の守護神をとどめるため
     (中 略)
 官僚たちを無理筋に引きずり込んでまで、安倍政権が黒川氏の定年延長を望むのは、自分たちに都合のいい検察体制を保持したいからに決まっている。黒川氏は甘利明元経済再生相のあっせん利得や、小渕優子元経産相の公選法違反などの立件をもみ消したとウワサされる“官邸の守護神”。カジノ疑惑や河井夫妻の公選法違反、さらに安倍自身が桜を見る会の問題で刑事告発される中、いま守護神に居なくなられたら、困る。あわよくば、この夏の人事で稲田伸夫検事総長の後任に据えようと、もくろんでいるのは間違いない

戦後日本に一貫して存在しなかった三権分立
 政権に都合のいい恣意的な人事と法解釈がまかり通れば、法治国家とその社会は成立しない。
「さも行政府である内閣が法解釈を変更できるような雰囲気がはびこっていますが、法の規定は立法府の国会に無断で簡単には覆せません。まず法を改めるべきで、今回の閣議決定は憲法41条の『国会は国の唯一の立法機関』に反する違憲行為。こんなむちゃくちゃな人事が許されたら、戦後民主主義はおしまいです」(政治評論家・森田実氏)
 守護神の定年延長は糾弾されるべきで、珍しく大マスコミもまっとうに批判している。だが、日頃の素行が悪いため、素直には認められない。この国の検察は常にきちんと独立した正義の味方だったのか。いつも政治と司法は一体で、その先棒担ぎを担ってきたのが、大マスコミではないか。
 田中角栄元首相の側近だった石井一・元自治相は21日付の本紙「注目の人直撃インタビュー」で〈ロッキード事件の“主犯”は中曽根元首相〉と指摘。日中正常化に先んじた角栄を毛嫌いしたキッシンジャー米国務長官、金権批判で総理となった三木武夫氏、三木内閣で幹事長だった中曽根氏ら〈さまざまな思惑が重なって引き起こされた冤罪事件〉と言い切っていた。
 そして〈事件の底流には政治的意図があり、その意図に沿って検察が動く。検察が作り上げたストーリーをマスコミが喧伝し、大悪党に仕立て上げられてしまう〉と喝破した。彼自身、09年の「郵便不正事件」で冤罪に陥りかけた経験があるだけに、説得力がある。
 政権交代間際に小沢一郎議員を狙い撃ちにするなど、政治と司法が表裏一体となった「国策捜査」の伝統は現在も生きている。1審判決が下った森友学園の籠池夫妻による補助金詐欺事件が、いい例だ。政権に逆らった籠池泰典前理事長には見せしめのごとく懲役5年の実刑を言い渡す。一方、森友事件の「本丸」である国有地の不当な値下げ、その経緯を記した公文書改ざんに関与した財務省の佐川宣寿理財局長(当時)らは、刑事責任を一切問われない。

目先の批判だけだから政権にナメられる
 黒川氏の定年延長に対し、全国の検察トップが一堂に会する「検察長官会同」で「検察は不偏不党でやってきた。このままでは検察への信頼が疑われる」との意見が出たそうだ。本当に検察は「不偏不党」を貫いてきたのか。胸に手を当てて考えた方がいい。
 腐敗のあまり、逃亡犯の日産前会長のカルロス・ゴーン被告にまで「ルノー傘下入りを排除した国策捜査」と言い張られても、一定の理があると感じられるのだ。法大名誉教授の須藤春夫氏(メディア論)が言う。
「国策捜査のたび、メディアはネタ欲しさの習性により検察のリークに飛びつき、権力に都合のいい筋書きを仕立て上げてきました。ゴーン被告の逃亡によって国際的に批判の的となった『人質司法』を放置してきたのも、メディアです。今回はやり方が露骨で極めて無理筋だから追及しやすいだけで、メディアに政治と司法の一体化を捉え直す発想は感じられません。常に目先のことを批判するだけだから、また、視点をズラせば支持率は上がると政権側にナメられてしまうのです」
 そんな大マスコミが黒川氏の定年延長にだけ正論をかざすなんて噴飯モノ。片腹痛いとしか言いようがない。前出の森田実氏はこう言った。
戦後日本の三権分立は幻想で、司法は一貫して政治に従属してきました。その根本問題をなぜ、メディアは追及してこなかったのか。メディアがそれを容認してきたからこそ、安倍政権も違憲行為を平然とやってのけるのです。今回の人事は極めて重要な問題で、それこそメディアは政権打倒の論陣を張らなければ嘘ですよ」
 大マスコミには、7年に及ぶ政権のデタラメを許してきた責任にケジメをつけて欲しい。