2020年6月24日水曜日

24- 回顧録 暴露はボルトンにだけ許されるのか?/ 猛反発の文在寅政権

 櫻井ジャーナルは、ボルトンが書いた新著は信憑性がないものの、権力犯罪を告発する道が広がった点で、司法が出版容認したことには意味があると評価しました。そしてボルトンだけが許されるというのなら、それは司法システムを揺るがす問題になると述べています。一方にアサンジ氏の様に、真実を暴露したことで司法・警察から追われ、事実上命の危険に晒されているという現実があるからです。

 体制派の秘密は守らなけれがならないが、トランプのように体制派でないものならどうでも良いという理屈は通りません。
 とはいえそんな書生論で片付けるには余りにも米国体制派(支配階級)の闇は深すぎます。
 櫻井ジャーナルが縷々述べています。

 JBpressの記事「核心突かれ狼狽? ボルトン回顧録に猛反発の文在寅政権」を併せて紹介します。 
 これを読むと、ボルトンの記事が少なくとも「真偽ない交ぜ」のものであることが推測されます。
(おそらくトランプが北朝鮮を自分のために徹底的に「利用」しようとしたことや、日本の米軍駐留経費を4倍に上げるに当たり「米軍を総引き揚げする」と脅せと述べたのは真実でしょう。もしも総引き揚げしてくれれば日本はようやく本来の姿に戻るわけでメデタシ・メデタシですが、米軍は逆に戦略上も、経費の節約上も困ることでしょう)
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侵略戦争を正当化する妄想を含むボルトンの回顧録が出版される意味   
櫻井ジャーナル 2020.06.23 
 ジョン・ボルトンの回顧録が6月23日に売り出される。ドナルド・トランプ大統領は国家安全保障にとって問題だとして出版を止めようとしたが、裁判所はその主張を認めなかったようだ。
 嘘を平然とつける性格なのか、あるいは妄想と現実の区別がつかないのかは不明だが、ボルトンは事実に反することを主張してきた。出版が予定されている本の中でもイエローケーキ(ウラン精鉱)をイスラエルの情報機関員が2018年にイランで発見したと主張しているようだ。
 要するに、ボルトンが書いた新著は信憑性がないのだが、それでも出版が容認された意味はある。権力犯罪を告発する道が広がるからだ。ボルトンだけが許されるなら、それは司法システムを揺るがす問題になる

 内部告発としてはダニエル・エルズバーグが1971年にベトナム戦争に関する国防総省の秘密報告書を有力メディアへ流した出来事は有名だ。住民皆殺し作戦(フェニックス・プログラム)については伏せられていたという問題はあるが、それでも彼は犯罪者として処罰されそうになった
 1970年代の半ばにはアメリカの議会で情報機関の違法行為が調査されている。上院では1975年1月、情報活動に関する政府の工作を調べる特別委員会が設置され、同年2月には下院で情報特別委員会が設置された。上院の委員会はフランク・チャーチ議員が、下院の委員会はルシエン・ネジ議員がそれぞれ委員長に就任する。ただ下院の委員会はすぐにオーティス・パイク議員へ委員長が交代になった。
 こうした委員会の調査によって法律を無視した国民監視作戦、要人暗殺計画、フェニックス・プログラム、マインド・コントロールを目的としたMKウルトラ、あるいはメディアをコントロールする目的のモッキンバード、破壊工作を目的とした極秘機関OPCが存在した事実などが明らかにされた。

 1975年8月17日にNBCのミート・ザ・プレスという番組に出演したチャーチ議員は情報機関が国民を監視することに関し、そうしたことが行われると人々の隠れる場所は存在しなくなると警告していた。
 それに対し、アメリカの支配階級は内部告発を封印するための規制を強化し、メディアの統制を強めていった。この頃から規制緩和で有力メディアの所有者が集中、気骨あるジャーナリストは有力メディアから排除されていく。日本でも同じこと行われた。そしてジャーナリストのむのたけじが1991年に講演会で発言したように、「ジャーナリズムはとうにくたばった」(むのたけじ著『希望は絶望のど真ん中に』岩波新書、2011年)という状態になったのだ。
 それでもアメリカでは内部告発はあった。例えば電子情報機関NSAの不正行為を明らかにしたエドワード・スノーデン、イランへ核兵器に関する資料を渡して開発させ、イラン侵略の口実を作るというCIAの危険な作戦を組織内部で警告したジェフリー・スターリング、そしてCIAなどによる拷問を告発したジャニス・カルピンスキーやジョン・キリアク、そして内部告発を支援する活動を続けてきたウィキリークスを創設したひとりのジュリアン・アッサンジ、ウィキリークスへ情報を提供したブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)特技兵などだが、いずれも支配階級から厳しい報復があった

 勿論、ボルトンとこうした内部告発者は違う。イエローケーキはイラクを先制攻撃する際にも使われた嘘だ。ジョージ・W・ブッシュ政権には侵略戦争を正当化するための偽情報を流すネオコンの機関も国防総省内に設置されていた。OSPだ。その責任者になったエイブラム・シュルスキーはポール・ウォルフォウィッツと同じようにシカゴ大学で政治科学の博士号をレオ・ストラウス教授の下で取得した人物で、ボルトンと同じ親イスラエル派だ。
 こうしたネオコンの嘘はイギリスでも内部告発で暴かれている。アメリカ政府は侵略戦争を正当化するため、国連で秘密工作を実行したが、その工作に関する電子メールをGCHQ(イギリスの電子情報機関でアメリカのNSAと緊密な関係にある)の翻訳官だったキャサリン・ガンが告発した。その出来事に基づく映画「オフィシャル・シークレッツ」が昨年、公開されている。(日本では今年5月に公開が予定されていたが、新型コロナウイルス対策ということで、延期された。)

 アメリカ政府の要請を受け、イギリスのトニー・ブレア政権は侵略を正当化するために捏造文書を作成したが、その事実は2003年5月に明かされる。BBCの記者だったアンドリュー・ギリガンがラジオ番組でその問題を取り上げ、サンデー・オン・メール紙でアラステアー・キャンベル首席補佐官が偽情報を流したことを明らかにしたのだ。
 ギリガンの情報源はイギリス国防省で生物兵器防衛部門の責任者を務めていたデイビッド・ケリーだが、7月17日に変死している。公式発表では手首の傷からの大量出血や鎮痛剤の注入が原因で、自殺だとされているが、手首の傷は小さく、死に至るほど出血したとは考えにくい。しかも彼は古傷のため、右手でブリーフケースを持ったりドアを開けたりすることができず、1991年に落馬して骨折、右肘に障害が残っていた。


核心突かれ狼狽? ボルトン回顧録に猛反発の文在寅政権 
李 正宣 JBpress 2020/06/24 06:00
 ジョン・ボルトン前ホワイトハウス国家安保補佐官の回顧録『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録(The Room Where It Happened:A White House Memoir)』(米国時間6月23日発売)が韓国を揺るがしている。
 21日夜から、韓国メディアは一斉に「ボルトンの回顧録を入手した」とし、数多くのスクープを出し始めた。米朝首脳会談と米韓首脳会談など、国家首脳間の敏感な会談内容を赤裸々に暴露したこの本は、トランプ米大統領にはかすり傷を、文在寅(ムン・ジェイン)韓国政権に致命傷を与えた、と言われている。
 韓国の複数メディアが報道した回顧録の内容のうち、韓国で問題となった部分は、文在寅政権が米朝間の仲裁者を自任しながら、米国のトランプ大統領に北朝鮮の意図を誤解させる原因を提供してしまったという指摘だ。韓国メディアに掲載された内容を総合すると、次のようである。

1、2018年6月のシンガポールでの第1回米朝首脳会談に対する記述
「(2018年)3月にホワイトハウスの大統領執務室で、(韓国の)鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長がトランプ大統領に会いたいという金正恩(キム・ジョンウン)委員長の招待状を手渡し、トランプ大統領は瞬間的な衝動でこれを受け入れた」
「のちに鄭室長は、(トランプ大統領の)招待については自らが先に金正恩氏に提案したことをほぼ認めた」
「すべての外交的ファンダンゴ(スペインの男女ペアで踊るダンス)は韓国の創作物で、これは金正恩氏やわれわれ(米国)の真摯な戦略よりも、韓国の統一議題により関連したものだった」
「文在寅大統領は2018年4月28日の米韓首脳間の電話会談で、『金正恩氏が豊渓里核実験場の閉鎖を含めて完全な非核化を約束した』『金正恩氏に1年以内に非核化することを要請したが、金正恩氏が同意した』と話した」
「2018年5月4日、鄭室長は3度目のワシントン訪問で、(4月27日の南北首脳間の)板門店会談に関する具体的な内容を提供した。韓国は金正恩氏にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)に同意するよう強要し、金正恩氏はこれに従っているように見えたと述べた」

2、朝鮮半島の終戦宣言に関する記述
「われわれの論議において、もう一つの重要なテーマは韓国戦争の終戦宣言だった」
「最初の終戦宣言が北朝鮮のアイデアだと思っていたが、その後、これが自分の統一アジェンダを裏付けるための文大統領のアイデアだと疑い始めた」
「北朝鮮はそれを文大統領が望むものと見て、『自分たちは気にしていない』と述べた」
「私は文大統領がこのような悪いアイデアをトランプ大統領に勧めることについて懸念したが、結局それを止めることができなかった」

3、2019年2月のハノイ米朝首脳会談後に関する記述
「ハノイの首脳会談の数日後、米韓安保室長の対話で、鄭室長は、『金正恩氏が代案なしに一つの戦略だけ持ってきたことに驚いた。米国側が行動対行動方式を拒否したのは正しい』といいながらも、『寧辺廃棄は意味ある最初の措置であり、これは(このような提案を出したのは)北朝鮮がすでに取り返しのつかない非核化の段階に入ったことを意味する』という、文在寅大統領の統合失調症的なアイデア(Moon Jae-in’s schizophrenic idea)を伝えた」
「われわれ(米国)はハノイ以降、南北間の接触がないことを知った。太陽政策が可視的な成果をもたらすと主張してきた文大統領は、非核化および南北関係関連の北朝鮮の冷淡さが政治的に良くないと憂慮した。文在寅政府は生贄を探していた」
「そこで文大統領は、板門店または海軍軍艦での会談を提案し、『劇的な結果を導くことができる時刻、場所、形式に対する劇的なアプローチが、劇的な結果をもたらすだろう』と述べた」

4、2019年6月30日、板門店南北米3者会談に関する記述
「金正恩氏とトランプ大統領との会談に干渉しようとする文大統領の試みも相手にしなければならなかった」
「トランプ大統領は文大統領が近くにいないことを望んだが、文大統領は(トランプ大統領と金正恩氏との会談に)強く出席しようとし、できれば3者会談にしようとした」
「(自分は米朝首脳会談に乗り気でなかったので)文大統領との紛争がすべてを台無しにしかねないという一縷の希望を抱いた。なぜなら、金正恩氏も文大統領が近くに来ることを望まないことは明らかだからだ」

米韓関係に甚大な影響
 衝撃的な暴露に大統領府は直ちに反発した。鄭義溶・国家安保室長名義の立場文を通じて、ボルトンの回顧録は「相当部分が事実を大きく歪曲している」「韓国と米国、そして北朝鮮の首脳間の協議内容に関する事項を自分の観点から見たことを明らかにしている」と反論した。また、「政府間の相互信頼に基づいて協議した内容を一方的に公開することは、外交の基本原則に反するもの」とし、「米国政府がこのような危険な事例を防止するための適切な措置を取ることを期待する」と述べた。
 当時、大統領府の国政企画状況室長として実務を担当した尹建永(ユン・ゴンヨン)議員は、フェイスブックを通じ、「自分が知っていることがすべてだと信じる錯覚と傲慢から脱することを望む」「すべての事実を一つひとつ公開し反論したいが、ボルトン前補佐官のような人になるわけにはいかないので我慢する。言うことがないから、黙っているわけではない」と非難した。
 民主党議員らも、ボルトンに向けて「自分(ボルトン)が統合失調症ではないか」「一発殴りたいほどだ」「見苦しいタカ派」「武器商人の本気」「戦争狂」「三流政治家」など、激揚した反応を見せている。
 韓国メディアは、金与正(キム・ヨジョン)第1副部長と北朝鮮の敵対的攻勢で緊張感が高まっている朝鮮半島情勢が、ボルトンの回顧録によってさらに悪化するだろうと非難した。
 ハンギョレ新聞は社説「韓半島危機の中、一方的に暴露したボルトンの破廉恥」で、「ボルトンの暴露は危機の韓半島状況をさらに悪化させ、今後の北朝鮮核問題解決に向けた交渉を困難にさせる恐れがあるという点で、問題の深刻性が大きい。ボルトンは適切な責任を負うべきだろう」と憤った。
 聯合ニュースは「恨みを抱いたタカ派のボルトンが危険な賭けが米朝に影響・・・韓米にも冷や水」という記事で、「最初から最後までタカ派の屈折した見方で対北朝鮮外交全体を完全な失敗に追い込んだ」と非難し、この回顧録が韓米関係に否定的な影響をもたらす恐れがあると警告した。
 金与正氏の「言葉爆弾」に続き、ボルトンの「回顧録爆弾」が文在寅政権に新たな脅威となっている。