安倍首相は以前は熱心に道徳教育を説いていましたが、このところは全く言及しません。自分の行動のあらゆる面において道徳の片鱗も見ることが出来ない以上それは当然のことです。
それはともかく、コロナ禍によって小~高校などが約3ヶ月間休校になったことに伴って、俄かに「学校を9月入学に」という発想がわき起こると、安倍首相は「有力な選択肢の一つである」と前向きな姿勢を見せました。自分のレガシーになるとでも思ったのでしょう。
しかし9月入学制に反対の文科省が家計負担が3・9兆円にのぼるという試算を発表すると、PTAや教育学会などから批判が相次ぎ、自民党ワーキングチームも見送りを提言したため安倍首相も断念するに至りました。
このところ安倍首相の意向は次々に官僚によって否定されるようになりました。さしたる根拠もなく思い付きでやろうとするのですから当然です。
小泉政権時代に文科相だった田中真紀子・元衆院議員(76)は、「大学」を9月入学にすることに個人的に賛成でした。この度AERAのインタビューに登場し、
「今の政治には知性、正義感、情熱といった、国民のために現実を変えるエネルギーを全く感じない。目の前の問題をごまかして政権維持だけです。安倍内閣では9月入学は実現できない」と手厳しく批判しました。
政界を去ってから久々の登場ですが、角さん譲りの弁舌の切れと生き生きとした感性は全く衰えていません。
安倍首相が何故「ハツカネズミ」なのかは末尾の辺りで説明されています。
比喩の巧みさには改めて舌を巻きます。(^○^)
追記)なお「ギャップターム」(不連続な期間)という言葉が出てきますが、大学入学を9月にする場合でいえば、高校を3月に卒業してから9月に大学に入学するまでの約半年間の空白時期、あるいは8月に大学を卒業してから4月に入社するまでの半年余りの空白時期のことを言い、学校生活を離れて各自が自由に課題を追求できる期間を意味します。
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田中真紀子元文科相が激白
「ハツカネズミのような安倍首相に9月入学は無理」
AERA dot. 2020/6/2(
週刊朝日6月12日号に加筆
コロナ禍のさ中に政府が検討を始め、議論百出の9月入学。民主党政権で文科相だった田中真紀子・元衆院議員(76)は賛成派だが、安倍内閣には無理と退陣を求める。東京都内でインタビューした。
――9月入学の議論は小学校から大学まで多様です。どんなご意見ですか。
大学だけ9月入学にすべきです。高校卒業から5カ月間ほどをモラトリアム(猶予期間)にして、若者に人生を考える時間を与える。大学入試が春のままなら、入学までにボランティアや国際交流などに取り組む。この考えは「ギャップターム」として東京大学のワーキンググルーブが2012年に提言しています。
でも大学入試を遅らせ、卒業する高校3年生が進路をじっくり考えるのもいい。コロナで学校が休みになって親と話す機会が増えた生徒もいるでしょう。9月入学なら高校卒業後に親子で進路の話がしっかりできるかもしれません。
――どうしてそう思うようになったのですか。
議員になる以前の子育て経験がまずあります。40年近く前ですが、小学生の長男に夜のお弁当を持たせて塾に行かせていたら、父(田中角栄元首相)に「なんで一家団欒の夕食に子供がいないんだ」と怒られた。私も不健全とは思いながらも、周りの奥様たちと一緒にしていました。
常に受験勉強に追われベルトコンベアー式に大学に行くのは今も変わりません。多くの学生はバイト、就活に追われ、学問の深さに触れず大学卒業のレッテルだけ得て社会に出る。機会均等や識字率の高さは日本の教育の誇るべき点なのに、大学がじっくり自分の適性や将来を考え学問に取り組む場になっていません。
教育は私のライフワークで、主婦の頃に公教育の充実をと朝日新聞に投稿しました。1993年に衆院議員になって小中学校の教員の質を高める教員免許特例法を議員立法で作り、大学教育の充実をと9月入学もずっと考えていました。
――東大が「ギャップターム」を打ち出した12年に文科相になった時は、9月入学の検討はどこまでされましたか。
当時の浜田純一総長に賛意を伝えると喜ばれ、就任時の記者会見では「人づくりが重要」と強調して必ずと思ったけど、できませんでした。最初の役所のレクチャーでそれ以前の課題が山積とわかり、最たるものが大学乱立の中での新設許認可の問題でした。
3校も経営に疑問があったのに、役所は認可のハンコを押せ押せと。少子化でやたら大学をつくって倒産したら社会へ出る学生はどうなるのと聞いても決まったことだからと。自民党政権からの惰性にあぜんとしました。
――混乱のうちに12年末の衆院選で民主党政権が倒れ、ご自身も落選で政界を離れました。それから7年以上経ち、コロナ禍のいま改めて9月入学をと言い出された。
拙速に実現を求めてはいません。一番大事なのは子供たちで、教育現場を混乱させてはいけない。ただ、コロナの影響で世界に新たな秩序が動き出す今こそ、教育制度を見直すという柔軟な発想で、前広に大学9月入学の議論をする好機です。そうした話を大学関係者の方々と今しています。
――大学関係者には9月入学に否定的な声もあります。5月の自民党のヒアリングでは田中さんの母校の早稲田大学を含め、「教育システムの破壊になりかねない」といった慎重論が相次ぎました。
破壊じゃないんです。硬直しているからこそ変えるべきなんですよ。特に私学は経営にこだわって現状維持を望むでしょう。世界から信頼される優秀な日本人を育てる大学教育に携わる方々は、議論に柔軟に臨んでほしいものです。
9月入学には、欧米の大学とそろう国際化のメリットがあります。さらに私は、一人一人の多様性を尊重し、誰にも一度しかない人生を充実したものにする教育につながると考えています。
「また田中真紀子が引っかき回して」と言われるかもしれないがそうじゃない。文科相の時の大学許認可問題と同じで、議論をと提言しているんです!
――その9月入学の検討を安倍内閣が始めました。首相の持論でもあります。
へえー。でも今頃急に言い出すのは、お得意の思いつきじゃないんですか。7年以上にもなる内閣で実績がなく、コロナ対応でもさっぱりだからでしょう。
9月入学は政治の覚悟が必要なテーマなんです。大学も役所も目先のデメリットばかり言って動かない中で、長い目で人づくりのために大学教育を変える。そうした覚悟を持つには国の将来をこうするという展望が必要です。
父はそうした展望を持っていたからこそ、衆院議員在職中に多くの省庁にわたる33本もの議員立法を成立させました。役人も学者もうちで勉強会をして、私が主婦の頃にお茶を出すと、父に「座って聞いていろ」と言われました。門前の小僧だった私もその後に議員立法に取り組みました。
政治は本来、現実に風穴を開け夢を実現する素晴らしいものです。ところが今の政治にはそうした覚悟を感じないどころか、政治への信用をこの7年間で失墜させた。安倍内閣の求心力どころの問題ではありません。
特に森友・加計、桜を見る会、河井夫妻、そして今回の検察庁法の問題で、首相の立場にある政治家の薄っぺらさが国民に完全に見透かされた。国民が政治家にあきれかえり、軽蔑してしまったことが本当に残念です。
――安倍内閣が座す今の政治では、9月入学は実現できないと。
ええ。今の政治には知性、正義感、情熱といった、国民のために現実を変えるエネルギーを全く感じない。目の前の問題をごまかして政権維持だけです。
縁日のハツカネズミを知ってます? 回し車をからからと一生懸命走るけど、全然前に進まない。安倍さんはハツカネズミみたい。長期戦になるコロナ対策を理由に政界に居続けなくて結構。私人になってあの奥様と世界旅行でもされてはというのが、私のもう一つの提言です。
(聞き手 朝日新聞編集委員・藤田直央)