2020年6月29日月曜日

陸上イージスがダメなら「敵基地攻撃能力保有」とは小学生並みの論理

 安倍政権はイージス・アショアの配備計画中止をきっかけに、敵のミサイル発射拠点を破壊する「敵基地攻撃能力」の保有を声高に叫びはじめました。それは敵国がミサイルを発射しそうだと認識したときに、敵のミサイル基地を先制攻撃するというものです。
 そんな史上空前の戦争国家の米国なら振り回すかもしれない論理を、何故日本が大真面目に取り入れようとするのでしょうか。
「危険を感じたから先制攻撃を掛けた」では国際法上も容認されないし、そもそも戦争を放棄した日本国憲法にも明確に反します。
 何よりもイージス・アショアが使えなければ敵基地攻撃能力を持つしかないというのは、余りにも飛躍した小学生並みの論理です。
 LITERAが取り上げました。

 天木直人氏によれば、元自衛艦隊司令官が27日夕のTBSの報道特集で、「敵基地攻撃はやるなら徹底的にやらなければかえって危険だなぜなら徹底的にやらないと反撃を食らってこちらがやられるからだ語ったということです。
 言われてみればその通りで、敵基地を攻撃すれば明らかな戦争行為なので当然「敵国」は総力を挙げて反撃しますそれに対抗できるためには、日本は軍事国家になるしかありません。
 それこそは「いつか来た道」で、考えるも愚かなことです。
 ごく一部の人たちは戦前回帰の願望を持っているようですが、それはもはや「狂気」と呼ぶべきものです。

 LITERAの記事と天木直人氏のブログを紹介します。
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安倍政権がイージス・アショア停止を利用して「敵基地攻撃能力」保有を主張するペテン! 安倍首相も「先に攻撃したほうが圧倒的有利」
LITERA 2020.06.28
 呆れ果てるとはこのことだろう。配備計画が「停止」となった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の問題で、25日、河野太郎防衛相が自民党の国防部会などの合同会議の場で涙ぐみ、「本当に取り返しがつかない。申し訳ない」と声を詰まらせて昨年の参院選において秋田選挙区で落選した前議員に謝罪したというのだ。
 河野防衛相が声を詰まらせて謝罪すべき相手は落選議員ではなく、無茶な計画でさんざん振り回してきた秋田県や山口県の住民に対して、だろう。さらには安全面とコストを問題にイージス・アショア配備を事実上中止にしたのなら、同じように安全面とコストの問題がある辺野古新基地建設の工事をすぐにでも止めるべきだ。
 しかし、新基地建設工事の見直しどころか、安倍政権はむしろイージス・アショアの配備計画中止をきっかけに、敵のミサイル発射拠点を破壊する「敵基地攻撃能力」の保有を声高に叫びはじめた
 実際、安倍首相は18日の総理会見でイージス・アショアの配備計画中止について「我が国の防衛に空白を生むことはあってはならない」などと言い出し、敵基地攻撃能力の保有にかんしても「抑止力とは何かということを私たちはしっかりと突き詰めて、時間はないが考えていかなければいけない」「政府においても新たな議論をしていきたい」と発言。その後、政府や安倍自民党から敵基地攻撃能力の保有の議論を求める声が噴出し、たとえば24日付のテレビ朝日の報道によると、敵基地攻撃能力の保有について政府高官は「守るより攻めるほうがコストは安い」などと語っている。

 言っておくが、イージス・アショアの安全性に対しては数々の疑問・指摘が投げかけられていたにもかかわらず、安倍政権はそうした声を無視して押し進めてきたのだ。イージス・アショアの配備計画中止を受けて、いま見直されるべきは、こうした安倍政権による強引な防衛・安全保障政策にほかならない。
 にもかかわらず、話を「防衛の空白」「コストが安い」などとすり替えて、従来から主張してきた敵基地攻撃能力の必要性を訴えるきっかけにしてしまうとは……。

 そもそも、この敵基地攻撃能力の議論は、朝鮮戦争から6年後の1956年に、当時の鳩山一郎首相が「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべき」との政府見解を出したことに始まる。だが、ミサイルを撃つ前の基地や拠点を「危なそうだから」という理由で破壊すれば、これは「先制攻撃」であり、明確な憲法違反かつ国際法にも抵触する。事実、2015年7月28日の参院特別委員会で当時の岸田文雄外相も「他国から武力攻撃を受けていない段階で自ら武力の行使を行えば、これは国際法上は先制攻撃に当たる」と答弁している。
 しかも、敵基地攻撃能力は法理上可能であったとしても、実際には「自衛権」の範囲とするために発射直後(上昇中)のミサイル破壊を目指すことになる。現実的には、これは高度な偵察や情報収集技術、あるいは妨害電波などを駆使して初めて可能な行動であり、また、すべてのミサイルをその瞬間に破壊することは不可能だ。安倍首相は「抑止力」などという言葉を使ったが、「敵基地攻撃能力は抑止力になる」との論は破綻しているのである。無論、コストがさらにかかることは言うまでもない。

 つまり、敵基地攻撃は国際法にも憲法にも反する先制攻撃にほかならず、第二次世界大戦の反省から日本が原則としてきた専守防衛から逸脱するものであり、安倍首相自ら「100年に一度の国難」と呼ぶ新型コロナによって国民の健康と生活が脅かされているなかでわざわざ俎上に載せて議論するような問題ではそもそもないのだ。

安倍首相は、イージス・アショア停止と北朝鮮情勢を利用して敵基地攻撃能力保有と改憲を狙う
 だが、安倍首相にしてみれば、新型コロナでの失策を安全保障の問題でカバーしようとしているのではないか。いや、それどころか、自身の理想をかたちにするまたとないチャンスだと考えていることは間違いない。実際、この国の防衛戦略の基本姿勢である専守防衛も、さらには国際法上も憲法上も認められない先制攻撃についても、安倍首相は容認するかのような発言をおこなってきたからだ。
 たとえば、安倍首相は2018年2月14日の衆院予算委員会で、専守防衛について「純粋に防衛戦略として考えれば大変厳しい」と言い、「あえて申し上げたい」と前置きして、こんな主張を繰り広げていた。
「(専守防衛は)相手からの第一撃を事実上甘受し、かつ国土が戦場になりかねないものでもあります。その上、今日においては、防衛装備は精密誘導により命中精度が極めて高くなっています。ひとたび攻撃を受ければこれを回避することは難しく、この結果、先に攻撃したほうが圧倒的に有利になっているのが現実であります」
「先に攻撃したほうが圧倒的に有利」って、そんなことをしでかしたほうが国土は火の海になり、国際社会からも「ならず者国家」として非難を浴びる。よくもまあこんな物騒な答弁をしたものだと思うが、この答弁が象徴するように、安倍首相の感覚はとっくに憲法を逸脱したものなのだ。
 そして、安倍首相の狙いは、今回の敵基地攻撃能力保有の議論を憲法改正につなげることにほかならない。ようするに、敵基地攻撃能力の保有を訴えるなかで、宿願だった戦力不保持を明記した憲法9条2項の削除にまで踏み込もうとしているのではないか。

 いまは新型コロナの話題に飽きたワイドショーも北朝鮮情勢に夢中になっており、まさに安倍首相にとって敵基地攻撃能力の保有問題は支持率挽回と憲法改正に持ち込むための格好のテーマであり、今後、さらに血道を上げることだろう。新型コロナ対応の責任から目を逸らそうとする安倍首相のこの行動を、市民はこれからしっかりと監視してゆく必要がある。(編集部)


本格的防衛論戦が始まれば露呈する防衛強化論者の自己矛盾
天木直人のブログ 2020-06-28
 私が国家安全保障局(NSC)の前身であった内閣安全保障室に外務省から課長級として出向していた1988年から1990年ごろは、まだシビリアンコントロールは健在だった。
 すなわち、事実上の軍人である自衛隊制服組が日本の防衛政策に影響を与える発言をすれば、たちまち国会で追及され、国会審議がストップしたり、場合によっては自衛官幹部が更迭されたりした。
 ところが、いつの間にかこのシビリアンコントロールは死語になり、特に安倍政権になり、制服組が背広組(文官)と対等になって外交や防衛政策論争に堂々と発言できるようになった。
 そしていよいよ彼らの出番が来たのだ。
 勘違い政治家である河野防衛相の突然の陸上イージス白紙撤回発言によって、怪我の功名なのか、渡りに船なのか、焼け太りなのか、どういう表現がぴったりくるかは知らないが、安倍首相が突然、あらたな防衛大綱をつくり直すと言い始めた。
 それにともなって自衛隊の制服組幹部がどんどんメディアで発言し始めた。
 驚いたことに現職自衛隊幹部が記者会見で、陸上イージスが白紙撤回されてもミサイル防衛の必要性はますます高まる、などとメディアで平気で語り始めた。
 とんでもないことになってきたのだ。

 本来ならば、そう激しく非難するところだが、今回ばかりは私は、がぜん面白くなってきたと大喜びだ。なぜか。彼らが発言すればするほど、防衛力を強化すべきだと主張することの自己矛盾が露呈するからだ。
 きのう6月27日夕のTBSの報道特集で、香田洋二という元自衛艦隊司令官(海将)が出演して語っていた。
 敵基地攻撃はやるなら徹底的にやらなければかえって危険だと。なぜならば、それは敵の中枢を攻撃するわけだから、徹底的にやらないと反撃を食らってこちらがやられるからだと。
 しかし、いまの自衛隊には、敵基地を徹底攻撃できる組織力も、情報収集能力も、装備も技術力も、士気も、なにもかも無い。そんな現状で敵基地攻撃を行うことは自殺行為だと。
 その時の香田海将の正確な表現は忘れたが、彼がいわんとするところはそういうことだ。

 この発言は日本全国の国民が知っておかなくてはいけない発言である。
 なにしろ、ついこの間まで海上自衛隊のトップにいて日本の防衛力の現状を一番よく知っている人の発言である。
 この発言を論破できる専門家は今の日本では誰もいないはずだ。その人物が、テレビの前で国民に向かって、日本は敵基地攻撃を出来ない国だと証言したのである。
 もちろん、香田元海将が言いたいことは、だから日本も米国や中国並みにあらゆる面で防衛力を強化すべきだということなのだ。
 しかし、日本がいまさらそんな事をやろうとすれば、いくら予算があっても足りない。 敵基地攻撃力を高める前に、日本と言う国が崩壊することになる。
 どっちに転んでも、敵基地攻撃を可能にする防衛力の強化は、あり得ない政策なのだ。
 野党は来るべき国会審議で、まっさきに6月27日夕に全国放映されたTBS報道特集の香田元海将の発言を取り上げるべきだ。
 そして香田海将を国会に招致して証言させるべきだ。
 俄然、おもしろくなってきた。
 敵基地攻撃論争は、始まったとたんに終わるということである(了)