9日、亡くなった横田茂さん妻の早紀江さんと息子の拓也さん、哲也さんが記者会見をしました。
その際に哲也さんが「安倍総理、安倍政権は動いてくださっています。なのに何もしない方が政権批判をするのは卑怯だと思います」と発言しました。
拉致被害者の家族から「安倍首相がよくやっている」という趣旨の発言が出たのは意外でした。安倍首相が「よくやっている」というのは、拉致問題に関する安倍首相応援団である「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)の主張に他ならないからです。
それについて蓮池透氏は「救う会の影響があるんでしょうね」と述べました。そう解釈するしかないことです。蓮池氏は「救う会はいまや極右思想と安倍首相礼賛の日本会議一派に牛耳られています」とも述べています。
「救う会」は、これまで「被害者家族の会」に対して悉く干渉して来ましたが、安倍首相と同様に何か拉致被害者の救出に役立ったという話は聞きません。
LITERAが蓮池透氏にインタビューしました。
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横田滋さんの死で蓮池透さんが語った危機感!
「家族会、救う会の“日本会議”化に抗する最後の砦だったのに」
LITERA 2020.06.11
横田滋氏が亡くなったことで、マスコミは久しぶりに拉致問題を取り上げている。しかし、その論調はエモーショナル(感情的)で表面的なものばかりだ。
本サイトでは、安倍首相が近年、拉致問題をないがしろにし、横田夫妻についても冷淡な姿勢を見せていたこと、そして拉致問題を極右運動に利用しようという「救う会」(「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」)の姿勢が拉致問題の交渉を阻み、横田さんたちを苦しめてきたことを再三、指摘したが、そうした実態を伝える報道は皆無だった。
横田さんは、拉致問題解決に一向に道筋が見えない状況と安倍首相、「救う会」の政治利用に何を思っていたのか。
当初、拉致被害者の蓮池薫さんの兄として「家族会」(「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」)事務局長を務めていたものの、ある時期から「家族会」と距離をおき、いまは安倍首相や「救う会」を批判している蓮池透さんに、横田さんへの思いと拉致問題の現状や今後について話を聞いた。
──横田滋さんが亡くなられて、いまは率直にどういう思いですか。
蓮池 この時期に滋さんが亡くなったことは、言葉にならないくらい残念ですし、同時に危機感を感じています。みんながコロナ禍で苦労しているなかで、滋さんの死が、そして拉致問題そのものがかき消されてしまうのではないかと。マスコミは滋さんの死を受けて、「頑張った」「リーダーシップ」などと美談仕立てで報じています。まるで芸能人が亡くなったときと同じような報道じゃないですか。でもそれは違うでしょう。滋さんを追悼するのは当然のこととして、それに加えてなぜ拉致問題はこんな長い間、解決しないのか、できないのか。日本政府の問題も含め、あらためて検証するのが筋でしょう。亡くなられる前の滋さんの行動を讃えるばかりで問題をきちんと捉えてない。“夢叶わず”なんて言うんだったら、なぜ叶わなかったのか、それをきちんと検証すべきですよ。解決できない政府を批判、検証をすべきです。そうでなければ拉致問題はこのままダラダラと解決せず時が過ぎるだけです。実際、ワイドショーや報道もお涙ちょうだい一色報道でしたし、それも数日で終わってしまうでしょう。それが怖いなと思っています。
──9日には、妻の早紀江さんと息子の拓也さん、哲也さんが会見をしました。
蓮池 正直に言うと、早紀江さんには「安倍さん、何やってるんだ!」くらいは言ってほしかったです。早紀江さんは数年前から政府への不信感を少しずつ口にしていましたから。この機会に強く要求してほしかった。しかし、そうした安倍首相への注文はなく、逆に息子さんが「安倍総理、安倍政権は動いてくださっています。なので何もしない方が政権批判をするのは卑怯だと思います」と言っていて。「安倍総理とともに」には違和感を覚えましたし、まだ安倍さんを評価し、頼るのかと悲しい気持ちになりました。
ただ、これも「救う会」の影響があるんでしょうね。「救う会」はいまや極右思想と安倍首相礼賛の日本会議一派に牛耳られていますから。
そもそも「救う会」は被害者を救出しようなんて気もまったくない。「安倍さんがやってくれる」という礼賛ばかり。「全拉致被害者の即時一括帰国を実現せよ!国民大集会」も、櫻井よしこ氏などが司会をするようになって、安倍教信者の集まりのようになってしまった。
最近はさすがに国民大集会でも安倍首相に対して「何年経ってると思うんだ」などというヤジが飛ぶようになってきましたが、そうすると司会の櫻井氏が「総理のありがたいおことばですから、静かに聴きましょう」なんて止めるんです。一方、特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏が「(北朝鮮と)戦争しろ」と連呼しても止めようともしない。安倍首相への批判は止めるのに、戦争しろという暴論は制止すらしない。結局、「救う会」も櫻井さんも北朝鮮と戦争したいからでしょう。そんな危険な暴論がまかり通っているのがいまの拉致問題の現場なんです。
そういう意味では、滋さんは、こうした極右化に抗する最後の砦でした。しかし、滋さんが亡くなって、今後、「家族会」「救う会」もさらに日本会議色が強くなっていくでしょう。
安倍首相の放置と「救う会」の政治利用に耐え続けた横田さん
──安倍首相は滋さんの死を受けて、会見で“断腸の思い”と言っていました。少しは反省しているんでしょうか。
蓮池 とてもそうは思えない。「断腸の思い」なんて言葉だけですよ。安倍首相は今年2月、有本恵子さんのお母さん、嘉代子さんが亡くなったときは、「痛恨の極み」と発言しましたが、ただ政治家用常套句を言い換えただけです。だいたい“断腸”などという言葉は残された家族の言葉です。安倍さんが言うセリフではない。
いつものことですが、安倍さんは言葉だけ、しかも軽いんです。これまでも「果断に行動する」「任期中に解決する」「政治生命をかける」と繰り返し勇ましく語ってきました。しかし、結果はどうなのか。積極的な行動なんて何もしていない。被害者家族にはかない夢を見させるだけで放置した。拉致問題を政治的に利用して、“闘う政治家”イメージをつくりあげ、排外ナショナリズムを煽り、それを武器に2回も総理大臣になったのに、何も事態を進められていないわけです。国民もいい加減、認識を変えるべきですよ。
──亡くなった横田さんはそうした安倍首相の、安倍政権の拉致問題政治利用についてどう考えていたのでしょう。
蓮池 純粋な方なんで、安倍さんにそれなりの期待はあったと思います。最初は信頼感もあったと思う。ですから表立って政府や外務省、安倍さんの批判は絶対しなかった。しかし時が経つにつれ、“何なんだろう”という思いは心のなかにはあったと思います。安倍さんに対しても、全幅の信頼というより、消去法で仕方がないという消極的な支持だったと思っています。他に誰がいるんだ、やってくれるんだ、と。たとえば私の母など、総理だろうと大臣だろうとズケズケと意見を言いますが、滋さんは「批判はしないでね」と逆に諌めて、その場をおさめるような感じでした。「家族会」代表という立場もあった。もし政府や安倍首相と全面対決という構図になったら、問題解決はさらに遠のく。ですから表立った政治批判、政権批判はしないと、そういうふうに考えておられたのかな。もちろんお酒を飲むと、やっぱり本音がちらっと出ます。やはり大きなストレス、苦悩があったのは間違いないでしょう、酒の量も増えていった。でも本当に温厚な方で。自分の意見を声高に主張するのでなく、代表としてみんなの意見を聞いて、調整役に徹していた。だから、政治家や官僚は横田さんを利用して、つけこんでくる。たとえば、外務省の人なんか「具体的に何をやっているんですか」と聞くと、返ってくるのが「外交上の問題ですから」という言葉なんです。便利な言葉ですよね、外交上の問題です、秘密ですと。それで何十年も誤魔化されてきた。私なんかは激怒していたんですが、それに対しても滋さんは文句を言わなかった。
「救う会」の批判も聞いたことがありません。過激な活動方針を出されても「わかりました」と受け入れてきた。でも、実際は苦しかったんじゃないでしょうか。「家族会」の代表を辞めたのも体調の問題に加えて、「救う会」との調整が辛くなったという部分はあると思います。実際、「救う会」は逆に解決を先延ばしさせるために、年々ハードルを上げ続けてきましたからね。最初は全員帰国、次は全員一括帰国、そして全員一括即時帰国。安倍さんの逃げ道をつくっているとしか思えない。まるで拉致被害者を救うのではなく、安倍首相を救う会のようです。
ただ、滋さんはそれでも表立って、批判しなかった。私から見ると、よく耐えていたなと。たとえば2016年、横田夫妻がモンゴル・ウランバートルで初めてキム・ウンギョンさんと面会し、同行した夫や生後10カ月のひ孫と過ごした際に撮られた6枚の写真を「週刊文春」(文藝春秋)が掲載しましたが、その後、横田夫妻は「写真は横田家から提出したものではない」という声明を出した。これだって「救う会」から圧力をかけられたからです。それでも横田さんは自分を抑え、「救う会」の言うことに従った。
私が、横田さんが「救う会」に激怒しているのを見たのは一度だけ。酒の席で「救う会」幹部を大声で怒鳴りつけたんですが、本当にその一度きりでした。
いまになって思えば、滋さんにはもっと自分を出してほしかった。でも立場上できなかったんです。
実際、代表を辞めた後も、滋さんは強硬派と穏健派の調整役をしていました。ぶつかり合いの調整役になって融和的な路線にしようと。そう考えると、貴重な人を亡くしてしまったと本当に思います。
安倍首相は拉致問題を自分が解決できないことを認めて交代すべきだ
──今後拉致問題はどうなるのでしょうか。
蓮池 政府や安倍さんは、自分たちの無為無策を棚に上げて、拉致問題が進展しないのは国民の関心が薄れているせいだ、と平気で言っている。マスコミも同様ですが、それは違う。安倍さんしかできないという雰囲気をつくり出し、人々をそういう環境に誘導してきたのは安倍さん自身です。あらゆるチャンス、あらゆる手段とか言いながら、まず田中均氏を交渉から外し、他にもいろんな交渉ルートがあって、北朝鮮との間に立つという人も名乗りをあげていたのに、すべて排除してきた。自分以外のルートは排除して、ズルズル引っ張ってきた。待っている家族にとっては本当にひどい話です。
国民の生命がかかっている。他国から国民が拉致された、主権の問題でもあるのです。世論なんかなくても政治が自発的、積極的に動くべきことでしょう。しかし実際は何もしていない。他人事です。気になるのは「風化」という言葉が使われていることです。風化というのは拉致問題には当てはまらない。風化というのは一旦けりがついた事柄、たとえば、捜査や裁判が終了し、それなりに区切りのついた解決済みの事件について、世間の記憶が薄れていくという意味ではないでしょうか。しかし拉致問題は解決していないし、道まだ途中です。人命が関わっている問題、しかもまだ中途の段階で、風化という言葉を使ってほしくない。
安倍さんも自分が何もやらない、できないならせめて、他の人に託してほしい。「私には無理だから、すみません、お願いします」と。安倍政権が、と高らかに宣言するだけで、何もしないという詐欺のような状態はいい加減やめてもらいたい。コロナ禍でもはっきりしましたが、この人は弱者に冷たい、ひとの苦しみ、人間の悲しみを感じることができないのではないでしょうか。
とにかく強調したいのは、拉致問題は現在進行形の問題だということです。国民の生命と財産を守るのが政府なのに、半世紀近くも拉致問題を放っておくなんてありえない。被害者家族は、もちろん国民も、北朝鮮への怒りや感傷的な追悼に終わるのでなく、日本政府に対してもっと具体的な要求をしていくべきだと思います。 (構成 編集部)