共同通信が黒川氏の甘い処分が官邸主導でなされたことを報じましたが、それは法務省の上層部でないと知らないトップシークレットだったということです。
スクープ記事(25日)の内容が安倍官邸に大打撃を与えたのはいうまでもありませんが、そのリーク元が法務省の上層部であったことに官邸が怯えているということです。もう官邸の威令が届かなくなっていることを示しているからです。
また新型コロナ感染症治療薬アビガンの臨床研究で、明確な有効性がまだ示されていないという共同通信のスクープ記事(20日)も厚労省からのリークと見られ、同じ意味で官邸の心胆を寒からしめています。
NEWSポストセブンが伝えました。
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黒川氏の甘い処分巡るスクープ 官邸が怯える “リーク元”
NEWSポストセブン 2020.06.01
週刊ポスト2020年6月12・19日号
首相官邸が霞が関の《クーデター》に怯えている。黒川弘務・前東京高検検事長の麻雀賭博報道は政権に打撃を与えたが、安倍首相と官邸の側近官僚たちが「文春砲」以上に肝を冷やしたのは黒川氏への大甘処分をめぐる共同通信の報道だった。
首相が新型コロナの緊急事態宣言の全面解除を決定した5月25日、その出鼻をくじくように共同通信がスクープ記事を配信した。
〈首相官邸に報告した法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となったことが24日、分かった。複数の法務・検察関係者が共同通信の取材に証言した〉
この記事は東京新聞が朝刊1面で取り上げたほか、ブロック紙と地方紙が一斉に報じている。安倍首相の「稲田伸夫検事総長が事案の内容、諸般の事情を考慮し処分を行なった」という国会での説明と食い違う内容で、官邸が黒川氏の処分についても“手心”を加えたと大きな批判を巻き起こしている。
官邸が重大視しているのは、情報のリーク元が「法務・検察上層部」と見られるからだ。
「特捜部の現場検事が捜査情報をリークするのは日常茶飯事だが、黒川処分をめぐる官邸とのやりとりの経緯は法務省と最高検の首脳部のごく一部しか知り得ないトップシークレットだ。官邸のお目付け役だった黒川が辞任した途端に、法務検察首脳部が官邸に弓を引いてきた」(官邸の安倍側近)
追い討ちをかけるように、法務検察トップの稲田検事総長がTBS(JNN)の単独インタビューで、「法務省側から訓告相当と言われ、『懲戒処分ではないのだな』と思った。法務省と内閣の間でどのようなやり取りがなされたかはわからない」と処分内容への自身の関与を否定した。検事総長が異例の単独インタビューに応じ、“私が決めた処分ではない”と首相答弁をひっくり返したのだから前代未聞のことだろう。元東京地検検事で、政府の年金業務監視委員長や総務省コンプライアンス室長などを歴任した郷原信郎・弁護士が語る。
「安倍政権が盤石な間は、官僚機構は官邸を怖がっていた。政権が無理なことや間違ったことをしても何も言えなかった。ところが、コロナ対策や検察庁法改正の失態で政権のガバナンスが低下すると、今まで従っていた官僚機構は見切りをつけ、圧力を恐れず告発に動き出すようになる。黒川前検事長の処分をめぐる法務検察関係者の証言は、その動きの一つでしょう」
政権にとって緊急事態と言っていい。
厚労官僚からもリークか
そしてコロナ対策でも官僚の造反が始まった。安倍首相は新型コロナ治療薬の有力候補とされる富士フイルム富山化学の「アビガン」について、5月4日の記者会見で「今月中の承認を目指したい」とスピード承認に前のめりになっていた。それにストップをかけたのも共同通信のスクープだ。
〈(アビガンについて)国の承認審査にデータを活用できると期待された臨床研究で、明確な有効性が示されていないことが、分かった。複数の関係者が共同通信に明らかにした〉(5月20日付配信)
報道後、加藤勝信・厚労相は、「現状においては独立評価委員会から科学的に評価することは時期尚早との考え方が示された」と5月中の承認を断念することを発表した。
しかし、この独立評価委員会は厳重な秘密保持義務があり、結果を外部に漏らすことはないとされる。「リークしたのは評価内容を知りうる厚労省以外にありえない」というのが官邸サイドの見方だ。それというのも、感染症対策や医薬品行政を所管する厚労省医薬・生活衛生局では首相のアビガン早期承認方針に反発が強いからだ。同省職員が語る。
「アビガンには催奇性など強い副作用があることが知られている。安倍総理は無責任に早く承認しろというが、十分な治験と安全性の確認がないまま新型コロナの治療薬として承認し、健康被害が出た場合に責任を負わされるのは官僚です。過去には薬害エイズ事件で当時の生物製剤課長の有罪が確定した。安倍さんは何かあっても刑事責任は負わなくてすむ。そんな人の言葉には従えない」
暴露と造反の連鎖は止まらない。安倍首相が「有力な選択肢の一つであると考えている」と導入を推進した学校の9月入学問題では、早期導入に慎重とされる文科省が家計負担が3.9兆円にのぼるという試算を発表すると、PTAや教育学会などから批判が相次いで自民党ワーキングチームも見送りを提言した。役所が安倍首相の意に反する情報やデータを示したことで方針は次々に覆されている。
(以下は非公開)