2020年6月5日金曜日

もう解散・総選挙を打つ力はない首相/種苗法の改正は見送りの方向

 来年10月の衆院議員任期満了近くでの解散は「追い込まれ解散」と呼ばれ、政権側は避けたいとされています。そうであれば安倍首相としては、自分の力を維持するためには是が非でも早めに解散を打ちたい筈です。
 しかしながらコロナ禍の収束具合、経済の極端な落ち込み、今秋に予想される第2波・第3波の襲来、秋における東京五輪開催の見極め、来年7月の都議選 ・・・ 等々の絡みがあるので、解散総選挙を打てるタイミングが見い出せません。
 そうなると仮に安倍首相が来年10月の任期満了まで居座ろうとしても、よれよれの安倍首相の下での総選挙では勝ち目がないので、新総裁の下で闘いたいというのが自民党議員の心理です(首相がそんなに粘ることは考えたくないことですが・・・)。いずれにしても総選挙前で安倍首相の命脈は尽きます。
永田町の裏を読む」で高野 孟氏が取り上げました。

 それとは別に、ブドウのシャインマスカットやイチゴのあまおうなどブランド農作物の海外流出防止等を口実にして、「種苗法改正案」が今国会に提出されましたが、取り敢えず成立は見送られる方向となりました。併せて紹介します。

 ブランド品を守ることには誰も異存はないのですが、実はこれまで当たり前に行われてきた「農家が収穫物から種を取り出して収穫を繰り返す自家増殖」を認めないことまで含まれているので、これは栽培農家の収支や農業の構造に甚大な影響を与えることになります。
 農水省は、自家増殖が規制されるのは品種登録されたブランドだけで全体の約1割にとどまると言い訳していますが、改正案が通ればグローバル種子企業が次々と米や野菜を品種登録することは目に見えているので、最終的に日本の農業が牛耳られる惧れは大きいと言えます。
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永田町の裏を読む
解散・総選挙を打つ力もない安倍総理は早々に見限られる
 高野 孟 日刊ゲンダイ 2020/06/04
 自民党の下村博文選対委員長が30日の講演で、次期衆院選について「すぐにできる状況ではない。来年10月の衆院議員任期満了に限りなく近い時期になる気がする」と述べた。どういうことなのか、自民党のベテラン秘書に聞いた。
「衆院議員の任期満了に近い解散・総選挙は“追い込まれ解散”と言われて、総理がそれまでの間に自分の主導権の下でタイミングを選んで選挙を打てずに、仕方なくやらざるを得なくなった形になるので、誰しも避けようとする。ところが、来年は7月22日が東京都議会議員の任期満了で、それまでに都議選があり、そのまま東京五輪になる。それが終わると、もう9月30日の安倍自民党総裁の任期が間近で、そこまで政権が続いていたとしても、安倍はたぶんクタクタ、ボロボロで、とても解散を打つだけのエネルギーは残っていないし、衆院議員としてもそんな安倍と心中するような選挙などやりたくない。当然、総裁選を早めに行って新総裁を選び、その下で10月21日の任期満了までの間に総選挙を打つことになる。議員心理として、ダメな安倍とできるだけ対極にある新総裁の下で選挙をやりたいので、石破茂政権になる可能性が大きい」と。

 だとすると、安倍がどうしても自分の手で総選挙をやりたければ、来年7月の都議選より前、それもできるだけ大きく間を空けて、今秋か、来年早々の通常国会冒頭あたりしかチャンスがないということか。
「秋ではまだコロナウイルス禍は収まっていないどころか、冬にかけてもっと深刻な第2波、第3波が襲ってくることを警戒しなければならないし、その真っただ中で国際五輪委が言い出しているように、来夏の五輪が開催できるかどうか最終判断を下さなければならない。そうでなくとも来年にかけては経済がめちゃくちゃになっていて、その対策に大わらわで、選挙どころの話ではないだろう。だから下村委員長の言う通りで、限りなく任期満了に近くならざるを得ない」と、彼は断言する。

 解散・総選挙を打つ力もなくなった総理には誰もついていかない。
「だから、自民党の特に衆院議員は早々と今年9月にも安倍を見限ったほうが傷が小さいと考えるんじゃないの」とベテラン秘書は予測するのである。

 高野孟  ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。


社説 種苗法の改正 農家の不安解消が先決だ
毎日新聞 2020年6月4日
 ブランド農作物の海外流出防止を掲げた種苗(しゅびょう)法改正案は、今国会での成立が見送りとなりそうだ。農家の一部に根強い不安がある中、十分な審議時間を確保できないためだ。 
 ブドウのシャインマスカットやイチゴのあまおうなど、国内で開発された種苗が海外に持ち出され、現地ブランドで栽培される事例が相次いだ。改正案は、新品種を開発した育成者が栽培地を指定できるようにして、流出を防ぐ。 
 焦点は、農家が収穫物から種を取り出して収穫を繰り返す「自家増殖」の制限だ。現在は原則自由だが、育成者の許諾なしには行えない仕組みに変え、種苗の管理を徹底する。 
 これに対し、自家増殖をしている農家は、許諾料などで種苗の費用が高騰しないか心配している。 
 女優の柴咲コウさんがツイッターで問題提起し、注目を集めた。 
 背景には、品種開発の担い手を公的機関から民間に移す規制緩和を、政府が進めていることへの警戒感がある。 
 例えば、都道府県がコメなどの種子を安定的に供給するよう定めた主要農作物種子法が2018年に廃止され、「多国籍企業が参入して国内市場が寡占状態になり、種苗価格をつり上げるのではないか」といった疑念を招いた。

 自家増殖が規制されるのは品種登録されたブランドだけで、全体の約1割にとどまるという。営利目的でない農業試験場などの公的機関が保有する種苗も多い。このため農林水産省は「農家の負担はほとんど増えない」と説明する。 
 ただ、懸念を打ち消すための取り組みは十分とはいえない。 
 不公正取引の監視体制を強化するなど、農家の不安を解消する手立てが求められよう。種苗の価格交渉を農家に代わって農協がまとめて行い、交渉力を高めるといった工夫も必要だ。 
 そもそも、品種開発には10年単位の期間と多額の費用がかかる。育成者も適正な利益を得ないと開発を続けられないのは確かだ。それでも、農家の収量や販売が増えて所得が増えるような関係を築かなければ、理解は進まない。 
 農家ばかりに負担が集まる制度にならないよう、徹底した議論を求めたい。