日刊ゲンダイの「注目の人 直撃インタビュー」コーナーに、児玉龍彦・東大名誉教授(元東大先端科学研教授)が登場しました。
児玉氏はこれまで、「世界は、感染症の流行に対しては遺伝子工学を元に膨大な検査をして情報を追跡をする手法に移っていたのに、(日本の専門家会議は)その流れが理解できず、昔風の対策に拘った結果 今回の失敗が起きてしまった」
などと、政府や専門家会議を手厳しく批判しています。
今度のインタビューでも 児玉氏は「PCR検査を大量に実施すれば医療体制が崩壊するといった世界でも例を見ない暴論」と、専門家会議の主張を一蹴しています。胸のすく明解さです。
いまだにクラスター班の活動を過大評価し、PCR検査を抑制してきたことに何の反省も示していない専門家会議や安倍政権で、果たして第2波が乗り切れるのか大いに疑問です。
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注目の人 直撃インタビュー
児玉龍彦氏「21世紀の感染症対策は精密医療で実態把握を」
日刊ゲンダイ 2020/06/15
新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の全域解除から2週間。安倍政権の号令は「人との接触機会8割削減」から「新しい生活様式」へシフトしたが、コロナ禍収束の気配はない。政府は感染実態を把握しているのか。現状のコロナ対応で出口は見えるのか。当初から疑問を投げかけ、独自に抗体検査に乗り出した専門家に聞いた。
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――「政府と専門家会議の対策は0点」「全国一律のステイホーム要請はナンセンスの極みで日本を滅ぼす」などと政府や専門家会議の対応を手厳しく批判しています。
国民を守るための仕組みが考え抜かれていません。緊急事態宣言の発令で何をしたかといえば、ステイホームを呼びかけるだけ。外出自粛を求められても、活動を制限できない職種がある。病院、高齢者施設、警察や郵便局などの社会インフラを支える人たちで、ステイホーム中にこうした集団に感染が急激に潜り込んでしまいました。コールセンターもそうです。かたや、休業を余儀なくされて事業は追い込まれ、失業者が増えています。非感染者同士の接触を避けるだけでは、感染抑止はできません。
――どんな対策が必要なのでしょうか。
感染症対策の基本は感染者がどこに集まっているかを把握し、感染集積地と非集積地を分ける。さらに、非感染者の中で感染したら危険な人を選り分けることです。高齢者、がんなどの疾病を抱える患者。インフラ関連の仕事に従事している人、高齢者と同居している人、介護関係者、妊婦も要注意です。これらがなされていないことが一番の問題だと思っています。まず、感染集積地に非集積地から医療資源をまとめて投入する。都道府県といった大まかな単位ではなく、集団感染が発生している各地の病院や高齢者施設、コールセンターに資源を集中させるのです。
――新型コロナ発生地の中国・武漢では都市封鎖が実施され、2週間ほどで1000床の病院を新設。4万人を超える医療スタッフが現地入りしたとされています。
感染制圧の対策が徹底していました。20世紀の感染症対策はビッグデータ方式でしたが、21世紀はプレシジョン・メディシン(精密医療)です。検査、診断、陽性者の追跡を精密に行う。それには、包括的かつ網羅的な検査体制をつくり、感染実態を正確に把握することから始めなければなりません。東京都のPCR検査態勢は最大でも1日1万件ほど。ですから、抗体検査で感染集積地を網羅的に把握し、集積地でPCR検査を徹底するのが現実的です。学校や会社、病院、高齢者施設などで抗体検査を実施し、症状のある人や抗体陽性者が多いエリアをPCR検査にかけるのです。
定期健診に抗体検査を組み込む
――先端研などが参加する研究チームが都内の医療機関で先月採取した1000人分の抗体検査を実施したところ、0・7%にあたる7人が陽性だったとの結果が公表されました。
都内で9万人超が感染したとの推計になりますが、妥当な数字だと思います。東大、慶応大、阪大などの研究者が集まって「新型コロナウイルス抗体検査機利用者協議会」を立ち上げ、プロジェクトの一環として抗体検査を進めています。健康診断で血液を採取されますよね。その残余血清1㏄以下で抗体検査は可能で、感染から2週間経てば抗体を100%検出できる。春の定期健診に組み込む体制をつくるタイミングだと考えています。
――抗体検査では感染の有無のほかに、どんなことが分かるのですか。
重症化しそうな人の判定に抗体反応が極めて有効だということが分かってきました。抗体には感染初期のウイルス増殖中に増えるIgMと、感染後に出現するIgGがあり、早期にIgMが上昇するとサイトカインストーム(免疫の暴走)を招いて重症化する可能性が高い。一方、IgMが正常化した人はPCR検査で陰性と判定され、高い数値が続いている間はウイルスを排出していることも分かります。治療方針がはっきりと定義されてない点も大きな問題です。新型コロナは一部の人にとっては、致死的なウイルス。陽性と診断したら、直ちに(抗インフルエンザ薬として開発された)アビガンを投与する仕組みをつくらなければいけません。
――抗体検査では感染の有無のほかに、どんなことが分かるのですか。
重症化しそうな人の判定に抗体反応が極めて有効だということが分かってきました。抗体には感染初期のウイルス増殖中に増えるIgMと、感染後に出現するIgGがあり、早期にIgMが上昇するとサイトカインストーム(免疫の暴走)を招いて重症化する可能性が高い。一方、IgMが正常化した人はPCR検査で陰性と判定され、高い数値が続いている間はウイルスを排出していることも分かります。
治療方針がはっきりと定義されてない点も大きな問題です。
――新型コロナ治療薬候補のアビガンについては、政府が目指していた5月中の承認は見送られ、臨床研究や治験が継続されています。
このウイルスは平均11日間存在するのですが、アビガンの投与で4日間に縮められることが明らかになっています。感染期間の短縮は重症化防止につながる。ただ、動物実験で催奇形性が認められていますので、妊娠の可能性がある場合、男女ともにアビガンの血中濃度が高い間は留意が必要です。それから、感染から2週間の早い段階でIgMが高くなる患者は免疫反応が暴走しやすいので、(関節リウマチ治療薬として開発された)免疫を制御するアクテムラを早期に投与する必要があります。
行政官を排除し専門家会議をプロ集団に
――国内で感染1例目が判明してから5カ月。いまだに政府の治療方針が確立されず、場当たり対応が続いているのはなぜなのでしょうか。
行政側の官僚は無謬性に縛られ、事後に責任を問われるリスクを恐れて多数意見を重んじる傾向がある。彼らが新たな判断をするのは難しいのですから、専門家が方針を決定しなければなりません。それも形式的な専門家ではなく、分子生物学や免疫学、内科学、呼吸器病学、あるいは集中治療の方法に詳しい人材が集まらないと決められない。ところが、専門家会議のメンバーは、どなたも抗ウイルス剤の開発に携わっていない。だから、アビガンを重症者に効果を見るために投与するといったトンチンカンな判断がまかり通っている。
PCR検査を大量に実施すれば医療体制が崩壊するといった世界でも例を見ない暴論が言われ、検査を制限したために隠れ感染を増やしてしまった。キチンとした専門家会議は行政官を排除して、少数意見を評価できる専門家の議論として進められるものです。これは世界のあらゆる専門家会議に共通する重要な事項です。
東アジア沿岸部に未知のコロナ免疫の可能性
――麻生財務相の国会答弁が波紋を広げています。日本の死者が少ないとの認識に立ち、その理由は「民度のレベルが違うから」だと。そもそも、国内の死者は少ないと言えるのでしょうか。
人口100万人当たりの日本の死者は、東アジアで一番多いです。中国の倍以上であることを見ておかなければなりません。東アジアで展開されているように、遺伝子工学と情報科学を駆使し、感染者ごとにGPSで匿名追跡できるシステムの導入が日本にも求められます。例えば、陽性者には「パンデミック番号」を付け、個人が特定されるマイナンバーや健康保険証番号などと結びつけないで管理する。ウイルスを排出する感染者は、非常に重い社会的責任を負うことを自覚していただき、納得してもらった上で、人権問題にも配慮して追跡システムを整備するのが必須だと思います。その一方で、日本や中国、韓国、台湾などの東アジア沿岸部は、過去にコロナファミリーの何らかのウイルスに感染し、免疫を持っている可能性が浮上しています。抗体検査ではまずIgMが出現し、遅れてIgGが現れるというのが免疫学的なイロハなのですが、都内の調査では、最初からIgGが出た検体がほとんど。つまり、すでにコロナファミリーに曝露されている人が多い可能性があるということなのです。日本ではSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の感染者は少なかったといわれていますが、類似のコロナウイルスが流行していた可能性も否定できないと思っています。こうした実証的なデータを増やし、それを生かしてキッチリとした対策を立てることが急がれます。
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)
▽こだま・たつひこ 1953年、東京都生まれ。77年東大医学部卒業、84年医学博士取得。東大先端科学技術研究センター教授、東大アイソトープ総合センター長などを経て18年から現職。東大名誉教授。