2016年3月1日火曜日

民放テレビ・キャスター7氏が「怒り」の声明

 安倍政権になってから日本のテレビ・ニュースキャスターが政治的な圧力を受けて降板する例が後を絶たず、この3月には国谷氏・古館氏・岸井氏などが相次いで降板します。
 これには海外のメディアも注目していて、英経済誌「エコノミスト」は、「日本のニュースキャスター“トリプル追放”」と題して、国谷氏・古館氏・岸井氏3氏が政権に忌避された結果番組から去ることになった事例を紹介しています。
 米英のメディアも決して体制側の意思から独立しているとは言えないのですが、その彼らからも奇異に見られるほどに、日本のメディアは権力との関係において卑屈さを極めています。改めて日本のメディアの権力からの独立性が世界で61番目と評価されている現実を自覚させられます。
 
 そうしたなかで29日午後、民放テレビ・ニュースキャスター7氏田原総一朗、鳥越俊太郎、岸井成格、大谷昭宏、金平茂紀、田勢康弘、青木理が記者会見し、高市早苗総務大臣が、放送局が政治的不公正を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる可能性について言及しことについて、「私たちは怒っている」とする声明を発表しました。
 
 記者会見で岸井氏は、「政権の言う“公平公正”とジャーナリズムの“公平公正”とは違うもの。権力は絶対ではない。メディアはチェックし、暴走にブレーキをかけて止めなければならない」と述べました。
 また鳥越氏「これほどメディアに攻勢をかけている政権はかつてなかった」と金平氏は「このままではテレビが政権批判しなくなり、旧ソ連や北朝鮮と同じになってしまう」と述べました。 
 
 以下に「キャスター7氏の声明」と、英国紙の報道を紹介したあいば達也氏のブログ「日本メディアは政府とベッドイン 高市の電波停止とキャスター追放」、それにLITERAの「キャスター7氏の声明」の予告記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
< 声 明   私たちは怒っている >
 
高市総務相の「放送電波停止」発言は「憲法と放送法の精神に反する」
 
 今年2月8日と9日に、高市早苗総務大臣が衆院予算委員会で「放送局が政治的不公正を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。だれが判断するかは、同23日の答弁で「総務大臣が最終的に判断する」と明言している。 
 
 私たちはこの一連の発言に驚き、そして怒っている。公共放送にあずかる放送局の電波は、国民のものであって、所管する省庁のものではない。所管大臣の「判断」で電波停波などという行政処分が可能であるなどという認識は、「放送による表現の自由を確保すること」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」をうたった放送法(第一条)の精神に著しく反するものである。さらには放送法にうたわれている「放送による表現の自由」は憲法21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する」の条文によって支えられているものだ。 
 
 高市大臣が処分のよりどころとする放送4条の規定は、多くのメディア法学者の間では、放送事業者が自らを律する「倫理規定」とするのが通説である。また、放送法成立当時の経緯を少しでも研究すると、この法律が戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由独立の確保が強く企画されていたことが分かる。 
 
 私たちは、テレビというメディアを通じて、日々のニュースや情報の市民に伝達し、その背景や意味について解説し、自由な議論を展開することによって、国民の知る権利に資することをめざしてきた。テレビ放送が開始されてから今年で64年になる。これまでも政治権力とメディアの間では様々な葛藤や介入・干渉があったことを肌身を持って経験してきた。 
 
 現在のテレビ報道を取り巻く環境が著しく「息苦しさ」を増していないか。私たち自身もそれがなぜなのかを自らに問い続けている。「外から」の放送への介入・干渉によってもたらされた「息苦しさ」ならば跳ね返すこともできよう。だが、自主規制、忖度、委縮が放送現場の「内部から」拡がることになっては、危機は一層深刻である。私たちが、今日ここに集い、意思表示する理由の強い一端もここにある。 


<呼びかけ人>(五十音順 2月26日現在)
青木理、大谷昭宏、金平茂紀、岸井成格、田勢康弘、田原総一朗、鳥越俊太郎

日本メディアは政府とベッドイン 高市の電波停止とキャスター追放 
世相を斬る あいば達也 2016年2月28日
出来の悪い女形役者のような高市総務大臣が、媚でも売るような視線を向け、記者の質問に答える様には、身の毛がよだつ。まあ、それは、個人的肌感覚なので、さて置くとして、この問題は、本来、民主主義国家の、いろはに属する問題なのだから、朝日、毎日、東京、しんぶん赤旗、日刊ゲンダイなどは、連載特集を組んでも良いようなテーマである。官邸のドギツイ圧力に屈して、古賀茂明、古館一郎、岸井成格、膳場貴子、国谷裕子と、時の権力の問題点に焦点を当てる番組のキャスター、コメンテータが追放の憂き目に遭っているのだ。これが、日本流の民主主義なのだろうか。 
 
英経済誌エコノミストは「日本のメディアは常に政府と仲良くやってきて、今ではベッドを共にしている」エコノミストクラスに、このような屈辱的評価を受けているのが、日本のメディアだと云うことを、我々日本人は、肝に銘じておくべきだ。「日本のニュースキャスター“トリプル追放”」“クロ現の国谷さんは、菅官房長官に対するインタビューが原因」とまで書かれている。ガーディアン紙も「Japanese TV anchors lose their jobs amid claims of political pressure 政治的な圧力の中で仕事を失うTVキャスターたち」と大見出しで報道している。インディペンデント紙も報じていた。イギリスでは、俺たちの国の方がマシみたいだねと云うツイートが拡散している。 
盛田隆二さんのツイッターは、≪この英国「エコノミスト」の “Anchors away” という見出しが秀逸。ニュース・アンカー(錨の意味)に引っかけて、「日本の錨が流される」として、国谷氏・古館氏・岸井氏が安倍政権の報道介入により番組降板となった経緯を伝えている≫そうか、情報の閉鎖空間に強く追い込まれ、錨を失い、太平洋を漂うと云う、象徴的表現だ。海外から見た日本と云う国は、中国・北朝鮮と同一レベルにあると思われているのだろう。権力に歯向かう意味では、韓国のマスメディアの方が感情的だが、社会の木鐸度はある。   (後 略)
 
 
高市早苗の“電波停止”発言に池上彰が「欧米なら政権がひっくり返る」と批判! 田原総一朗、岸井成格らも抗議声明
LITERA 2016年2月29日
 高市早苗総務相が国会で口にした「国は放送局に対して電波停止できる」というトンデモ発言。これに対して、ジャーナリストたちが次々と立ち上がりはじめた。
 まずは、あの池上彰氏だ。民放キー局での選挙特番のほか、多数の社会・政治系の冠特番を仕切る池上氏だが、2月26日付の朝日新聞コラム「池上彰の新聞ななめ読み」で、高市大臣の「電波停止」発言を痛烈に批判したのだ。
 池上氏は、テレビの現場から「総務省から停波命令が出ないように気をつけないとね」「なんだか上から無言のプレッシャーがかかってくるんですよね」との声が聞こえてくるという実情を伝えたうえで、高市発言をこのように厳しく批難している。
〈高市早苗総務相の発言は、見事に効力を発揮しているようです。国が放送局に電波停止を命じることができる。まるで中国政府がやるようなことを平然と言ってのける大臣がいる。驚くべきことです。欧米の民主主義国なら、政権がひっくり返ってしまいかねない発言です。〉
 
 池上氏がいうように、高市発言は、国が放送局を潰して言論封殺することを示唆したその一点だけでも、完全に国民の「知る権利」を著しく侵犯する行為。実際、海外では複数大手紙が高市大臣の発言を取り上げて問題視、安倍政権のメディア圧力を大々的に批判的しているとおり、まさにこれは、民主主義を標榜する国家ならば「政権がひっくり返ってしまいかねない」事態だろう。
 さらに池上氏は、高市発言に象徴される政府側の論理の破綻を冷静に追及。停波の拠り所としている「公平性」を判断しているのは、実のところ、政府側の、それも極端に“偏向”している人間なのだと、ズバリ指摘するのだ。
〈「特定の政治的見解に偏ることなく」「バランスのとれたもの」ということを判断するのは、誰か。総務相が判断するのです。総務相は政治家ですから、特定の政治的見解や信念を持っています。その人から見て「偏っている」と判断されたものは、本当に偏ったものなのか。疑義が出ます。〉
 
 まったくの正論である。とくに、高市氏といえば、かつて『ヒトラー選挙戦略』(小粥義雄/永田書房)なる自民党が関わった本に推薦文を寄せるほどの極右政治家。同書は、本サイトでも報じたとおり、ヒトラーが独裁を敷くために用いた様々な戦略を推奨するもので、堂々と「説得できない有権者は抹殺するべき」などと謳うものだ。こんな偏っている大臣がメディア報道を偏っているかどうか判断するというのは、恐怖でしかない。
 
 前述の朝日新聞コラムで池上氏は、他にも放送法は〈権力からの干渉を排し、放送局の自由な活動を保障したものであり、第4条は、その際の努力目標を示したものに過ぎないというのが学界の定説〉と解説したうえで、放送法第4条を放送局への政府命令の根拠とすることはできないと批判。〈まことに権力とは油断も隙もないものです。だからこそ、放送法が作られたのに〉と、最後まで高市総務相と安倍政権への苦言でコラムを締めている。
 念のため言っておくが、池上氏は「左翼」でも「反体制」でもない。むしろ良くも悪くも「政治的にバランス感覚がある」と評されるジャーナリストだ。そんな「中立」な池上氏がここまで苛烈に批判しているのは、安倍政権のメディア圧力がいかに常軌を逸しているかを示すひとつの証左だろう。
 
 そして、冒頭にも触れたように、「電波停止」発言に対する大きな危機感から行動に出たのは、池上氏ひとりではない。本日2月29日の14時から、テレビジャーナリズムや報道番組の“顔”とも言える精鋭たちが共同で会見を行い、「高市総務大臣「電波停止」発言に抗議する放送人の緊急アピール」と題した声明を出す。
 その「呼びかけ人有志」は、ジャーナリストの田原総一朗氏、鳥越俊太郎氏、岸井成格氏、田勢康弘氏、大谷昭宏氏、青木理氏、そしてTBS執行役員の金平茂紀氏。いずれも、現役でテレビの司会者、キャスター、コメンテーターとして活躍している面々だ。
 
 なかでも注目に値するのは、報道圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」から名指しで「放送法違反」との攻撃を受け、この3月で『NEWS23』(TBS)アンカーから降板する岸井氏も名前を連ねていること。本サイトで何度も追及しているが、「視聴者の会」の中心人物である文芸評論家の小川榮太郎氏らは安倍総理再登板をバックアップし、他方で安保法制や改憲に賛同するなど、安倍政権の別働隊とも言える団体だ。
 同会は『23』と岸井氏に対する例の新聞意見広告と並行して、高市総務相宛てに公開質問状を送付し、高市総務相から“一つの番組の内容のみでも、放送法違反の議論から排除しない”という旨の回答を引き出していた。これを経て、高市総務相は国会での「電波停止」発言を行っていたのだが、これは明らかに、安倍政権が民間別働隊と連携することで世間の“報道圧力への抵抗感”を減らそうとしているようにしか見えない。事実、高市総務相は国会でも、放送局全体で「公平」の判断を下すとしていた従来の政府見解を翻して、ひとつの番組だけを取り上げて停波命令を出すこともあり得ると示唆。ようするに、“すこしでも政権や政策を批判する番組を流せば放送免許を取り上げるぞ”という露骨な恫喝だ。
 
 何度でも繰り返すが、政府が保持し広めようとする情報と、国民が保持し吟味することのできる情報の量には、圧倒的な差がある。政府の主張がそのまま垂れ流されていては、私たちは、その政策や方針の誤りを見抜くことはできず、時の政権の意のままになってしまう。したがって、“権力の監視機関”として政府情報を徹底的に批判し、検証することこそが、公器たるテレビ報道が果たすべき義務なのだ。
 ゆえに、池上氏や、田原氏をはじめとするメディア人が、いっせいに「電波停止」発言に対して抗議の声を上げ始めたのは、他でもない、「国民の知る権利」をいま以上に侵犯させないためだろう。これは、親政権か反政権か、あるいは政治的思想の対立、ましてやテレビ局の「特権」を守る戦いなどという図式では、まったくない。「中立」の名のもと、政府によるメディアの封殺が完了してしまえば、今度は、日本で生活する私たちひとりひとりが、政府の主張や命令に対して「おかしい」「嫌だ」と口に出せなくなる。それで本当にいいのか、今一度よくよく考えてみるべきだ。
 
 高市総務相の「電波停止」発言は、メディアに対する脅しにとどまらず、国民全員の言論を統制しようとする“挑戦状”なのである。そういう意味でも、本日行われる「高市総務大臣「電波停止」発言に抗議する放送人の緊急アピール」に注目したい。 (小杉みすず)