宮崎日日新聞 2016年6月16日
◆問われるべきは首相の手法◆
参院選の公示が迫り与野党の舌戦が激しさを増している。改選1人区で共闘する民進、共産両党はじめ野党が「安保法制廃止」「憲法改正阻止」を訴えるのに対し、安倍晋三首相は「民共と、責任を持ってきた自民・公明両党の戦いだ」と衆院選のように有権者に政権選択を迫っている。
公示を前に考えたいのが、首相が参院選の目標に「与党で改選議席の過半数」を掲げ、消費税増税再延期について「国民の信を問いたい」と訴えた手法だ。
増税に関しては野党も延期を訴えたり、増税に反対したりしている。有権者にとっては何が問われているのか分かりにくい構図だ。
「数の力」で押し切る
首相はさらに「アベノミクスを加速させるか、後戻りさせるか」も争点だとした。議席目標が達成されれば、経済財政政策が正当化されるという理屈立てだ。
だが「再延期はしない」と2014年末に表明した公約との矛盾を、選挙により解消しようとする理屈には無理がある。
このやり方を黙認し続ければ、為政者が選挙を利用して白紙委任を得るという道を開きかねない。
首相はこれまでも、選挙に勝てば白紙委任されたかのように、大きな争点に掲げなかった政策も「数の力」を背景に押し切った。
特定秘密保護法や安全保障関連法成立の過程は記憶に新しい。
野党や国民から反対や慎重論があっても突き進めるのは、築き上げた「安倍首相1強」体制に自信を深めているためか。
増税の再延期を表明したのも通常国会閉幕後で、国会議論ばかりか政府、与党内でも十分な議論があったとは伝えられない。
参院選で問われるべきは、首相の政治手法ではないか。合意形成の過程を重視せず、選挙で幅広い裁量を得ようとする政治手法そのものを問い直す必要がある。
有権者に判断丸投げ
首相が今回こうした手法をとったのは、消費税増税の再延期と過去の公約の矛盾を、論理的に十分に説明できなかったからだろう。
「道半ば」と認めるアベノミクスの是非を争点化したのも、「増税再延期はアベノミクスの失敗の結果」という批判を封じ込めたいという思いがあるとみられる。
が、「与党で改選過半数」という目標を達成すれば「国民の信」が得られることになるというのはあくまで首相側の言い分である。
格差が深刻化する中、アベノミクスの検証作業は不可欠だ。消費税増税再延期も、将来にどんな影響を与えるか分析し、国民と共に考える道筋が大事だ。その過程を軽んじ、有権者に判断だけ丸投げしようとする姿勢は乱暴に見える。
また首相は1月、参院選の争点に改憲を掲げる考えを示したが、公約では短く触れただけだった。
ただ従来の手法を貫くならば、選挙の結果次第で改憲への動きを加速させるだろうと予想されている。有権者は認識しておきたい。