2016年6月26日日曜日

英のEU離脱は支配層の意図に反するもの、反グローバリスムの起点

 イギリス国民は僅差ながらEUからの離脱を選択しました。それに関してマスメディアの論調とは異なる二つの評論を紹介します。

 一つは「櫻井ジャーナル」で、「イギリスの支配層、ロスチャイルド家、ユダヤ系アメリカ人投資家ジョージ・ソロスなどが必死に残留するように国民を脅迫したものの、国民は離脱を選んだ。そもそもEUを仕切ってきたのは旧貴族の子弟たちで、EUは民主的組織とは言い難い」と述べ、EU・NATOを実質的に支配しているアメリカは、もしもEUからの離脱が増えてNATOが維持できなくなるようなことがあれば、何らかの軍事的工作を仕掛けてくる可能性があるとしています。
 
 もう一つは植草一秀氏のブログで、EU残留を主張していた資本家・支配者側に抗してイギリスの主権者たちEU離脱を決断したと高く評価し、これは強欲巨大資本が世界市場から収奪し尽くすのに好都合な「グローバリズム」の退潮の始まりであり、「反グローバリスムの起点」を意味しているとしています。
 
 マスメディアや評論家たちの論調は、英国民の選択に対してやや批判めいているように感じられますが、アメリカに全く迎合することのないこれらの二つの評論が、真実を言い当てているように思われます。

(註)BBCの関連ニュースを末尾に添付しました。
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EUからの離脱を問う英国の国民投票は欧米支配層の
意に反して離脱派が勝利、支配層は反撃へ    
櫻井ジャーナル 2016年6月24日
 6月23日にイギリスで実施されたEUからの離脱を問う国民投票は離脱派が勝利したようである。投票日の直前になって離脱を支持する人の率が急に伸び、残留を望んでいた支配層は慌てていた。そこでジェイコブ・ロスチャイルドやジョージ・ソロスのような富豪は有力メディアで離脱すると不利益を被ると庶民を脅迫、14日付けのフィナンシャル・タイムズ紙には、国民投票の結果を政府は無視できるという主張が掲載されている。16日には残留派のジョー・コックス下院議員が射殺され、日本のマスコミは今回の事件が国民投票に影響を与えるのは必至だと宣伝していたが、そうした動きは見られなかった。
 
 EUからの離脱はイギリス以外の国でも議論されている。EUは少なからぬ問題を抱えているからだ。例えば、EUへ参加した国々は移民の大量流入による財政負担の増大に苦しみ、労働環境は悪化、それに伴って犯罪が増大することになる。しかもイギリス以外の国は通貨発行権が剥奪され、自国の事情に沿った政策を実施することが困難だ。TTIP(環大西洋貿易投資協定)も人びとにEU離れを促しているだろう。
 
 EUは1993年のマーストリヒト条約発効に伴って誕生した。その前身であるEC(欧州共同体)について堀田善衛はその「幹部たちのほとんどは旧貴族です。つまり、旧貴族の子弟たちが、今ではECをすべて取り仕切っているということになります。」(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』集英社、1993年)と書いているが、その旧貴族をカネと暴力で支配しているのが米英の支配層EUは民主的と言い難い組織なのである。
 
 本ブログでは何度も書いてきたが、イギリスのロンドン(シティ)は金融の重要な拠点として機能、1970年代からロンドンを中心にしたオフショア市場/タックス・ヘイブンのネットワークを張り巡らせてきた。そのネットワークにはジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島、タークス・アンド・カイコス諸島、ジブラルタル、バハマ、香港、シンガポール、ドバイ、アイルランドなどが含まれている。この仕組みが築かれたことにより、スイス、ルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ベルギー、モナコなど古いタックス・ヘイブン(租税回避地)の重要度は低下した。
 ところが、数年前から富豪たちは資金をアメリカへ移動させ始めている。租税を回避し、表にできない資金をロンダリングするために巨大企業や富豪たちは資金をアメリカへ持ち込んでいるのだ。
 
 ロスチャイルド家の金融持株会社であるロスチャイルド社のアンドリュー・ペニーは昨年9月、サンフランシスコ湾を望む法律事務所で講演した中で、税金を払いたくない富豪は財産をアメリカへ移すように顧客へアドバイスするべきだと語っている。現在、最大のタックス・ヘイブンはアメリカなのである。
 
 こうしたことは政策として実行された。つまり、2010年にアメリカではFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)が発効し、アメリカ以外の国の金融機関はアメリカ人の租税や資産に関する情報をアメリカ側へ提供する義務を課す一方、アメリカは自分たちが保有する同種の情報を外国へは提供しないことにしたのだ。この結果、アメリカは強大なタックス・ヘイブンになり、ロンドンの存在意義は薄らいだ。イギリスはEUへ呑み込まれる運命にあったと言えるだろう。
 
 前にも書いたが、EUはヨーロッパを統合するという米英支配層の計画に基づいて作られた。1922年に創設されたPEUに始まり、第2次世界大戦後にACUEが作られ、その下にビルダーバーグ・グループもできている。
 1949年に創設されたNATOもこの計画に深く関係、その軍事同盟に吸収された秘密部隊は西ヨーロッパをコントロールするために破壊活動を行ってきた。中でも有名な組織がイタリアのグラディオで、1960年代から80年代にかけて極左集団を装って爆弾攻撃を繰り返している。(注)
 ソ連の消滅が視野に入った1991年にフランスのフランソワ・ミッテラン大統領とドイツのヘルムート・コール首相は「ヨーロッパ軍」を創設しようとしたのだが、この目論見をアメリカは潰している。NATOはアメリカ支配層の意思で動く軍事組織であり、EUの軍隊をアメリカは望んでいない
 
 今後、EU離脱国が増えてEU崩壊へ進むようなことがあると、NATOを維持することも難しくなる。そうならないよう、経済的な攻撃だけでなく、何らかの軍事的な工作を仕掛けてくる可能性もある。そのための「秘密部隊」だ。
 
【注】 CIAの破壊活動部門を後ろ盾とするグループが1962年8月にシャルル・ド・ゴール仏大統領暗殺を試みて失敗、その4年後にド・ゴール政権はNATOの軍事機構から離脱することを決め、翌年にはSHAPE(欧州連合軍最高司令部)をパリから追い出した。フランスがNATOへ完全復帰したのは2009年。 
 
 
反グローバリズム起点になる英国民EU離脱決定
植草一秀の「知られざる真実」 2016年6月24日
英国の主権者がEU離脱を決断した。
僅差での決定であるが、民主主義のルールは討論の末に多数決で決定するというものである。僅差でも決定は決定である。
参院選でも、僅差になる選挙区が多数出現する。このときの一票の重みは計り知れない。必ず選挙に行って投票しなければならない。
 
英国のEU離脱は、「グローバリズムの退潮の始まり」を意味する。「グローバリズム」とは、強欲巨大資本が世界市場から収奪し尽くすためのスローガンである。
「グローバリズム」によって利益を得るのは強欲巨大資本であって、市民は被害者になる。
「商品を安価に入手できる」ことで市民は騙されてしまいやすいが、「商品を安く入手できる」背後に、資本による市民=労働者からの収奪=搾取がある。「商品を安く入手できる」市民自身が搾取の対象になることを忘れてはならない。
 
英国のEU離脱を決定したのは英国の主権者である。
この問題の論議に際して、残留を主張していた中心は資本家である。資本の利益を追求する者がEU残留を求めた。
しかし、英国の主権者はEUからの離脱を求めた。EU離脱を求める理由として「移民の増加」が例示され、「移民の増加を嫌うEU離脱派は外国人排斥派である」とのレッテル貼りが横行した。これは、グローバリズムを推進する強欲巨大資本による情報操作である。
 
EU離脱の根本精神には、「自国のことは自国の主権者が決める」という民族自決の原則の尊重がある。第2次大戦後に世界中で広がった国家の独立は、「自国のことは自国の主権者が決める」というものだった。
この考え方が、正当に、そして当然の主張として、表面化しているに過ぎない。EU離脱派が「他国人排斥者」であると決めつけるのはあまりにも短絡的である。
 
安倍政権が国民を欺いて参加しようとしているTPPは、「日本のことを日本の主権者が決められなくなる条約」である。TPPがもたらすものは、「日本のことを強欲巨大資本=多国籍企業が決める」という多国籍企業主権体制である。
日本の主権者が賢明であるなら、こんな国家主権、国民主権を放棄する条約に加入するなどという選択はあり得ない。
欧州ではこれから、ギリシャのユーロ離脱、南欧諸国のユーロ離脱などの動きが活発化するだろう。
デンマークやオランダでも、自国の独立を重視する主張が勢いを増すことになる。
英国のEU離脱は、多国籍企業=強欲巨大資本による政界制覇戦略に対する、主権者の反攻の開始を意味する極めて意義深い決定である。
世界は大資本のために存在しているのではない。世界は、世界に生きる、それぞれの地域の、それぞれの人々のために存在する。それぞれの地域の人々が、それぞれの地域のことを、自分たちで決めようとするのは当然のことだ。
多国籍企業が世界を支配する正当性など、どこにも存在しない。
以下は有料ブログのため非公開
 
 
付 参考記事
 
 参考までにBBCニュースの記事「離脱派が勝った8つの理由」を紹介します。
 紙面の関係で、第1項以外は省略しましたので、興味のある方は記載のURLから原記事にアクセスしていください。
 
【英国民投票】 離脱派が勝った8つの理由
(英)BBCニュース 2016年06月25日
英国は23日の国民投票で、欧州連合(EU)離脱を決めた。離脱派はどうやって勝ったのか。
 
1. 「経済打撃」の警告が裏目に
最初はわずかだったものはすぐに大きな流れとなり、最後には洪水と化した。
「Brexit=英国離脱」で英国がいかに貧しくなるか、警告の上にも警告が相次いだ。しかしいかに警告の集中砲火を浴びても、国民は結局のところ、言われたことを信じなかった。そしてあるいは、その程度の代償は払う価値があるとも考えた。
CBI(英産業連盟)もIMF(国際通貨基金)もOECD(経済協力開発機構)もIFS(英財政研究所)も、まるでアルファベット・スープのような専門家たちが次々と、EUを離脱すれば経済成長はおぼつかなくなり、失業率は上がり、ポンドは急落し、英国のビジネスはEU外の無人地帯に放り出されると警告した。
イングランド銀行(中央銀行)は景気後退の懸念を示唆した。財務省は所得税増税が必要になる上、国民医療サービス(NHS)や教育費や国防費の削減も必要になると指摘していた。
その上さらに、もしEUを離脱すれば、米国との通商協定を望む国々の「列の最後尾」に英国は並ぶ羽目になると、オバマ米大統領はほのめかした。またEUのトゥスク大統領は、欧米政治文明の終焉を示唆した。
残留派の中にも、これはやりすぎだと、いわゆる「恐怖作戦」は手がつけられなくなってしまったと認める人たちはいた。一方で離脱運動は、離脱の影響を悪しざまに言うのは、私利私欲から英国を批判する無責任な金持ちエリートだと一蹴した。
しかし、専門家のアドバイスを国民の多くがこれほど積極的に無視したのは、単にエスタブリッシュメントへの反乱という以上の何かを思わせる。欧州の連合に50年近く関わったことの経済的メリットがさかんに喧伝されるが、自分たちはその恩恵を感じていない、置き去りにされていると感じる人が、実に多かったのではないかと思われる。
 
2. 「NHSに3億5000万ポンド」の公約が広く伝わった
   (略)
3. ファラージ氏が移民問題を主要テーマにした
   (略)
4. 国民が首相の言うことを聞かなくなった
   (略)
5. 労働党は有権者との接点を見つけられなかった
   (略)
6. 獰猛な大物2人――ボリス・ジョンソン氏とマイケル・ゴーブ氏
   (略)
7. 大勢の高齢者が投票した
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8. ヨーロッパはいつでも少し異質
   (略)