24日、英国のEU離脱を受けて日本は1ドル100円を割る円高に見舞われています。そんな日本が、世界各国と協調して「ドル売り介入」を実施するのは常識的に難しく、日本がもっとも英国のEU離脱の影響を被る可能性が大きいと言われています。
アベノミクスの唯一の効果であった円安=株高も、今年に入ってから円高=株安に反転しました。それは円安のための為替介入を米国が禁止したためと言われています。
この15、16日に行われた日銀の金融政策決定会合で結局何の有効策も打ち出せなかったのも、やはり米国の掣肘によるものでした。
安倍政権は中国等とは違い米国の言うことには全面的につき従うという態度なので、その意味からも「アベノミクスによる円安=株高誘導はもう終わり」ということです。
株安によってすでに昨年度(3月末)で公的年金の積立金を5兆円失いました(7月末公表予定)。
今年度の下げ幅は昨年度の比ではないので年金積立額の喪失が昨年度を大幅に上回るのは明らかです。政府はどう責任をとる積もりでしょうか。
この際、外圧によってアベノミクスのまやかしを改めるというのは、むしろ虚妄のアベノミクスを継続するよりは望ましいことです。
それにしても安倍政権は一体どのようにしてアベノミクス=異次元金融緩和を着地させようとするのでしょうか。
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金融政策はもう限界!?
アベノミクスの円安誘導はもう終わったのか?
THE PAGE 2016年6月22日
為替市場で急激な円高が進んでいます。日本は量的緩和策に加えて、マイナス金利まで導入し、金融政策を進めてきましたが、もはや効き目はなくなってしまったのでしょうか。
■これまでのアベノミクスが行ってきた円安誘導は?
量的緩和策は、日銀が積極的に国債を購入することで市場にマネーを供給し、インフレ期待を生じさせることで、企業の設備投資などを活発にしようという政策です。量的緩和策の導入直後は、実際にインフレ期待が発生し、株高と円安が進行。物価も順調に上昇するかに見えました。
量的緩和策がスタートした2013年4月時点では、消費者物価指数(「生鮮食品を除く総合(コア指数)」)は前年同月比マイナスでしたが、すぐにプラスに転じ、消費税が8%に増税された直後の2014年5月にはプラス1.4%(消費税の影響除く)まで上昇しています。
しかしその後、物価上昇率は鈍化傾向が顕著となり、最近ではマイナスとなる月も増えてきました。日銀は量的緩和策を補完する目的で、2016年1月にマイナス金利政策を導入しましたが、これは完全に逆効果となっています。日銀が購入できる国債の量には限度がありますから、追加緩和を決定してしまうと、もう後がありません。アベノミクスはかなり厳しい状況に追い込まれたとみてよいでしょう。
■金融政策はもう打つ手なし? 次はどうする?
各国の投資家にとって、日本の金融政策が手詰まりになっていることは共通認識となっており、為替市場では投機的な円買いが進んでいます。日本政府は一時、為替介入で円高を阻止することを画策しましたが、米国などが強く反発したことで、これを断念したという経緯があります。
追加緩和もできず、介入もできないということになると、日本には円高を阻止するための手段が存在しません。米国の追加利上げ見送りでドル高にはなりにくい状況ですから、当分の間、円が買われる傾向は続くでしょう。日本企業の業績が好調だったのは、円安による見かけ上の売上高の拡大が主な要因でしたから、円安が止まってしまうと、今期以降の業績も伸び悩むことになります。日本株もしばらくは軟調な展開が続く可能性が高いと考えられます。
国内では金融政策が効かなくなってきたことから、再び財政出動の強化が模索されています。しかし、バブル崩壊以降、20年にわたって巨額の財政出動を繰り返したにもかかわらず、日本経済はほとんど成長することができませんでした。日本の経済構造が大きく変わったわけではありませんから、財政出動に戻ったところで効果は限定的でしょう。むしろ日本の財政問題が意識され、将来の金利上昇とインフレ・リスクを高めることにつながりかねません。 (The Capital Tribune Japan)
英国EU離脱で日本は英国以上に厳しくなる
日経平均1286円安、16年2カ月ぶりの下げ幅
東洋経済オンライン 2016年6月24日
■英国EU離脱 で日本は英国以上に苦しい立場に?
23日に英国で実施されたEU離脱の是非を問う国民投票は、大方の予想を裏切る「離脱」という結果となった。
日本時間22日夜、投票開始直後に発表された「残留優勢」との世論調査を受け、「残留」を前提にリスクオンに動き出した金融市場は、開票が進み「離脱優勢」が明らかになるにつれ、英国ポンドが10%程度の下落に見舞われるなど大荒れの展開となった。
こうした市場の混乱を受け、円も一時100円割れと大幅な円高となり、24日の日経平均株価も1万4952円と1286円安で終了。一時は1300円を超える下落に見舞われた。
金融市場が大きな混乱に見舞われたのは、残留派であったジョー・コックス下院議員の殺害事件や、直前に出された「残留優勢」という世論調査結果によって、情勢が明らかになる前に市場がリスクオンに走り、「離脱」に備えたポジション(リスクオフ・ポジション)が調整され、金融市場が「丸腰」で予想外の結果に立ち向かうことになったからである。
今回の英国国民投票の結果を受けた金融市場の混乱について認識しておかなければならないことは、金融市場の短期的な反応と、今後の英国及び世界経済の影響は分けて考える必要があることだ。
想定外の結果にもとづく足元の金融市場の混乱は、あくまで国民投票という政治的イベントに対するものであり、必ずしもEU離脱に向かう英国や世界経済の悪化懸念を現したものではないというところ。
専門家の中には、英国のEU離脱がリーマン・ショック以上の危機を招くと危機を煽る人もいるようである。しかし、リーマン・ショックは「金融的ショック」であるのに対して、今回の件は「政治的ショック」であり、全く別種のものである。
■英国はもともとユーロに入っていない
確かに、英国がEU離脱に向かうことで、EUというこれまでの秩序が崩壊することは事実であるし、キャメロン首相が窮地に追い込まれることで、英国が政治的に不安定になる可能性も否定できない。
しかし、EU離脱とユーロ離脱を同一視してはならない。
英国がユーロ採用国であれば、英国のEU離脱は欧州や世界経済に大きな打撃を与えることになる。しかし、幸いなことに英国は1992年に「イングランド銀行を打ち負かした男」ジョージ・ソロスに打ち負かされたおかげで、共通通貨ユーロを採用しないで済んでいるし、完全変動相場制を採用している。
英国がEU離脱することで人やモノの移動に制約が加わることを懸念する声が強いが、カネの移動にはもともと制約があり、カネの移動という面においては何も変化がないことは無視されている。
ポンドという独自の通貨を持っている英国は、ポンド下落という為替の調整によって関税等の障壁を補うことが可能である。ここが、為替の調整が出来ないユーロ採用国との決定的な差である。
一部からは、英国のEU離脱が離脱の連鎖を起こすという懸念もあがっているが、ユーロ採用国がEU離脱をする際に支払う代償は英国とは比較にならないものだという現実を考えると、離脱連鎖が起きる可能性は言われているほど高くないと考えるべきだろう。
英国民がEU離脱を選択した今、直近の問題は金融市場の混乱がおさまるかである。
英国のEU離脱に対する金融市場の混乱に対して、主要国がドル資金緊急供給の検討をしていることが報じられている。ドル資金緊急供給が為替の介入によって行われるのか、金融機関への貸付で行われるのかは定かではないが、どのような対応がなされるかが注目されるところだ。
■日本がもっとも英国のEU離脱の影響を被る可能性
問題は、ドルの緊急供給という国際協調体制の中で、日本がどのような形で参加するかだ。
為替介入でドル資金を市場に供給するとしたら、「ポンド買い・ドル売り」或いは「ユーロ買い・ドル売り」を実施することになる。しかし、英国のEU離脱を受けて1ドル100円を割る円高に見舞われている日本が、世界各国と協調して「ドル売り介入」を実施するのは常識的に難しい。
日本がドル売り介入をすることは難しいとしたら、日本が実施できるのは米ドル資金供給オペということになる。しかし、この方法は、足元で進む円高の即効薬にはならないし、世界の主要国が「ドル売り」という協調介入に動くとしたら、それ自体が円高圧力になりかねない。
これまで日米では為替市場で進む円高が「秩序的」であるか否かで対立してきた。こうした中、日本は英国のEU離脱によって世界の「秩序」が揺らぎ円高になっているにもかかわらず、介入で対応できない状況に追い込まれる可能性が出てきている。
英国国民がEU離脱を選択したことによって、最も苦しい立場に立たされたのは、英国ではなく日本なのかもしれない。