2016年6月3日金曜日

増税延期の会見で、「アベノミクスのエンジンふかす」と安倍首相

 安倍首相は消費税増税の先送りを決め1日の記者会見で発表しました。
 増税の延期(本来は中止)そのものは当然のことなのでそれに反対する人は少数だと思いますが、かつて「平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします」と大見えを切っていたので、どういう説明をするのか注目されました。
 説明は、「リーマン・ショックのような危機とは異なるが、新興国や途上国が落ち込み世界経済は大きなリスクに直面しているので、それに備える必要がある」と「リスク」を強調し、サミットでの合意も踏まえあらゆる政策を総動員するということから、マイナス要因になる増税は避ける」というものであったようです。
 
 何とも取ってつけたようなというか、無理にこじつけた理由であることは明らかです。「今回、再延期するという私の判断は、これまでとは異な新しい判断」とか、「税こそ民主主義」という意味不明の言葉も出たということです。
 驚かされるのはすでに破綻らかなアベノミクスをまたもや正当化して、「アベノミクスのエンジンを最大にふかし、こうしたリスクを振り払う」と述べたことです。
 異次元緩和によって一度は円安を達成したものの、正月を境にして円高に転じたため、年金積立金運用機構(GPIF)は昨年までの運用益をすべて食いつぶして、3月末で5・5兆円の損失を出しました。 また日銀が買い取り続けた国債は実に350兆円に達しています。そんなこんなで安倍首相は定めし頭を痛めているのではないかと思ったのですが、ナントも意外な展開となりました。正気なのかと思ってしまいます。
 
 これまで「異次元緩和」以外には何もしてこなかった安倍首相「総合的かつ大胆な経済対策をこの秋、講じる考え」としたのは余りにも当然なのですが、実はその前段に「アベノミクスの3本の矢をもう一度力いっぱい放つため」と前置きがあったので「アベノミクス以外」に向かおうとしたのではなかったことが分かりました。それでは何の希望もありません。
 アベノミクスの否定・批判は、国内は勿論のこと、海外の著名紙や識者たちも行っています。
 いずれにしても安倍首相は、「新たな判断」は「公約違反」ではない、文句があるなら参院選で示して欲しいと居直りました。ボールは国民の側にあると言えます。
 LITERAの記事を紹介します。
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「新しい判断」で失笑の安倍首相が「アベノミクスのエンジンふかす」と
 ・・・実態は“空ぶかし”で排ガスまき散らすアベノミクス
LITERA 2016年6月2日
 よくもまあこれだけウソばかり並べ立てることができるものだ。昨日、安倍首相が消費増税を2019年10月まで2年半先送りにすることを正式に発表した会見のことだ。
 これまで一貫して「増税延期はない」と強調してきたが、参院選を見込み、消費税率引き上げ先送りを打ち出す必要に迫られていた安倍首相は、G7を利用するかたちで“世界経済はリーマンショック級の危機”なる珍説を世界に披露。これが海外で失笑を買うと、今度は「私がリーマンショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、まったくの誤りである」と、誰にでもわかる大ウソをつきはじめた。
 そして、昨日の会見では「私たちが現在直面しているリスクはリーマンショックのような金融不安とはまったく異なります」としながらも、「しかしリスクには備えなければならない」と言って消費増税の先送りの理由としたのだ。
 いや、どんなときだってリスクの可能性はある。そういう言い訳が通用するなら、増税は未来永劫行うべきではないはずだが、増税の必要性を訴えてきたのは当の安倍首相であり、“アベノミクスで消費税を引き上げる環境が整っていく”と述べては「増税先送りはない」と断言した先の総選挙の明確な公約違反だ。
 
 しかも、言うに事を欠いて、安倍首相ははっきりこう述べた。
「今回、再延期するという私の判断は、これまでのお約束とは異なる、新しい判断であります」
 俺の決断は約束とは違っても“新しい判断”だから公約違反じゃない! ……って、そんなバカな話があるだろうか。そんなことを言い出したら、“俺が決めた新しい判断だから”と言えば、どんな選挙公約も覆せるではないか。有権者を愚弄するのも甚だしい。
 安倍首相は、最近の高支持率に気分をよくして、こうやって詭弁を弄すれば国民は騙されるとでも思っているのだろう。会見では「税こそ民主主義」なる珍言まで飛び出す始末だったが、安倍首相はこんなことも言っていた。
 
「いまこそ、アベノミクスのエンジンを最大にふかし、こうしたリスクを振り払う、一気呵成に抜け出すためには脱出速度を最大限まで上げなければなりません」
「最大にふかす」とはよく言ったものだ。アベノミクスのエンジンは完全に“空ぶかし”。エンジン音だけは威勢良く鳴り響いているが、排ガス並みに生活環境を害するものが撒き散らされるだけで、まったく前には進まない。
 
 繰り返し指摘されつづけているように、アベノミクスがすでに破綻しているのは明白な事実だ。アベノミクスにとって最大のキモは、まず富裕層を優遇して儲けさせ、その富の一部がやがて低所得者層にまで“したたり落ちてくる”トリクルダウン理論にあった。だが、これはトマ・ピケティ氏が「過去を見回してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」(東大講義)と一蹴したように、アベノミクスによって格差が広がっているのが現状だ。
 また、安倍首相は昨日の会見で、アベノミクスの成果だとして、賃金と有効求人倍率の高水準化を挙げ、「(増税のタイミングを誤れば)また20年間続いたデフレに戻る。『どんなに頑張ったって仕事がない』という状況に戻ってしまう。『どんなに頑張ったって給料があがらない』という状況に戻ってしまう」と、国民の不安を煽ったが、これはとんだペテンでしかない。求人倍率は求職者数が減っているため倍率が上がるのは当然で、問題は非正規雇用が増えたこと。いまは労働者派遣法改正によって、非正規雇用をさらに増やしかねない状態だ。さらに、正規雇用と非正規雇用の賃金格差は広がるばかりで、現に実質賃金はずっと下落している。これでは消費が伸びないのは当たり前だ。
 
 金融政策にしても同様だ。財政出動と金融緩和で景気が一瞬、上向いただけで、当初の目標だったデフレ脱却は果たせていない。こうした現状には、米ウォール・ストリート・ジャーナルが「日本経済の停滞に終止符を打つという首相の公約は達成できておらず、今こそ抜本的に再考しなければならない」と勧告(15年11月17日付)。 英ロイターでは、デンマークの投資銀行でデリバティブ取引の世界的大手・サクソバンクのCIO(最高運用責任者)にして主任エコノミストであるスティーン・ヤコブセン氏が「アベノミクスは失敗に終わったと思う。新・第3の矢は、もはや矢ではない。構造改革はどこへ行ったのか」「日本にはモーニング・コールが必要だ。長い眠りから呼び覚まされなければならない」(15年11月18日付)と断言するなど、海外メディアからも批判が集中している。
 
 増税の先送りは日本経済の現状を見れば当然のことだとしても、しかし、経済の行き詰まりの元凶は、アベノミクスにある。その責任を棚に置いたばかりか、失敗を認めたくないために“まだまだアベノミクスをつづける!”と宣言するとは、国の自殺行為ではないのか。しかも、社会保障については「(消費税を)引き上げた場合と同じことをすべて行うことはできないということはご理解をいただきたいと思います」と、安倍首相は切り捨てのための弁解をきっちり忘れていなかった。
 
 安倍首相は「アベノミクスの3本の矢をもう一度力いっぱい放つため、総合的かつ大胆な経済対策をこの秋、講じる考えです」と述べたが、これまでの失敗を考えれば、そんなものに期待できるはずがない。富裕層ばかりが優遇され、非正規雇用や社会的弱者はどんどん見捨てられていく。消費増税先送りという甘言に騙されず、参院選ではアベノミクスにNOを叩きつけなければいけないだろう。(編集部)