2018年8月9日木曜日

09- 公的マネー投入 株価つり上げに66兆5000億円

 円安に誘導し株価をつり上げ(買い支え)、その結果大企業と投資家を儲けさせる以外には何の効果ももたらさないアベノミクスがもう5年も続いています。
 株価のつり上げは日銀の資金(によるETF買い付け)と年金積立金が原資で、これまで投入した資金の総額は6月末で66兆5000億円に達し、東証1部の時価総額の1割以上に当たるということですまた公的マネーが「筆頭株主」となっている企業は東証1部上場企業全体で722社となっています。異常で硬直した事態です。
 しんぶん赤旗の集計で判明しました。
 
 特に日銀による国債の買い付けとETFの買い付けはもはや限度を越しているので、ゼロに向けて舵を切る必要があるのですが、たとえばETFの減額を示唆しただけでも、国債の金利は鋭敏に上昇に向かいます。
 7月30日・31日の日銀「金融政策決定会合」の結論を想定して、市場では23日から金利が上昇(国債の価格が下落)し出したので、日銀は7月23日、27日、30日と短期間に3回も「指し値オペ」(利回り=価格を指定して無制限に国債を買い入れる)を行い、30日には買い入れ額が過去最大の1兆6403億円にまで膨らんだということです。
 これはETF買い付け量を減らせば国債の価格が暴落(金利が暴騰)することを示すもので、購入額を漸減すること自体が難しいということです。これは当初から予想されたことなので、政府と日銀はどうしようというのでしょうか。
 
 しんぶん赤旗の記事と日刊ゲンダイの「異次元緩和に限界…」を紹介します。
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公的マネー投入 株価つり上げに66兆5000億円
アベノミクス 異常事態
しんぶん赤旗 2018年8月8日
 アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)によって国内株式市場に投入されている公的資金の時価総額が6月末時点で66兆5000億円に達していることが7日までにわかりました。東証1部の時価総額に占める比率も3月末時点の10・0%程度から10・3%程度に増えています。国内株の1割を公的資金が占め、株価をつり上げる異常事態です。本紙の集計でわかりました。
 株式を買い入れている公的資金は、日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。
 
 日銀は年6兆円のペースで株価指数連動型上場投資信託(ETF)を買い入れています。4月は株価が上昇基調だったため、日銀のETF購入はそれほど多くありませんでしたが、6月には株価が低迷。これを買い支えるために6月後半の2週間では10営業日のうち9営業日で日銀が買いに入るなど、大量のETF購入が行われました。この結果、6月末時点で26兆円以上の水準に達したと推計されます。
 
 一方、GPIFについては3日に4~6月期の運用状況が発表されています。これによると少なくとも3月末時点の保有株式を維持し、保有総額は3500億円程度、増やしていると考えられます。
 
 以上を踏まえると6月末時点で株式市場に投入されている公的マネーはGPIF40兆4000億円程度、日銀26兆1000億円程度と推計されます。公的マネーのほとんどは東証1部上場企業に向けられています。東証1部の時価総額の1割以上が公的マネーで占められていると推計されます。
 
 公的マネーが「筆頭株主」となっている企業は東証1部上場企業全体では3月末より12社増え、722社となっています。GPIFが単独で筆頭株主となっている企業が6社減となる一方で、日銀単独で筆頭株主となっている企業は7社増えました。
 
   公的マネーの推計投入額
 
 
 
18年3月末
18年6月末
  
 
  公的マネーの投入額
64・1兆円
665兆円
24兆円
 
 
GPIF
40・0兆円
404兆円
0・4兆円
 
 
 
24・1兆円
261兆円
20兆円
 
うち東証1部上場株
64・0兆円
664兆円
24兆円
 
東証1部の時価総額
638・6兆円
6440兆円
54兆円
 
東証1部の公的マネー比率
10・0%
10・1%
0・3ポイント
 
 
 金子勝の「天下の逆襲」  
異次元緩和に限界…「金利急騰」市場に翻弄される黒田日銀
日刊ゲンダイ 2018年8月8日
 海外の金利上昇の下でも無理な「異次元緩和」を続けてきた黒田日銀が、いよいよ「市場」に翻弄され迷走を始めた。日銀の「金融政策決定会合」が開かれた7月30日、31日を挟んで日銀を試すように金利(国債利回り)が急上昇した。
 
 金利が上昇したのは、異常な低金利に苦しむ金融機関を救済するために、日銀は金利上昇を容認するだろうと「市場」が判断したからだ。
 急上昇を牽制するために、日銀は7月23日、27日、30日と短期間に3回も「指し値オペ」を実施。「指し値オペ」とは、利回り(価格)を指定して無制限に国債を買い入れるというものだ。結局、30日には買い入れ額が過去最大の1兆6403億円まで膨らんだ。過去最大の規模だ。
 
 その際、日銀が金利(利回り)を抑えるために高値で国債を引き受けることを見越して、投機筋が国債の「空売り」で利益を得る事態が発生している。しかも、「空売り」するための国債を、結果的に日銀が1兆円も供給するというマンガのような状況になっているのだ。
 それでも、8月2日は長期金利の指標となる「新発10年物国債」の利回りが0.145%まで上昇した。1年半ぶりの高値(国債価格は下落)だ。慌てた日銀は2日午後、急きょ予定になかった異例の国債買いを通知。4000億円を買い入れるとした。事前予定なく国債を大量に買い入れるのは異例のことだ。金利の急上昇を阻止するために、日銀がなりふり構わず国債を買っている構図だ。
 
 なぜ、こうした異常な事態が起きているのか。低金利に苦しむ金融機関を救うためには、これ以上、異常な低金利は続けられない。かといって、金利が上昇すると国債利払い費が増加して日本の財政はもたなくなる。その矛盾を投機筋に突かれているのだろう。
 このまま金利上昇圧力が続けば、日銀が大量に持つ国債価格が急落し、いずれ巨額の不良債権となる恐れがある。
 本来、中央銀行の役割は、物価を安定させ、信用秩序を守ることだ。ところが、物価目標は達成できず、銀行経営を圧迫し、国債市場もマヒさせてしまった。日銀は、本来の役割を取り戻すべき時期に来ている。 
 
 金子勝  慶応義塾大学経済学部教授
1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。東京大学大学院 博士課程単位取得修了。 法政大学経済学部教授を経て。2000年10月より現職。TBS「サンデーモーニング」、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」などにレギュラー出演中。『資本主義の克服 「共有論」で社会を変える』集英社新書(2015年3月)など著書多数。新聞、雑誌にも多数寄稿している。