経産省は3月27日付の内部文書で、政治家ら省内外の人物と折衝した際に作成する公文書について「議事録のように個別の発言まで記録する必要はない」(誰が何と言ったか分からないよう、議事録を残してはいけない)と指示していたことを、30日、毎日新聞がスクープしました。
同文書には即日廃棄が謳われていて、説明に当たり「これから言うことはメモを取らないように」と前置きするという念の入れようでした。
これは、今後は誰が何を言ったかが記録からは分からないようにするという趣旨の改悪を、国民に隠したまま行ったということで、安倍首相が「公文書管理の適正を確保するため、必要な見直しを政府をあげて徹底的に実施する」と弁明し、「ガイドラインを改正し公文書管理の質を高める取り組みを行った」と強調したのは、真っ赤な偽りであったわけです。
取り敢えず経産省がクローズアップされた訳ですが、そもそも首相の最側近である今井尚哉首相秘書官を筆頭に、佐伯耕三首相秘書官、長谷川栄一首相補佐官らはみな経産省出身で、同省はリーダー的な存在となっているので、他の省庁もそれに倣う(倣っている)可能性は大きいと思われます。
毎日新聞の報道を受けて経産省は30日、問題の文書を公表しました(毎日新聞夕刊)。
共産党の志位委員長は30日の記者会見で、「極めて重大な内容だ。真相究明と責任の糾明を強く求めていきたい」、「骨抜きの事態が行われていたのが経産省だけだったのか。他の省庁ではないのかも含めて総ざらいの究明が必要だ」と述べ、国会の閉会中審査を行うよう求める考えを示しました。
毎日新聞の2本の記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
経産省 折衝記録「発言要らぬ」 内部文書、指針骨抜き
毎日新聞 2018年8月30日
政治家ら省内外の人物と折衝した際に作成する公文書について「議事録のように個別の発言まで記録する必要はない」などと記載した経済産業省の内部文書を毎日新聞が入手した。文書は複数の会議で使用され、出席した職員は「誰が何と言ったか分からないよう、議事録を残してはいけないと指示を受けた」と証言した。森友・加計学園の問題などを受け改正された「行政文書の管理に関するガイドライン」は打ち合わせの際、記録を作成するよう定めているが、骨抜きにしかねない実態が判明した。
文書は3月27日付の「公文書管理について」。A4判6ページで、同日開催された、経産省(中小企業庁など外局を含む)の筆頭課長補佐級職員約20人が出席する「政策企画委員会」で「事務連絡資料」として配布された。ガイドライン改正を受け、公文書管理を担当する「情報システム厚生課」が作成。今後の運用方針などがまとめられている。
ガイドラインが新たに「政策立案や事務及び事業の実施方針等に影響を及ぼす打ち合わせ等の記録については文書を作成する」と定めたことを引用したうえで、作成する「記録」について「『いつ、誰と、何の打ち合わせ』(をした)かが分かればよく、議事録のように、個別の発言まで記録する必要はない」と説明している。さらに、ガイドラインは意思決定など検証に必要な文書について1年以上保存するよう定めているが、問題の文書の表紙に、その保存期間を会議当日の「平成30年3月27日まで」と指定し、即日廃棄扱いにしている。
同課は取材に対し、「(指摘のような)文書を配布した記憶はある」としたうえで「必要な時に議事録を作り、そうでない時は必ずしも作る必要はないという意味であり、ガイドラインに反しない。(当日廃棄については)議論のための資料で、その場でしか使用しないためだ」と主張した。
しかし、経産省職員によると文書は別の会議でも使用された。この会議に出席した職員は「文書を示され、『(これから言うことは)メモを取らないように』と前置きがあったうえで『誰が何と言ったか分からないように、議事録は残してはいけない』と指示された」と証言した。さらに、経産省のある課で課員全員に文書が配布されたことを明かした上で「討議用の資料ではなく、文書管理強化に関する省内の周知文書。重要な文書であり廃棄すべきではない」と話した。
公文書管理全般を所管する内閣府の公文書管理課は、取材に対し「必要な場合は議事録を残し、そうでないなら残す必要はないという意味なら、経産省の文書の記載に問題はない。ただすべての議事録を残さない方針なら問題。(文書の保存期間については)ケース・バイ・ケースだ」としている。【小林直、向畑泰司】
【解説】 事実検証を妨げ 行政の問題封印
経産省の内部文書や、議事録作成を妨げる省内の指示は、公文書への信頼を大きく損なう。
ガイドライン改正につながった、森友・加計学園問題は、行政側に残された文書が発覚の引き金になった。加計学園の獣医学部新設を巡っては昨年5月に見つかった文部科学省の「メモ」に、早期開設について内閣府幹部が「総理のご意向」と発言したとの記載があった。森友学園への土地売却を巡っては、元理事長の籠池泰典被告=詐欺罪などで起訴=が安倍晋三首相の妻昭恵氏らの名前を挙げ、値下げを迫る記録が財務省から見つかった。
当時、今回の経産省のような運用がなされていれば、二つの問題が明らかにならなかった可能性が高い。どんな発言があったのか、検証できないからだ。
安倍首相は3月の参院予算委で、「ガイドラインを改正し公文書管理の質を高める取り組みを行った」と強調した。しかし、実態はかけ離れており、行政のブラックボックス化が進んでいるのではないか。【杉本修作】
経産省 「発言要らぬ」内部文書を公表 菅氏、問題視せず
毎日新聞 2018年8月30日
経済産業省が省内外の人物と折衝した際に作成する公文書について、「個別の発言まで記録する必要はない」などと指示する内部文書を作成していた問題で、同省は30日、問題の内部文書を公表した。毎日新聞が30日朝刊で報道したものとほぼ同じ内容。
この問題では、同省職員が毎日新聞の取材に「誰が何と言ったか分からないよう、議事録を残してはいけないと指示を受けた」と証言しており、この通り運用すれば全発言が公文書から欠落する可能性がある。同省情報システム厚生課は報道を受け、「議事録を残すな、と省として決めたことはない」と強調したうえで「研修などの機会で職員にきちんと説明する」と述べた。
毎日新聞の報道した文書は会議の場で配布された当日(3月27日)に廃棄するよう指定されていたが、今回公表された文書は「12月31日まで保存」となっている。保存期間の違いについて、同課は「(毎日新聞のものは)今回公表した文書を完成する過程で作成した」と説明した。
一方、菅義偉官房長官は30日の記者会見で「記録を残すということはきちっとしている」と経産省の運用に問題はないとの見解を示した。【向畑泰司、杉本修作】
共産・志位氏「国会で閉会中審査を」
共産党の志位和夫委員長は30日の記者会見で、経済産業省が政治家ら省内外の人物と折衝した際に作成する公文書について「個別の発言まで記録する必要はない」などと記載した内部文書を作成していた問題について、「極めて重大な内容だ。真相究明と責任の糾明を強く求めていきたい」と述べ、国会の閉会中審査を行うよう求める考えを示した。
志位氏は「骨抜きの事態が行われていたのが経産省だけだったのか。他の省庁ではないのかも含めて総ざらいの究明が必要だ」と指摘した。【影山哲也】.